一心君は、人狼です!

清澄 セイ

文字の大きさ
上 下
22 / 33
第七章「信頼できるトモダチ」

しおりを挟む
「えっ!神山さんが旅行!?」

 金曜の夜から土曜、日曜と、お店が忙しくてなかなか神山さんと話すことができなかったわたし達。月曜日は定休日だから、会えなかった。だから火曜日のお客さんが少ない時間を見計らって、神山さんと話をしようと思ったのに。

 朝、お母さんとお父さんにそのことを聞いて、わたしは目をまん丸にした。

「なによ、大声出して。別にいいじゃない、神山さんが旅行したって」
「彼には長年世話になってるからな。長野の避暑地に行ったらしいから、ゆっくり羽を伸ばしてほしいもんだ」
「神山さん、暑いのが苦手なんですって。いいわよねぇ、長野。私もいつか行ってみたい」

 お父さんとお母さんが笑顔で会話するのを、わたしはフクザツな心境で聞いていた。

 もちろん、神山さんが旅行に行くのはいいことだけど、まさかこのタイミングだとは思わなかった。

「三泊なんだろ?帰ってきたら聞けばいい」
「そうだけど…なんだかわたしがあせっちゃうね」

 ほっぺたをかきながら、アハハと笑う。一心君はいつも通りの無表情だったけど、ふいにポン、とわたしの頭に手をおいた。

「いろいろ、ありがと」
「い、一心君…どうしたの?」
「べ、別にどうもしない」

 勝手に顔が赤くなって、体中の血液が逆流したような変な感覚になる。心なしか一心君の耳も赤い気がして、ますます恥ずかしくなった。

「そうだね。大人しく待ってよう」
「ん」

 コクンとうなずいた一心君が、なんだか可愛い。わたしは笑って、学校へ行くための準備をはじめたのだった。



「日向、おはよ」
「おはよう、コマちゃん」

 あの手紙をもらってから、コマちゃんが毎朝迎えにきてくれるようになった。

 最初は「そこまでしなくていい」って断ったけど、コマちゃんはゆずらなかった。

「日向を守るのは昔から私の役目だから」って言ってくれて、改めてコマちゃんに感謝する。

 そう思ってくれる友達は、すごく貴重で大切な存在だ。

「ねぇ日向。あれから、なにかされてない?」
「えっ?うん、変わりないよ」
「絶対ムリしちゃ、ダメだからね!」
「ありがとう、コマちゃん」

 正直に言うと、手紙はあの一通だけじゃない。

 同じような内容のものが、何通も届いてる。下駄箱だったり、机の中だったり、カバンに勝手に入ってたこともある。

【忠告はした。覚悟しろ】

 一番最近の手紙にはそんな風に書かれてて、さすがに恐怖で冷や汗をかいた。

 ロン君は相変わらずだし、わたしを呼び出した先輩達は、わたしが人狼かもしれないってウワサを、本当に流してしまった。

 そのせいでクラスのみんなはなんだかよそよそしいし、学校中どこにいってもジロジロ見られてる気がして、毎日がゆううつだ。

 だけどコマちゃんや、ハルちゃんにエッコちゃん、月森君も今までと変わらず接してくれるから、絶対負けないって勇気がわく。

 犯人がもし【ウルフマン】に関わってるなら、野放しにするわけにはいかない。

 わたしだけじゃなく、一心君まで危険にさらされるのだけは、嫌だから。

「三ツ星さんっ!」

 わたしを呼ぶ声に振り向くと、月森君が猛ダッシュでこっちに走ってくるのが見える。あっという間に目の前まで来ると、おでこの汗を腕でグイッと拭った。

「月森君、おはよう」
「よかった、学校に着く前に会えて」
「えっ?」
「僕のせいで三ツ星さんがいろいろ言われるのは、嫌だから」

 前に月森君がロン君からわたしをかばってくれた時に、変なウワサをされてしまってから、月森君はずっと気をつかってくれてる。

「ごめんね。月森君まで巻き込んで」
「三ツ星さんが謝ることはないよ。全部、あの転校生のせいなんだから」
「そうだよ、日向はなんにも悪くない」

 ロン君のせい。それは、確かにそうだ。彼はわたしに嫌な思いをさせて、一心君から遠ざけようとしてる。だけどそれに、意味があるとは思えない。

 一心君にもロン君にも、プラスに働いてる気がしない。

「じゃあ、僕は先に行くよ」

 月森君はそう言って、大きく一歩をふみ出す。

「あれ?一緒に行かないの?」
「また余計なウワサを増やすわけには、いかないからね」

 さわやかに笑いながら、月森君は去っていった。

「アイツって、なんにも考えてないように見えて、実はいいヤツよね。うるさいけど」
「うん。すごく優しいよね」

 だんだん小さくなっていく背中を見つめながら、心の中がふんわり温かくなるのを感じた。

「コマちゃんや月森君みたいな幼なじみがいて、わたしはホントに幸せ者だよ」
「そんなのわたしだって、日向がいてくれてよかったって、いつも思ってるからね」
「コマちゃん……」
「それに、日向が練習した料理もお菓子も、いつも食べさせてもらえるし」
「アハハ、なにそれ」

 ニシシッと歯を見せながら笑うコマちゃんに、わたしも声を上げて笑う。

 友達の大切さを改めて感じながら、照りつける太陽に負けないように、グッと背筋を伸ばした。



「ひーなたちゃん」

 教室に着くと、ロン君がすぐにわたしのところまでやってくる。まだ少し早い時間なのに、もう来てるなんて。

「やだな、もう。そんな顔しなくてもいいじゃん」
「…おはよ、紅虎君」
「いつも通り、ロンでいいってば」

 今日もロン君は、ニコニコ笑ってる。本当はわたしなんてすきじゃないくせに、本音を隠して演技してる。

 朝から彼の顔を見ると、正直ゲンナリする。だけどわたしはふと、さっきの出来事を思い出した。

「わたしには、大好きな友達がいっぱいいるんだ。今朝もね、その子達と話しをして幸せな気分になった」
「ふぅん?そうなんだ」

 ロン君の笑顔のスキマから、興味がないって感情がもれ出してるのが、ちょっとおもしろい。

「友達は、いつもわたしの味方をしてくれる。だからわたしも、それに応えたいって思う。ロン君と一心君も、そういう友達なんでしょ?」
「は?急になに言い出して…」
「なんとなくそう思っただけだよ。ロン君は、彼が本当に嫌がることはしないんじゃないかなって」

 友達って、当たり前にいてくれるものじゃない。つらい気持ちを分け合った二人なら、なおさらそうだと思う。

「わたし達も、友達になれたらいいのに」

 そう言うと、ロン君の顔から笑顔が消える。初めて見る複雑そうな表情に、おどろいてしまう。

「…日向ちゃんって、マジでバカ」
「はいはい。それでいいですよ」
「でも、だから俺……」

 ロン君が最後まで言いきる前に、教室のドアのところで誰かがわたしの名前を呼んだ。

「三ツ星さん、先生呼んでたよ!家族から電話があったから、今すぐ職員室に来てほしいって!」
「えっ、電話?」

 さっき家を出たばっかりなのに、一体なんだろう。

 もしかして、一心君の身になにか……

「ありがとう、すぐ行く!」

 胸さわぎを感じたわたしは、慌てて教室を飛び出す。

「…ちょっと待って、日向ちゃん!」

 ロン君が焦ったような声色でわたしを呼び止めた気がしたけど、パニックで頭が回らない。

 とにかく職員室に行かなくちゃって、そのことしか考えられなくて。

 そのせいで、さっきわたしを呼んだ子に全く見覚えがないことに、気づくことができなかった。

 急いで階段を降りようとしたわたしは、手すりをつかむ。

 ドンッ!

 それよりももっと強い力で、急に後ろから誰かに押された。

「え……っ?」

 フワッと、体が宙に浮かぶ。なにが起きたのか、分からない。

「日向ちゃん!!」

 ロン君の叫び声が聞こえたけど、すぐ近くみたいな、ずっと遠くみたいな、変な感覚。

 わたし今、落ちてる……っ!

「やだ……っ」

 気づいた時には、もう遅い。ギュッと強く目を閉じて、わたしをおそうだろう衝撃を覚悟した。

「日向!」

 一瞬、名前を呼ばれただけで、その声の持ち主が誰なのかすぐに分かった。

 ここにいるはずのない、わたしの大切な友達。

「いっしん、くん……?」

 痛みの代わりに感じたのは、誰かの体温。目を開けたわたしの視界に一番に映ったのは、キャップのスキマから覗くキレイな金色の瞳だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...