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第六章「ロン君のズルい作戦」
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あの日から毎日二人でグラニータを食べてるけど、今のところ進展はなし。
どうしてあの一回だけ思い出せたのか、単なる偶然だったのか、それは分からないまま。
今日は金曜日の夜ということもあって、ウチのお店も忙しそう。お母さんから急きょおつかいを頼まれたわたしは、一心君と一緒に近所のスーパーへと向かった。
まさかついてきてくれるとは思ってなかったから、嬉しいのとドキドキするのとで体が忙しい。
無事頼まれたものを買って、わたし達は家へ帰る。
「夕方過ぎても、まだ蒸し暑いね」
「夏は、好きじゃない」
キャップを目深に被った一心君は、不機嫌そうな声でそう言った。彼が歩くたびに、スーパーのビニール袋がガサガサと音を立てる。
「荷物持ってくれてありがとう」
「別に」
一心君の「別に」にも、もうすっかり慣れた。わたし達は他愛ない話をしながら、いつもより少し速いスピードで歩いた。
「日向ちゃん」
店の裏口の前に神山さんが立ってる。わたしは驚いて、タタッと駆け寄った。
「神山さん!わざわざ外で待っててくれたんですか?」
「いや、ちょっと様子を見に出ただけだよ。もう暗くなるし、心配になって」
神山さんは真面目で表情も固いから、よく怖がられる。だけど本当は優しくて、小さな頃からわたしにもよくしてくれた。
「あれ、一人じゃなかったんだね」
神山さんは、わたしの後ろに立っている一心君にチラッと視線を向ける。
彼は小さくお辞儀をすると、持っていた袋を神山さんに差し出した。
「あっ、一心君はわたしの友達なんだ」
「……」
神山さんはなにも言わずに、一心君から袋を受け取る。
ドサッ
その瞬間、なぜか二人は袋を落とした。
スーパーで買ったじゃがいもが、コロコロと転がる。
「い、一心君…?」
わたしの声に、彼はハッとしたように反応すると、しゃがみ込んで落ちたものを拾った。
「君は……」
神山さんは目を見開いたまま、一心君から視線を逸らさない。
なにかを言いかけた瞬間、裏口のドアが勢いよく開かれた。
「神山さん、厨房ヤバイです!ってあれ、日向ちゃんだ」
ヒョコッと顔を覗かせたのは、倉橋さんだ。わたしと目が合うと、いつもの明るい声でわたしの名前を呼ぶ。
「足りない野菜を買いに行ってくれたんだ」
「そうなんですね。ありがとう日向ちゃん、助かったよ。今日やたらと忙しくてさ。神山さんはどこ行ったんだって、みんなテンパってますよ」
「すまない。すぐに戻る」
倉橋さんはニコッと笑った後、一心君から袋を受け取ると、そのままお店へと戻っていく。
「じゃあ、ありがとう日向ちゃん」
「あっ、い、いえ!」
ペコッと頭を下げるわたしを見て、神山さんはうなずきながら倉橋さんに続いていった。
「一心君、大丈夫?様子がおかしく見えたけど…」
閉まったドアを見つめたまま動かない一心君が心配になって、声をかける。
神山さんがウチの店で働きはじめたのは、一心君と心さんがいなくなった後だから、二人に面識はないはずなのに。
「…さっき、あの人の手に触れた一瞬、頭の中に映像が流れてきた」
こちらを向くことなく、一心君はつぶやく。
「映像?どんな?」
「一瞬だったしハッキリしないけど、小さい頃の俺と、たぶんお前がテーブルに座って、なんか食べながら誰かと話してた」
「食べながら…ってことは、場所はうちの店かな。誰かって、誰?」
「さぁ。男っぽい感じだった」
ウチの店で、食べながら、男の人…
必死にキオクをたぐり寄せようとするけど、パッと思いつくものがない。前みたいに、分かりやすい場面なら覚えてるけど、わたしも小さかったし忘れてることもたくさんある。
というより、その場面がなにかも重要だけど、一心君とは初対面であるはずの神山さんに触れた瞬間にそうなったってことが、すごく気になる。
「……あっ!」
わたしは、思いっきり大声を上げた。一心君の肩が、ピクッと反応する。
「なんだよ、急に」
「そういえばあの時、一番最初に食べたグラニータで一心君は過去を思い出したでしょ?あの時使ったオレンジをくれたのは、神山さんなんだよ」
「……」
一心君は、パーにした自分の手の平を、ジッと見つめていた。
「あとで、部屋で二人で整理してみよう。今日はお店が忙しくて話を聞けそうにないから、また明日にでも神山さんに聞いてみた方がよさそうだね」
まさか、神山さんが関わっているなんて夢にも思わなかった。というより、まだ関わりがあるのかどうかすらハッキリしてない。
だけどさっき、様子がおかしかったのは一心君だけじゃないように見えた。
もしかしたら神山さんにも、なにか秘密があるのかもしれない。
初めてつかんだ手がかりに、心臓がバクバク音を立ててる。
自分がもらった手紙のことは、すっかり頭から抜け落ちていた。
どうしてあの一回だけ思い出せたのか、単なる偶然だったのか、それは分からないまま。
今日は金曜日の夜ということもあって、ウチのお店も忙しそう。お母さんから急きょおつかいを頼まれたわたしは、一心君と一緒に近所のスーパーへと向かった。
まさかついてきてくれるとは思ってなかったから、嬉しいのとドキドキするのとで体が忙しい。
無事頼まれたものを買って、わたし達は家へ帰る。
「夕方過ぎても、まだ蒸し暑いね」
「夏は、好きじゃない」
キャップを目深に被った一心君は、不機嫌そうな声でそう言った。彼が歩くたびに、スーパーのビニール袋がガサガサと音を立てる。
「荷物持ってくれてありがとう」
「別に」
一心君の「別に」にも、もうすっかり慣れた。わたし達は他愛ない話をしながら、いつもより少し速いスピードで歩いた。
「日向ちゃん」
店の裏口の前に神山さんが立ってる。わたしは驚いて、タタッと駆け寄った。
「神山さん!わざわざ外で待っててくれたんですか?」
「いや、ちょっと様子を見に出ただけだよ。もう暗くなるし、心配になって」
神山さんは真面目で表情も固いから、よく怖がられる。だけど本当は優しくて、小さな頃からわたしにもよくしてくれた。
「あれ、一人じゃなかったんだね」
神山さんは、わたしの後ろに立っている一心君にチラッと視線を向ける。
彼は小さくお辞儀をすると、持っていた袋を神山さんに差し出した。
「あっ、一心君はわたしの友達なんだ」
「……」
神山さんはなにも言わずに、一心君から袋を受け取る。
ドサッ
その瞬間、なぜか二人は袋を落とした。
スーパーで買ったじゃがいもが、コロコロと転がる。
「い、一心君…?」
わたしの声に、彼はハッとしたように反応すると、しゃがみ込んで落ちたものを拾った。
「君は……」
神山さんは目を見開いたまま、一心君から視線を逸らさない。
なにかを言いかけた瞬間、裏口のドアが勢いよく開かれた。
「神山さん、厨房ヤバイです!ってあれ、日向ちゃんだ」
ヒョコッと顔を覗かせたのは、倉橋さんだ。わたしと目が合うと、いつもの明るい声でわたしの名前を呼ぶ。
「足りない野菜を買いに行ってくれたんだ」
「そうなんですね。ありがとう日向ちゃん、助かったよ。今日やたらと忙しくてさ。神山さんはどこ行ったんだって、みんなテンパってますよ」
「すまない。すぐに戻る」
倉橋さんはニコッと笑った後、一心君から袋を受け取ると、そのままお店へと戻っていく。
「じゃあ、ありがとう日向ちゃん」
「あっ、い、いえ!」
ペコッと頭を下げるわたしを見て、神山さんはうなずきながら倉橋さんに続いていった。
「一心君、大丈夫?様子がおかしく見えたけど…」
閉まったドアを見つめたまま動かない一心君が心配になって、声をかける。
神山さんがウチの店で働きはじめたのは、一心君と心さんがいなくなった後だから、二人に面識はないはずなのに。
「…さっき、あの人の手に触れた一瞬、頭の中に映像が流れてきた」
こちらを向くことなく、一心君はつぶやく。
「映像?どんな?」
「一瞬だったしハッキリしないけど、小さい頃の俺と、たぶんお前がテーブルに座って、なんか食べながら誰かと話してた」
「食べながら…ってことは、場所はうちの店かな。誰かって、誰?」
「さぁ。男っぽい感じだった」
ウチの店で、食べながら、男の人…
必死にキオクをたぐり寄せようとするけど、パッと思いつくものがない。前みたいに、分かりやすい場面なら覚えてるけど、わたしも小さかったし忘れてることもたくさんある。
というより、その場面がなにかも重要だけど、一心君とは初対面であるはずの神山さんに触れた瞬間にそうなったってことが、すごく気になる。
「……あっ!」
わたしは、思いっきり大声を上げた。一心君の肩が、ピクッと反応する。
「なんだよ、急に」
「そういえばあの時、一番最初に食べたグラニータで一心君は過去を思い出したでしょ?あの時使ったオレンジをくれたのは、神山さんなんだよ」
「……」
一心君は、パーにした自分の手の平を、ジッと見つめていた。
「あとで、部屋で二人で整理してみよう。今日はお店が忙しくて話を聞けそうにないから、また明日にでも神山さんに聞いてみた方がよさそうだね」
まさか、神山さんが関わっているなんて夢にも思わなかった。というより、まだ関わりがあるのかどうかすらハッキリしてない。
だけどさっき、様子がおかしかったのは一心君だけじゃないように見えた。
もしかしたら神山さんにも、なにか秘密があるのかもしれない。
初めてつかんだ手がかりに、心臓がバクバク音を立ててる。
自分がもらった手紙のことは、すっかり頭から抜け落ちていた。
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