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第六章「手作りクッキーの意味」

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「ツバサさん、変な顔してるけど大丈夫ですか?」

シュタロー君が真面目な表情でジッと私の顔を覗き込んだ。

「う、うん。大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

自分の頬っぺたをつまみながら、シュタロー君に向かってニコッと笑う。私変な顔してたのか…気をつけなくちゃ。

「兄ちゃんって、いつもああなんですよね」

「えっ?」

「特技が、我慢することなんですよ」

彼の言葉に、私は驚く。シュタロー君は赤く光ってるオーブンを見つめながら、淡々とした声で続けた。

「母さんが死んだ時から、ずっとそうです。俺達の為にやりたくないことやって、自分の時間もなくて、言いたいこともすぐ我慢するし」

「シュタロー君…」

「俺達全員、兄ちゃんのこと好きです。でもそれって、兄ちゃんの負担になってるよなって」

「それは違うと思うなぁ」

私はシュタロー君の目を見つめながら、もう一度ニコッと笑った。

「私は甘崎君と知り合ってまだ短いから、全部を知ってるわけじゃないけど。普段学校ではクールな甘崎君が一番楽しそうな顔してるのって、皆の話をしてる時と献立考えてる時だと思うんだよね」

「献立…確かに」

「私前に甘崎君のこと凄いって褒めたことがあるんだけど、甘崎君言ってたよ。家族だから当たり前だって。私はそんな発言も凄いなって思っちゃったんだけど」

甘崎家の兄弟は皆、お互いがお互いを思ってる。それって、ただ兄弟だからって理由だけじゃないと思う。甘崎君が何でもないことみたいにやってることが、ちゃんと皆に届いてるんだ。

私は兄弟もいなくていつも一人だから偉そうなことは言えないけど、こういう絆みたいなものって羨ましいなって純粋に思う。

「だからえーっと、何が言いたいかというとね?そんな風にお兄ちゃんのことを考えられるシュタロー君も、ギンガ君もミドリ君もアオ君も、皆凄いんだよ!間違いないよ」

シュタロー君が五年生だってことを忘れて、つい長々と語ってしまった。見た目も話し方も大人っぽくて背も高くて、私より全然しっかりして見えるもんなぁ。

お兄ちゃん思いの優しい男の子だ。

「ツバサさん、熱いですね」

「あ、熱かった?アハハ、恥ずかしいな」

「でも嬉しいです、ありがとうございます」

柔らかく笑うシュタロー君を見て、胸がフワッと温かくなる。

「ツバサさんが来てくれるようになってから、ミドリ達もだけど特に兄ちゃんも嬉しそうに見えます」

「え…っ」

「兄ちゃんは絶対、そんなこと言わないと思うけど。俺達の世話ばっかりやいて、自分は我慢ばっかりだから」

「しかも目つき悪くて怖いし、昔から友達もいるのかどうか分かんないし。だからツバサさんが兄ちゃんのこと、ちゃんと見てくれててよかったです」

シュタロー君はペコッと頭を下げると、そのまま向こうに行ってしまう。

その時不意に、フワッと甘い匂いが漂ってきて、なんだか胸の中がいっぱいになった。
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