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第五章「タイセツだと思うから」
①
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ーー
それから数日が経った。王寺先輩と一緒に帰った日のことを思い出しては、一人でにやけたりしてたんだけど。
ふとした瞬間に隣から甘崎君家族の声が聞こえてくると、あの日の甘崎君の顔を思い出して胸がギュウッと苦しくなった。
いつのまにか私は、家の中にいてもイヤホンをつけることがなくなった。
甘崎君が「耳が悪くなる」ってお母さんみたいな心配してくれたのが、おもしろかったなぁ。
シンとした部屋が苦手だったけど、甘崎兄弟と仲良くなってからはなぜか寂しいと思わなくなった。
私はいつも、甘崎君に助けてもらってばかり。私も何か、甘崎君の役に立てることがあればいいのに。
そう思っても、あのクッキーの件で嫌われたんじゃないかって思ったら、学校でもなかなか話しかける勇気が持てなかった。
「やっぱりまだ元気ないね。せっかく王寺先輩と一緒に帰れたっていうのに」
お昼休み。パンを半分しか食べなかった私に、はーちゃんが私の顔を覗き込みながらそう言う。
この間からはーちゃんにも心配かけてばかりで申し訳なくて、早く元気にならなくちゃって思うんだけど。
教室で甘崎君を見かけるたびに、どうしても胸が苦しくなる。もう話せないのかと思うと、鼻の奥がツンとする。
私は自分で思ってる以上に、甘崎君に救われてたんだ。
「ねぇ、はーちゃん」
私は甘崎君の席の方を見ながら、はーちゃんの名前を呼ぶ。彼の席には、今誰もいない。お昼休みは、大体そこで本を読んでることが多いのに。
「今日、甘崎君ちょっと元気なかった?」
「えっ、甘崎君?」
急に彼の名前が出てきたことに驚いたのか、彼女が目をまん丸にする。それもそうだよね。甘崎君、学校では私はもちろん女子とほとんど話したりしないし。
「よく見てないけど、別にいつもと変わらないんじゃない?」
「そうかなぁ…何か顔色が悪く見えたんだよね」
「ツバサが王寺先輩以外の男子を気にするなんて、珍しいね。甘崎君と仲良かったっけ?」
「そういうわけじゃないんだけど…」
甘崎君と家が隣同士になったことを、私はまだ誰にも話してない。はーちゃんに嘘をついてるのは心苦しかったけど、甘崎君は目立つことを嫌がるんじゃないかと思ったから。
「甘崎君って謎だよね。私達とは小学校違ったしさ。楽しそうに喋ってるところとかも見たことないし」
「でもいい人だよ、甘崎君は」
つい反論してしまった。はーちゃんはビックリしたように目を丸くする。
「な、何かそんな感じするなぁって!怒ったりしなさそうっていうか」
「まぁ、それは確かに」
「あっ、予鈴鳴った!」
タイミングよく予鈴のチャイムが鳴って、私は慌てて自分の席に戻る。彼女は納得いかなそうな顔をしながらも、それ以上は何も言わなかった。
それから本鈴が鳴った後も甘崎君の席は空っぽのままで、先生はそのまま授業を始める。
甘崎君、どうしたんだろう…
そう思っていたら、保健室の先生が甘崎君のカバンを取りに来た。どうやら、体調が悪くて早退するみたいだ。
やっぱり、顔色が悪そうに見えたのは気のせいじゃなかったんだ。
こんなことなら教室にいた時に声をかければよかったと、私は凄く後悔した。
それから数日が経った。王寺先輩と一緒に帰った日のことを思い出しては、一人でにやけたりしてたんだけど。
ふとした瞬間に隣から甘崎君家族の声が聞こえてくると、あの日の甘崎君の顔を思い出して胸がギュウッと苦しくなった。
いつのまにか私は、家の中にいてもイヤホンをつけることがなくなった。
甘崎君が「耳が悪くなる」ってお母さんみたいな心配してくれたのが、おもしろかったなぁ。
シンとした部屋が苦手だったけど、甘崎兄弟と仲良くなってからはなぜか寂しいと思わなくなった。
私はいつも、甘崎君に助けてもらってばかり。私も何か、甘崎君の役に立てることがあればいいのに。
そう思っても、あのクッキーの件で嫌われたんじゃないかって思ったら、学校でもなかなか話しかける勇気が持てなかった。
「やっぱりまだ元気ないね。せっかく王寺先輩と一緒に帰れたっていうのに」
お昼休み。パンを半分しか食べなかった私に、はーちゃんが私の顔を覗き込みながらそう言う。
この間からはーちゃんにも心配かけてばかりで申し訳なくて、早く元気にならなくちゃって思うんだけど。
教室で甘崎君を見かけるたびに、どうしても胸が苦しくなる。もう話せないのかと思うと、鼻の奥がツンとする。
私は自分で思ってる以上に、甘崎君に救われてたんだ。
「ねぇ、はーちゃん」
私は甘崎君の席の方を見ながら、はーちゃんの名前を呼ぶ。彼の席には、今誰もいない。お昼休みは、大体そこで本を読んでることが多いのに。
「今日、甘崎君ちょっと元気なかった?」
「えっ、甘崎君?」
急に彼の名前が出てきたことに驚いたのか、彼女が目をまん丸にする。それもそうだよね。甘崎君、学校では私はもちろん女子とほとんど話したりしないし。
「よく見てないけど、別にいつもと変わらないんじゃない?」
「そうかなぁ…何か顔色が悪く見えたんだよね」
「ツバサが王寺先輩以外の男子を気にするなんて、珍しいね。甘崎君と仲良かったっけ?」
「そういうわけじゃないんだけど…」
甘崎君と家が隣同士になったことを、私はまだ誰にも話してない。はーちゃんに嘘をついてるのは心苦しかったけど、甘崎君は目立つことを嫌がるんじゃないかと思ったから。
「甘崎君って謎だよね。私達とは小学校違ったしさ。楽しそうに喋ってるところとかも見たことないし」
「でもいい人だよ、甘崎君は」
つい反論してしまった。はーちゃんはビックリしたように目を丸くする。
「な、何かそんな感じするなぁって!怒ったりしなさそうっていうか」
「まぁ、それは確かに」
「あっ、予鈴鳴った!」
タイミングよく予鈴のチャイムが鳴って、私は慌てて自分の席に戻る。彼女は納得いかなそうな顔をしながらも、それ以上は何も言わなかった。
それから本鈴が鳴った後も甘崎君の席は空っぽのままで、先生はそのまま授業を始める。
甘崎君、どうしたんだろう…
そう思っていたら、保健室の先生が甘崎君のカバンを取りに来た。どうやら、体調が悪くて早退するみたいだ。
やっぱり、顔色が悪そうに見えたのは気のせいじゃなかったんだ。
こんなことなら教室にいた時に声をかければよかったと、私は凄く後悔した。
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