一心君は、人狼です!

清澄 セイ

文字の大きさ
上 下
18 / 33
第五章「運命が動き出す音がする」

しおりを挟む
 一心君も部屋から出てきてくれたので、二人でいざカキ氷作り。といっても、彼は見てるだけらしい。

 制服を着替えた後、わたしがお気に入りのエプロンを着けるのを、一心君はダイニングテーブルに肘をつきながら見ていた。

「よし、しっかり凍ってる」

 昨日、冷凍庫に入れておいたフルーツ入りシロップ。いわゆる、シャーベットみたいなものだ。

「今から作るのは、“グラニータ”っていうイタリア版のカキ氷だよ。昔、二人でよく食べたんだ」
「ふうん」
「お祭りで食べるみたいなシロップのかかったのも美味しいけど、グラニータもすごくおいしいんだ!」
「へぇ」

 知ってるよ、一心君は昔と変わらず甘いものだ大好きだってこと。わざとそっけない返事をしてる彼を見ながら、内心ではニヤニヤしてしまった。

 小鍋に水とグラニュー糖を入れて、弱火にかける。焦げないよう混ぜながら、グラニュー糖が溶けたらそのままおいてあら熱をとったらシロップは完成。

 今回わたしはオレンジを絞って果汁にしたけど、ジュースを使っても美味しく作れそうだ。

 絞った果汁にレモン汁を少し加えて、シロップと混ぜ合わせる。これをバットに移し替えて、ラップをかけて冷凍庫で約二時間。そうしたら取り出して、バットの中でフォークを使って混ぜてシャーベットにする。

 冷凍庫に戻して、時間が経ったらまた出してかき混ぜて…を二、三回くり返したら、冷凍庫でひと晩。

 何度もかき混ぜるのは、カチカチに凍ってしまわないようにするためだって、お父さんから教わった。こうすることで、ふわふわになるって。

 この作業は昨日のうちにやっておいたから、今日は器に盛りつけるだけ。お湯につけたスプーンですくうと、やりやすい。これは、わたしがよく観てる動画サイトから教わった。

 ガラスの可愛いグラスに盛って、くし形に切ったオレンジとミントを乗せれば完成。

「じゃん!オレンジのグラニータです!」

 ライトに照らされて、キラキラ光るオレンジ色の宝石。一心君の頬っぺたがキュッと反応したのが分かる。

「見た目も可愛いでしょ?これからの季節にピッタリ!桃とかレモン、あとはスイカで作っても美味しいんだよ」
「すごいもんだな、こんなの作れるとか」
「将来はわたしがこのお店継ぎたいからね」

 素直にほめられると、ちょっと恥ずかしい。わたし達は手を合わせてから、グラニータをスプーンですくって口に運んだ。

 シャリッ

「んーっ、冷たい!」

 ヒンヤリとした食感と、シャリシャリなんだけどどこかフワッとした口当たり。オレンジのいい香りが広がって、シロップの甘さとちょうどよく合わさってる。

 サッパリしてるから、いくらでも食べられそうだ。

「おいしい…」
「でしょ?よかった!」

 一心君は一口食べてそう呟くと、それからもくもくとグラニータを頬張ってる。時々手が止まるのは、たぶんこめかみのところがキーンッ、ってなってるからなんだろうな。

「…ふふっ」

 つい笑ってしまったわたしを見て、一心君は完全に動きを止めた。

「あ、ごめんね?別にバカにして笑ったわけじゃなくて」
「俺…これひっくり返して泣いたこと、ある?」

 そのセリフに、わたしは思わずスプーンを落とした。

「あっ、あるよ!わたし覚えてる!これと同じオレンジのグラニータ、一心君は床に落として大泣きしたんだよ!もしかして、思い出したの!?」
「…いや、なんとなく頭に浮かんだだけ。ハッキリ思い出したわけじゃない」
「でも浮かんだんでしょ!?すごいよ!すごい進展だよ!」

 興奮するわたしを嫌そうな顔で見ながら、一心君はわたしが落としたスプーンを拾う。

「こっち使ったら?俺もう食べ終わったし」
「あっ、ありがとう」

 彼が差し出したのは落ちた方じゃなくて、自分がさっきまで使ってたスプーン。思わず受け取っちゃったけど、これって…

「いやいや!今はそんなこと言ってる場合じゃないから!」
「?」

 一人ツッコミしてるわたしと、首を傾げる一心君。彼はそのまま立ち上がると、わたしに背を向ける。

「ごちそうさま」
「あ、う、うん」

 まだ色々聞きたかったけど、一人でゆっくり考えたいのかもしれない。そう思って、わたしは彼を引き止めなかった。

 昔食べたグラニータを食べて、ぼんやりとでも記憶が戻った。だけどそれなら、オムライスやラスクを食べた時だってなにか思い出してもおかしくないはずなのに。

「これ、特別なものは使ってないけどなぁ。砂糖もレモンも買ってきたものだし、オレンジは神山さんからもらったものだけど、関係なさそうだし」

 神山さんは、【キッチン サニープレイス】のすご腕コックさん。一人でも十分お店が開けそうなのに、お父さんに恩があるからってずっと働いてくれてる。

 確か、一心君と心さんが出ていった少し後からだったような。今働いてる人達はみんなそうだから、たぶん一心君のキオクとは関係ない気がする。

「よし。これから毎日、一心君にはグラニータを食べてもらおう!」

 そう決意して、わたしは続きを食べようとする。だけどさっきのことを思い出して、ブワッと顔が熱くなる。

「これ、一心君のスプーンだよね…」

 恥ずかしいしドキドキするしで、それを使っては食べられなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...