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第五章「運命が動き出す音がする」
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一心君も部屋から出てきてくれたので、二人でいざカキ氷作り。といっても、彼は見てるだけらしい。
制服を着替えた後、わたしがお気に入りのエプロンを着けるのを、一心君はダイニングテーブルに肘をつきながら見ていた。
「よし、しっかり凍ってる」
昨日、冷凍庫に入れておいたフルーツ入りシロップ。いわゆる、シャーベットみたいなものだ。
「今から作るのは、“グラニータ”っていうイタリア版のカキ氷だよ。昔、二人でよく食べたんだ」
「ふうん」
「お祭りで食べるみたいなシロップのかかったのも美味しいけど、グラニータもすごくおいしいんだ!」
「へぇ」
知ってるよ、一心君は昔と変わらず甘いものだ大好きだってこと。わざとそっけない返事をしてる彼を見ながら、内心ではニヤニヤしてしまった。
小鍋に水とグラニュー糖を入れて、弱火にかける。焦げないよう混ぜながら、グラニュー糖が溶けたらそのままおいてあら熱をとったらシロップは完成。
今回わたしはオレンジを絞って果汁にしたけど、ジュースを使っても美味しく作れそうだ。
絞った果汁にレモン汁を少し加えて、シロップと混ぜ合わせる。これをバットに移し替えて、ラップをかけて冷凍庫で約二時間。そうしたら取り出して、バットの中でフォークを使って混ぜてシャーベットにする。
冷凍庫に戻して、時間が経ったらまた出してかき混ぜて…を二、三回くり返したら、冷凍庫でひと晩。
何度もかき混ぜるのは、カチカチに凍ってしまわないようにするためだって、お父さんから教わった。こうすることで、ふわふわになるって。
この作業は昨日のうちにやっておいたから、今日は器に盛りつけるだけ。お湯につけたスプーンですくうと、やりやすい。これは、わたしがよく観てる動画サイトから教わった。
ガラスの可愛いグラスに盛って、くし形に切ったオレンジとミントを乗せれば完成。
「じゃん!オレンジのグラニータです!」
ライトに照らされて、キラキラ光るオレンジ色の宝石。一心君の頬っぺたがキュッと反応したのが分かる。
「見た目も可愛いでしょ?これからの季節にピッタリ!桃とかレモン、あとはスイカで作っても美味しいんだよ」
「すごいもんだな、こんなの作れるとか」
「将来はわたしがこのお店継ぎたいからね」
素直にほめられると、ちょっと恥ずかしい。わたし達は手を合わせてから、グラニータをスプーンですくって口に運んだ。
シャリッ
「んーっ、冷たい!」
ヒンヤリとした食感と、シャリシャリなんだけどどこかフワッとした口当たり。オレンジのいい香りが広がって、シロップの甘さとちょうどよく合わさってる。
サッパリしてるから、いくらでも食べられそうだ。
「おいしい…」
「でしょ?よかった!」
一心君は一口食べてそう呟くと、それからもくもくとグラニータを頬張ってる。時々手が止まるのは、たぶんこめかみのところがキーンッ、ってなってるからなんだろうな。
「…ふふっ」
つい笑ってしまったわたしを見て、一心君は完全に動きを止めた。
「あ、ごめんね?別にバカにして笑ったわけじゃなくて」
「俺…これひっくり返して泣いたこと、ある?」
そのセリフに、わたしは思わずスプーンを落とした。
「あっ、あるよ!わたし覚えてる!これと同じオレンジのグラニータ、一心君は床に落として大泣きしたんだよ!もしかして、思い出したの!?」
「…いや、なんとなく頭に浮かんだだけ。ハッキリ思い出したわけじゃない」
「でも浮かんだんでしょ!?すごいよ!すごい進展だよ!」
興奮するわたしを嫌そうな顔で見ながら、一心君はわたしが落としたスプーンを拾う。
「こっち使ったら?俺もう食べ終わったし」
「あっ、ありがとう」
彼が差し出したのは落ちた方じゃなくて、自分がさっきまで使ってたスプーン。思わず受け取っちゃったけど、これって…
「いやいや!今はそんなこと言ってる場合じゃないから!」
「?」
一人ツッコミしてるわたしと、首を傾げる一心君。彼はそのまま立ち上がると、わたしに背を向ける。
「ごちそうさま」
「あ、う、うん」
まだ色々聞きたかったけど、一人でゆっくり考えたいのかもしれない。そう思って、わたしは彼を引き止めなかった。
昔食べたグラニータを食べて、ぼんやりとでも記憶が戻った。だけどそれなら、オムライスやラスクを食べた時だってなにか思い出してもおかしくないはずなのに。
「これ、特別なものは使ってないけどなぁ。砂糖もレモンも買ってきたものだし、オレンジは神山さんからもらったものだけど、関係なさそうだし」
神山さんは、【キッチン サニープレイス】のすご腕コックさん。一人でも十分お店が開けそうなのに、お父さんに恩があるからってずっと働いてくれてる。
確か、一心君と心さんが出ていった少し後からだったような。今働いてる人達はみんなそうだから、たぶん一心君のキオクとは関係ない気がする。
「よし。これから毎日、一心君にはグラニータを食べてもらおう!」
そう決意して、わたしは続きを食べようとする。だけどさっきのことを思い出して、ブワッと顔が熱くなる。
「これ、一心君のスプーンだよね…」
恥ずかしいしドキドキするしで、それを使っては食べられなかった。
制服を着替えた後、わたしがお気に入りのエプロンを着けるのを、一心君はダイニングテーブルに肘をつきながら見ていた。
「よし、しっかり凍ってる」
昨日、冷凍庫に入れておいたフルーツ入りシロップ。いわゆる、シャーベットみたいなものだ。
「今から作るのは、“グラニータ”っていうイタリア版のカキ氷だよ。昔、二人でよく食べたんだ」
「ふうん」
「お祭りで食べるみたいなシロップのかかったのも美味しいけど、グラニータもすごくおいしいんだ!」
「へぇ」
知ってるよ、一心君は昔と変わらず甘いものだ大好きだってこと。わざとそっけない返事をしてる彼を見ながら、内心ではニヤニヤしてしまった。
小鍋に水とグラニュー糖を入れて、弱火にかける。焦げないよう混ぜながら、グラニュー糖が溶けたらそのままおいてあら熱をとったらシロップは完成。
今回わたしはオレンジを絞って果汁にしたけど、ジュースを使っても美味しく作れそうだ。
絞った果汁にレモン汁を少し加えて、シロップと混ぜ合わせる。これをバットに移し替えて、ラップをかけて冷凍庫で約二時間。そうしたら取り出して、バットの中でフォークを使って混ぜてシャーベットにする。
冷凍庫に戻して、時間が経ったらまた出してかき混ぜて…を二、三回くり返したら、冷凍庫でひと晩。
何度もかき混ぜるのは、カチカチに凍ってしまわないようにするためだって、お父さんから教わった。こうすることで、ふわふわになるって。
この作業は昨日のうちにやっておいたから、今日は器に盛りつけるだけ。お湯につけたスプーンですくうと、やりやすい。これは、わたしがよく観てる動画サイトから教わった。
ガラスの可愛いグラスに盛って、くし形に切ったオレンジとミントを乗せれば完成。
「じゃん!オレンジのグラニータです!」
ライトに照らされて、キラキラ光るオレンジ色の宝石。一心君の頬っぺたがキュッと反応したのが分かる。
「見た目も可愛いでしょ?これからの季節にピッタリ!桃とかレモン、あとはスイカで作っても美味しいんだよ」
「すごいもんだな、こんなの作れるとか」
「将来はわたしがこのお店継ぎたいからね」
素直にほめられると、ちょっと恥ずかしい。わたし達は手を合わせてから、グラニータをスプーンですくって口に運んだ。
シャリッ
「んーっ、冷たい!」
ヒンヤリとした食感と、シャリシャリなんだけどどこかフワッとした口当たり。オレンジのいい香りが広がって、シロップの甘さとちょうどよく合わさってる。
サッパリしてるから、いくらでも食べられそうだ。
「おいしい…」
「でしょ?よかった!」
一心君は一口食べてそう呟くと、それからもくもくとグラニータを頬張ってる。時々手が止まるのは、たぶんこめかみのところがキーンッ、ってなってるからなんだろうな。
「…ふふっ」
つい笑ってしまったわたしを見て、一心君は完全に動きを止めた。
「あ、ごめんね?別にバカにして笑ったわけじゃなくて」
「俺…これひっくり返して泣いたこと、ある?」
そのセリフに、わたしは思わずスプーンを落とした。
「あっ、あるよ!わたし覚えてる!これと同じオレンジのグラニータ、一心君は床に落として大泣きしたんだよ!もしかして、思い出したの!?」
「…いや、なんとなく頭に浮かんだだけ。ハッキリ思い出したわけじゃない」
「でも浮かんだんでしょ!?すごいよ!すごい進展だよ!」
興奮するわたしを嫌そうな顔で見ながら、一心君はわたしが落としたスプーンを拾う。
「こっち使ったら?俺もう食べ終わったし」
「あっ、ありがとう」
彼が差し出したのは落ちた方じゃなくて、自分がさっきまで使ってたスプーン。思わず受け取っちゃったけど、これって…
「いやいや!今はそんなこと言ってる場合じゃないから!」
「?」
一人ツッコミしてるわたしと、首を傾げる一心君。彼はそのまま立ち上がると、わたしに背を向ける。
「ごちそうさま」
「あ、う、うん」
まだ色々聞きたかったけど、一人でゆっくり考えたいのかもしれない。そう思って、わたしは彼を引き止めなかった。
昔食べたグラニータを食べて、ぼんやりとでも記憶が戻った。だけどそれなら、オムライスやラスクを食べた時だってなにか思い出してもおかしくないはずなのに。
「これ、特別なものは使ってないけどなぁ。砂糖もレモンも買ってきたものだし、オレンジは神山さんからもらったものだけど、関係なさそうだし」
神山さんは、【キッチン サニープレイス】のすご腕コックさん。一人でも十分お店が開けそうなのに、お父さんに恩があるからってずっと働いてくれてる。
確か、一心君と心さんが出ていった少し後からだったような。今働いてる人達はみんなそうだから、たぶん一心君のキオクとは関係ない気がする。
「よし。これから毎日、一心君にはグラニータを食べてもらおう!」
そう決意して、わたしは続きを食べようとする。だけどさっきのことを思い出して、ブワッと顔が熱くなる。
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