おとなりさんはオカン男子!

清澄 セイ

文字の大きさ
上 下
28 / 45
第五章「タイセツだと思うから」

しおりを挟む
ーー

それから数日が経った。王寺先輩と一緒に帰った日のことを思い出しては、一人でにやけたりしてたんだけど。

ふとした瞬間に隣から甘崎君家族の声が聞こえてくると、あの日の甘崎君の顔を思い出して胸がギュウッと苦しくなった。

いつのまにか私は、家の中にいてもイヤホンをつけることがなくなった。

甘崎君が「耳が悪くなる」ってお母さんみたいな心配してくれたのが、おもしろかったなぁ。

シンとした部屋が苦手だったけど、甘崎兄弟と仲良くなってからはなぜか寂しいと思わなくなった。

私はいつも、甘崎君に助けてもらってばかり。私も何か、甘崎君の役に立てることがあればいいのに。

そう思っても、あのクッキーの件で嫌われたんじゃないかって思ったら、学校でもなかなか話しかける勇気が持てなかった。

「やっぱりまだ元気ないね。せっかく王寺先輩と一緒に帰れたっていうのに」

お昼休み。パンを半分しか食べなかった私に、はーちゃんが私の顔を覗き込みながらそう言う。

この間からはーちゃんにも心配かけてばかりで申し訳なくて、早く元気にならなくちゃって思うんだけど。

教室で甘崎君を見かけるたびに、どうしても胸が苦しくなる。もう話せないのかと思うと、鼻の奥がツンとする。

私は自分で思ってる以上に、甘崎君に救われてたんだ。

「ねぇ、はーちゃん」

私は甘崎君の席の方を見ながら、はーちゃんの名前を呼ぶ。彼の席には、今誰もいない。お昼休みは、大体そこで本を読んでることが多いのに。

「今日、甘崎君ちょっと元気なかった?」

「えっ、甘崎君?」

急に彼の名前が出てきたことに驚いたのか、彼女が目をまん丸にする。それもそうだよね。甘崎君、学校では私はもちろん女子とほとんど話したりしないし。

「よく見てないけど、別にいつもと変わらないんじゃない?」

「そうかなぁ…何か顔色が悪く見えたんだよね」

「ツバサが王寺先輩以外の男子を気にするなんて、珍しいね。甘崎君と仲良かったっけ?」

「そういうわけじゃないんだけど…」

甘崎君と家が隣同士になったことを、私はまだ誰にも話してない。はーちゃんに嘘をついてるのは心苦しかったけど、甘崎君は目立つことを嫌がるんじゃないかと思ったから。

「甘崎君って謎だよね。私達とは小学校違ったしさ。楽しそうに喋ってるところとかも見たことないし」

「でもいい人だよ、甘崎君は」

つい反論してしまった。はーちゃんはビックリしたように目を丸くする。

「な、何かそんな感じするなぁって!怒ったりしなさそうっていうか」

「まぁ、それは確かに」

「あっ、予鈴鳴った!」

タイミングよく予鈴のチャイムが鳴って、私は慌てて自分の席に戻る。彼女は納得いかなそうな顔をしながらも、それ以上は何も言わなかった。

それから本鈴が鳴った後も甘崎君の席は空っぽのままで、先生はそのまま授業を始める。

甘崎君、どうしたんだろう…

そう思っていたら、保健室の先生が甘崎君のカバンを取りに来た。どうやら、体調が悪くて早退するみたいだ。

やっぱり、顔色が悪そうに見えたのは気のせいじゃなかったんだ。

こんなことなら教室にいた時に声をかければよかったと、私は凄く後悔した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

ワガママ姫とわたし!

清澄 セイ
児童書・童話
照町明、小学5年生。人との会話が苦手な彼女は、自分を変えたくても勇気を出せずに毎日を過ごしていた。 そんなある日、明は異世界で目を覚ます。そこはなんと、絵本作家である明の母親が描いた物語の世界だった。 絵本の主人公、ルミエール姫は明るく優しい誰からも好かれるお姫さま…のはずなのに。 「あなた、今日からわたくしのしもべになりなさい!」 実はとってもわがままだったのだ! 「メイってば、本当にイライラする喋り方だわ!」 「ルミエール姫こそ、人の気持ちを考えてください!」 見た目がそっくりな二人はちぐはぐだったけど… 「「変わりたい」」 たった一つの気持ちが、世界を救う…!?

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

【完結】月夜のお茶会

佐倉穂波
児童書・童話
 数年に一度開催される「太陽と月の式典」。太陽の国のお姫様ルルは、招待状をもらい月の国で開かれる式典に赴きました。 第2回きずな児童書大賞にエントリーしました。宜しくお願いします。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

【完結】王の顔が違っても気づかなかった。

BBやっこ
児童書・童話
賭けをした 国民に手を振る王の顔が違っても、気づかないと。 王妃、王子、そしてなり代わった男。 王冠とマントを羽織る、王が国の繁栄を祝った。 興が乗った遊び?国の乗っ取り? どうなったとしても、国は平穏に祭りで賑わったのだった。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

処理中です...