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第六章「手作りクッキーの意味」

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試合会場は熱気に包まれていて、汗が止まらないくらい暑い。私ははーちゃんや他の一年生達と一緒に、喉が枯れるくらい声を張り上げて先輩達の応援をした。

いつもの体操服とは違うユニフォーム姿が、凄くカッコいい。特に部長の美山先輩のペアは、難なく三回戦に進出を決めていて、砂埃が舞うコートの中でもキラキラと輝いていた。

私もいつかあんな風に、堂々とコートに立てるようになりたい。もしも試合に出られたら、甘崎君応援に来てくれたりするかな…

なんて、こんな場所でも彼のことを思い出しちゃうなんて。

「はーちゃん、私ちょっと飲み物買ってくるっ」

気温とは関係なく顔が熱くなったから、少し落ち着こうと思って私は一人自販機までやってきた。

「あれ、白石さん」

「お、王寺先輩!お疲れ様ですっ」

「お疲れ様」

そこで偶然、王寺先輩がスポーツドリンクを買ってる所に出くわした。赤と黒のユニフォーム姿の先輩は、いつもより何倍にも増してかっこいい。

思わずポーッと見惚れてたけど、私は慌てて胸の前で拳を握り締めた。

「次の試合も応援してます!頑張ってください!」

先輩達の話では、王寺先輩のペアも三回戦に進出したらしい。私が応援するのは主に女子コートの方だけど、心の中では常に王寺先輩にエールを送ってる。

「ありがとう。白石さんにそう言ってもらえると、次も勝てそうな気がしてくるよ」

さすが王寺先輩。こんな時でも私を気遣ってくれるなんて、ホントにいい人だ。

「じゃあ私、行きますね」

「待って白石さん」

王寺先輩が、パシッと私の手を掴む。驚いて、思わず手に持っていたペットボトルがゴトッと地面に落ちた。

「お、王寺先輩」

「試合が終わったら、練習も落ち着くと思うから。そしたら今度、二人でどこか出かけない?」

「あ、あの…」

視線を左右にさまよわせる私を見て、王寺先輩はパッと手を離す。もう触れられていないのに、その部分だけが熱い。

私が地面に落としたペットボトルを拾って、王寺先輩はニコリと笑った。

「ごめんね、急に誘ったりして。白石さんの顔見たら言いたくなっちゃって。返事は今度でいいから」

「あ…はい」

「試合、頑張ってくるね」

王寺先輩は軽く片手を上げると、そのまま去っていく。どうして即答できなかったのか自分でも分からないまま、手の中の少し潰れたペットボトルをジッと見つめた。

「ツバサ今日はお弁当?自分で作ったの?」

お昼の時間になり、甘崎君からもらったお弁当を広げる。丁寧に保冷剤までつけてあるそれに、私は丁寧に手を合わせた。

「まさか、違うよ」

「じゃあ、お母さん?」

「まぁそんなところ」

心の中ではーちゃんに謝りながら蓋を開けると、フワッといい匂いが鼻をくすぐった。

「ハンバーグだ…」

私の好きなもの。前に甘崎君が作ってくれた時大げさなくらいに喜んで、呆れながら笑われたっけ。

口いっぱいに広がるデミグラスソースの甘い味に、私の胸は苦しいくらいにドキドキしてしかたなかった。
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