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第五章「運命が動き出す音がする」
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その日の昼休み、いつも通りハルちゃんエッコちゃんと机をくっつけ合う。
「ねぇねぇ、二人はどう?紅虎君」
恋愛ゴシップ大好きハルちゃんが、わたした達に顔を近づけた。ちなみにロン君の周りには、男女問わずたくさんの人が集まってる。
「どうって?」
「タイプかどうかって話に決まってるじゃん!」
「そんなの、今日すぐ分かるものなの?どんな性格かも知らないのに」
エッコちゃんの言い分はもっともだ。
「そんなカタイ話じゃなくてさぁ。もっとこう、ちょっといいかな?アリかな?みたいな。あ、ちなみにあたしはめっちゃアリ!の方向で」
ハルちゃん、顔がイキイキしてる…
「わたしはあんまり…なんとなく怖いっていうか、近寄りがたい感じがする。ノリよくて明るい雰囲気ではあるけど」
エッコちゃんの言葉に、わたしはしっかり頷く。
「サンちゃんはどう?」
「わ、わたしは」
「いや、月森が黙ってないか」
なぜか答える前に、ハルちゃんに遮られてしまった。
「なんで月森君の名前が出てくるの?」
「どう見てもサンちゃんのこと好きじゃん」
「えっ、ええ!?」
「だって優しいし、よくしゃべってるし」
「それ、わたしにだけじゃないよ。月森君は誰にでもそうだよ、人によって態度を変えたりしない」
反論すると、ハルちゃんは「それはまぁ、そうかもだけど」と言いながらも、納得したようなしてないような微妙な反応をする。
「しかし、これは勢力が二分しそうだね。月森派vs紅虎派で」
「戦ったりしないでしょ…」
ワクワクしてるハルちゃんと、呆れたようなエッコちゃん。ロン君の話題にどう反応したらいいか迷っていたわたしの肩を、誰かが軽く叩く。
「どーも。日向ちゃん」
ニッコリ
そう効果音がつきそうな、ロン君の笑顔。わたしは思わず立ち上がり、その拍子にイスがガタンと音を立てた。
「えっ、サンちゃん知り合いなの!?」
二人がビックリしてわたしとロン君を交互に見てる。
なにを考えてるのか読めない表情のロン君は、楽しそうな声でもう一度わたしの名前を呼んだ。
「今日の放課後、校舎の案内お願いしたいんだけど、ダメかな?」
「…いいけど」
ちゃんと話さなきゃ。彼の目的を知らなきゃ、一心君の身が危険だ。
「やった。ありがと日向ちゃん」
ポンッ
自然な動作で、ロク君はわたしの頭に手を置く。その瞬間、一部の女子達から「キャーッ!」っと小さな悲鳴が上がった。
「じゃ、また放課後に」
…ロン君、今の絶対わざとだ。そう思ってもなにも言えないまま、ただ彼の背中を睨みつけることしかできなかった。
そして放課後、ロン君はまた周りに聞こえるような声でわたしの名前を呼んだ。
「日向ちゃんに案内してもらえるなんて嬉しいな」
「…ちょっと、こっち」
教室にはまだまばらに人が残ってるから、わたしは小声でロン君に促す。彼は意外と、素直についてきた。
「こんな場所まで来て、どういうつもりなの?言っておくけど、一心君に危害を加えたら許さないから」
人気のない校舎のすみっこで、自分が出せる一番低い声を出しながらロン君と向かい合う。彼はそんなことちっとも意に介さない様子で、余裕の笑顔でわたしを見下ろしていた。
「なんか勘違いしてるみたいだから言っとくけど、俺は一心の味方だし、どうこうするつもりとかない」
「そっ、そんなこと、信用できない…っ」
「別に、あんたに信用してもらわなくていいから。余計なことだけは、しないでくれる?俺はただ、全部元通りにしたいだけだから」
一歩、ロン君がこちらに近づく。無意識に後退りしたわたしの耳に、ジャリッという音が響いた。
「一心がなんであんたなんかのところにいるのか分かんないけど、ヒジョーに迷惑なんだよね。俺達は人間とは馴れ合わないし、アイツは特にそうだ」
「ど、どうしてそんなに…」
「俺もアイツも、人間に家族をうばわれた。そんなやつらと、どうやって仲良くなれって言うの?ムリでしょ」
ロン君は、フンと鼻で笑う。
「一心もそのうち気づく。自分の居場所は“こっち”だってね」
「一心君は、あなた達とは違う!暴れたり壊したり、誰かを傷つけて平気でいられるようなヒトじゃない!」
「黙れよ。アイツになにもしてやれない、ただの人間が」
最初の好意的な態度は、やっぱり全部演技だったんだ。ロン君からは、わたしのことが嫌いだって感情がヒシヒシと伝わってくる。
ううん、わたしだけじゃない。
彼は、人間そのものが嫌いなんだ。
「…わたしは、いつか人狼も人も関係なく仲良く暮らせる世界になればいいって、そう思ってる」
本当は、すごく怖い。ロン君の唇のスキマから時折覗く、小さなキバも。きっとわたしなんか、どうあがいたって敵わない。
だけど、それでも。
負けたくない。嘘は、吐きたくない。
昔の一心君も、今の一心君も、わたしにとっては大好きで大切な友達。そこには、人狼だとか人間だとか、そんなこと関係ない。
「一心君は、渡さない。わたしが守ってみせる…!」
震える手を必死に隠して、ロン君を睨みつける。彼は一瞬怒ったように眉を吊り上げたけど、それはすぐため息に変わった。
「ホント、なんにも分かってないよ、アンタ。人間が正しくて俺ら【ウルフマン】が悪だって、どうせただの決めつけでしょ?まぁ別に、わざわざ説明なんてしないけどさ」
「え…っ、それってどういう…」
わたしの問いかけに、ロン君は答えない。
彼はその長くてキレイな人差し指を、ピシッとわたしに突きつけた。
「どうなっても、後悔しないでよね。俺はちゃんと、忠告したから」
ロン君は目を細めたまま、クルッと背を向ける。
「あっ、待って!」
「なに?」
「校舎の案内は、しなくていいの?」
わたしがそう言うと彼は一瞬かたまって、それからクツクツと小さく笑った。
「日向ちゃんって、ホント、バカ」
「な……っ」
「まぁいいや。拜拜(バイバイ)」
ヒラヒラ手を振りながら、ロン君は行ってしまった。まだ、言いたいことも聞きたいこともたくさんあったのに。
「一心君……」
ロン君に言われたことが、頭の中で回ってる。なにが正しくてなにが間違ってるのか、果たして彼は、そして【ウルフマン】というグループは、本当に悪いヒト達なのか。
少し考えただけじゃ、とてもじゃないけど答えは出せそうになかった。
「ねぇねぇ、二人はどう?紅虎君」
恋愛ゴシップ大好きハルちゃんが、わたした達に顔を近づけた。ちなみにロン君の周りには、男女問わずたくさんの人が集まってる。
「どうって?」
「タイプかどうかって話に決まってるじゃん!」
「そんなの、今日すぐ分かるものなの?どんな性格かも知らないのに」
エッコちゃんの言い分はもっともだ。
「そんなカタイ話じゃなくてさぁ。もっとこう、ちょっといいかな?アリかな?みたいな。あ、ちなみにあたしはめっちゃアリ!の方向で」
ハルちゃん、顔がイキイキしてる…
「わたしはあんまり…なんとなく怖いっていうか、近寄りがたい感じがする。ノリよくて明るい雰囲気ではあるけど」
エッコちゃんの言葉に、わたしはしっかり頷く。
「サンちゃんはどう?」
「わ、わたしは」
「いや、月森が黙ってないか」
なぜか答える前に、ハルちゃんに遮られてしまった。
「なんで月森君の名前が出てくるの?」
「どう見てもサンちゃんのこと好きじゃん」
「えっ、ええ!?」
「だって優しいし、よくしゃべってるし」
「それ、わたしにだけじゃないよ。月森君は誰にでもそうだよ、人によって態度を変えたりしない」
反論すると、ハルちゃんは「それはまぁ、そうかもだけど」と言いながらも、納得したようなしてないような微妙な反応をする。
「しかし、これは勢力が二分しそうだね。月森派vs紅虎派で」
「戦ったりしないでしょ…」
ワクワクしてるハルちゃんと、呆れたようなエッコちゃん。ロン君の話題にどう反応したらいいか迷っていたわたしの肩を、誰かが軽く叩く。
「どーも。日向ちゃん」
ニッコリ
そう効果音がつきそうな、ロン君の笑顔。わたしは思わず立ち上がり、その拍子にイスがガタンと音を立てた。
「えっ、サンちゃん知り合いなの!?」
二人がビックリしてわたしとロン君を交互に見てる。
なにを考えてるのか読めない表情のロン君は、楽しそうな声でもう一度わたしの名前を呼んだ。
「今日の放課後、校舎の案内お願いしたいんだけど、ダメかな?」
「…いいけど」
ちゃんと話さなきゃ。彼の目的を知らなきゃ、一心君の身が危険だ。
「やった。ありがと日向ちゃん」
ポンッ
自然な動作で、ロク君はわたしの頭に手を置く。その瞬間、一部の女子達から「キャーッ!」っと小さな悲鳴が上がった。
「じゃ、また放課後に」
…ロン君、今の絶対わざとだ。そう思ってもなにも言えないまま、ただ彼の背中を睨みつけることしかできなかった。
そして放課後、ロン君はまた周りに聞こえるような声でわたしの名前を呼んだ。
「日向ちゃんに案内してもらえるなんて嬉しいな」
「…ちょっと、こっち」
教室にはまだまばらに人が残ってるから、わたしは小声でロン君に促す。彼は意外と、素直についてきた。
「こんな場所まで来て、どういうつもりなの?言っておくけど、一心君に危害を加えたら許さないから」
人気のない校舎のすみっこで、自分が出せる一番低い声を出しながらロン君と向かい合う。彼はそんなことちっとも意に介さない様子で、余裕の笑顔でわたしを見下ろしていた。
「なんか勘違いしてるみたいだから言っとくけど、俺は一心の味方だし、どうこうするつもりとかない」
「そっ、そんなこと、信用できない…っ」
「別に、あんたに信用してもらわなくていいから。余計なことだけは、しないでくれる?俺はただ、全部元通りにしたいだけだから」
一歩、ロン君がこちらに近づく。無意識に後退りしたわたしの耳に、ジャリッという音が響いた。
「一心がなんであんたなんかのところにいるのか分かんないけど、ヒジョーに迷惑なんだよね。俺達は人間とは馴れ合わないし、アイツは特にそうだ」
「ど、どうしてそんなに…」
「俺もアイツも、人間に家族をうばわれた。そんなやつらと、どうやって仲良くなれって言うの?ムリでしょ」
ロン君は、フンと鼻で笑う。
「一心もそのうち気づく。自分の居場所は“こっち”だってね」
「一心君は、あなた達とは違う!暴れたり壊したり、誰かを傷つけて平気でいられるようなヒトじゃない!」
「黙れよ。アイツになにもしてやれない、ただの人間が」
最初の好意的な態度は、やっぱり全部演技だったんだ。ロン君からは、わたしのことが嫌いだって感情がヒシヒシと伝わってくる。
ううん、わたしだけじゃない。
彼は、人間そのものが嫌いなんだ。
「…わたしは、いつか人狼も人も関係なく仲良く暮らせる世界になればいいって、そう思ってる」
本当は、すごく怖い。ロン君の唇のスキマから時折覗く、小さなキバも。きっとわたしなんか、どうあがいたって敵わない。
だけど、それでも。
負けたくない。嘘は、吐きたくない。
昔の一心君も、今の一心君も、わたしにとっては大好きで大切な友達。そこには、人狼だとか人間だとか、そんなこと関係ない。
「一心君は、渡さない。わたしが守ってみせる…!」
震える手を必死に隠して、ロン君を睨みつける。彼は一瞬怒ったように眉を吊り上げたけど、それはすぐため息に変わった。
「ホント、なんにも分かってないよ、アンタ。人間が正しくて俺ら【ウルフマン】が悪だって、どうせただの決めつけでしょ?まぁ別に、わざわざ説明なんてしないけどさ」
「え…っ、それってどういう…」
わたしの問いかけに、ロン君は答えない。
彼はその長くてキレイな人差し指を、ピシッとわたしに突きつけた。
「どうなっても、後悔しないでよね。俺はちゃんと、忠告したから」
ロン君は目を細めたまま、クルッと背を向ける。
「あっ、待って!」
「なに?」
「校舎の案内は、しなくていいの?」
わたしがそう言うと彼は一瞬かたまって、それからクツクツと小さく笑った。
「日向ちゃんって、ホント、バカ」
「な……っ」
「まぁいいや。拜拜(バイバイ)」
ヒラヒラ手を振りながら、ロン君は行ってしまった。まだ、言いたいことも聞きたいこともたくさんあったのに。
「一心君……」
ロン君に言われたことが、頭の中で回ってる。なにが正しくてなにが間違ってるのか、果たして彼は、そして【ウルフマン】というグループは、本当に悪いヒト達なのか。
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