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第四章「スナオになりたい」
⑥
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「はい、どうぞ」
誰もいない小さな公園の端にあるベンチに並んで座り、王寺先輩はガサガサと袋からラスクを取り出すと私に差し出した。
「いいんですか?」
「うん。一緒に食べよう」
「ありがとうございます!」
しっかりとお礼を言って、私はラスクを一口かじる。サクッという小気味いい音と共にバターの風味が口いっぱいに広がった。
「おいしい…ちょうどいい甘さで食感も軽くて、いくらでも食べられそうです!」
パァッと表情が明るくなるのが自分でも分かる。やっぱり、パン屋さんだからパン自体もおいしい。
あのお店は知ってたけど、ラスクが売ってるなんて知らなかった。食感もくせになって、ついつい夢中になって食べてしまう。
「ハハッ、白石さんハムスターみたい」
「ハ、ハムスターですか!?」
私の食べてる姿を見ながら、王寺先輩が笑う。私は恥ずかしくなって、残りのラスクを急いで食べた。
「可愛いってこと」
「あ、アハハ…ッ」
どうしよう。私今絶対顔真っ赤だ。王寺先輩に可愛いって言われる日が来るなんて、これって夢じゃないよねってまだちょっとだけ疑ってる。
「お、王寺先輩って本当に甘いものが好きなんですね」
手をうちわみたいにしてパタパタと顔を仰ぎながら、私は話題を変えた。
「男のくせにって思う?」
「思いませんよ。私も大好きだから、話ができるなって」
「そっか、よかった」
優しげに目を細める王寺先輩を見て、私もニコッと笑った。
「甘いものって、食べると元気になりますよね。王寺先輩のラスクのおかげで、私も元気をもらえました。本当にありがとうございます」
「いえいえ。白石さんが元気だと、俺も嬉しいから」
そんなこと言ってもらえるなんて、嬉しすぎる。やっぱり王寺先輩、心配してくれてたんだ。
ただ部活の後輩っていうだけの私のことまで気遣ってくれるなんて、王寺先輩ってどこまでいい人なんだろう。
暗い顔ばっかりしてちゃ、ダメだよね。
私はグッと拳を握りしめて、まっすぐに王寺先輩を見つめた。
「あの、王寺先輩…っ」
「どうしたの?」
本当は、凄く怖い。でもだからって、ずっと嘘をついたみたいになってるのもよくないから。王寺先輩に対しても甘崎君に対しても、不誠実でいたくない。
「この間先輩に食べてもらったクッキーのことなんですけど」
「クッキー?あ、うん。凄いおいしかった…」
「あれは、私が作ったものじゃないんです」
私の言葉に、王寺先輩の目が少しだけ見開かれる。
「実はクラスの人からもらったものだったんですけど、あの時はちゃんと説明できなくて…私が作ったみたいに誤解させてしまって、本当にごめんさない」
「白石さん…」
精いっぱいの気持ちを込めて、私は深く頭を下げた。もし呆れられたとしても、それは自業自得だから。
「そんな謝らないでよ!俺も勘違いしちゃって、なんか恥ずかしいな」
顔を上げると、笑顔の王寺先輩と目が合う。先輩は少し照れたように、手を頭の後ろにおいた。
「全然謝ることじゃないよ。ていうか、せっかく人からもらったものほとんど食べちゃって、俺の方こそごめん」
「そ、そんなことないです!」
安心して泣きそうになる。こんなに優しい言葉をかけてもらえるなんて。
「王寺先輩に嫌われなくてよかった…」
ホッとして、思わず心の声がもれてしまった。
「もしよかったら今度、白石さんの作ったお菓子が食べたいなーなんて、俺図々しいかな」
「で、でも私料理とか得意じゃなくて…きっとおいしくできないと思います」
「そんなの関係ないよ。白石さんの手作りなら、なんでも嬉しいから」
心臓がドキドキする。王寺先輩は気を遣って言ってくれてるだけなのに、茜色の空のせいなのか先輩の顔が赤く染まって見える。
しばらくしてそろそろ帰ろうかって言われて、先輩は家の近くまで送ってくれた。
その後もしばらく気分がボーッして、自分が何をしたのかもよく思い出せなかった。
誰もいない小さな公園の端にあるベンチに並んで座り、王寺先輩はガサガサと袋からラスクを取り出すと私に差し出した。
「いいんですか?」
「うん。一緒に食べよう」
「ありがとうございます!」
しっかりとお礼を言って、私はラスクを一口かじる。サクッという小気味いい音と共にバターの風味が口いっぱいに広がった。
「おいしい…ちょうどいい甘さで食感も軽くて、いくらでも食べられそうです!」
パァッと表情が明るくなるのが自分でも分かる。やっぱり、パン屋さんだからパン自体もおいしい。
あのお店は知ってたけど、ラスクが売ってるなんて知らなかった。食感もくせになって、ついつい夢中になって食べてしまう。
「ハハッ、白石さんハムスターみたい」
「ハ、ハムスターですか!?」
私の食べてる姿を見ながら、王寺先輩が笑う。私は恥ずかしくなって、残りのラスクを急いで食べた。
「可愛いってこと」
「あ、アハハ…ッ」
どうしよう。私今絶対顔真っ赤だ。王寺先輩に可愛いって言われる日が来るなんて、これって夢じゃないよねってまだちょっとだけ疑ってる。
「お、王寺先輩って本当に甘いものが好きなんですね」
手をうちわみたいにしてパタパタと顔を仰ぎながら、私は話題を変えた。
「男のくせにって思う?」
「思いませんよ。私も大好きだから、話ができるなって」
「そっか、よかった」
優しげに目を細める王寺先輩を見て、私もニコッと笑った。
「甘いものって、食べると元気になりますよね。王寺先輩のラスクのおかげで、私も元気をもらえました。本当にありがとうございます」
「いえいえ。白石さんが元気だと、俺も嬉しいから」
そんなこと言ってもらえるなんて、嬉しすぎる。やっぱり王寺先輩、心配してくれてたんだ。
ただ部活の後輩っていうだけの私のことまで気遣ってくれるなんて、王寺先輩ってどこまでいい人なんだろう。
暗い顔ばっかりしてちゃ、ダメだよね。
私はグッと拳を握りしめて、まっすぐに王寺先輩を見つめた。
「あの、王寺先輩…っ」
「どうしたの?」
本当は、凄く怖い。でもだからって、ずっと嘘をついたみたいになってるのもよくないから。王寺先輩に対しても甘崎君に対しても、不誠実でいたくない。
「この間先輩に食べてもらったクッキーのことなんですけど」
「クッキー?あ、うん。凄いおいしかった…」
「あれは、私が作ったものじゃないんです」
私の言葉に、王寺先輩の目が少しだけ見開かれる。
「実はクラスの人からもらったものだったんですけど、あの時はちゃんと説明できなくて…私が作ったみたいに誤解させてしまって、本当にごめんさない」
「白石さん…」
精いっぱいの気持ちを込めて、私は深く頭を下げた。もし呆れられたとしても、それは自業自得だから。
「そんな謝らないでよ!俺も勘違いしちゃって、なんか恥ずかしいな」
顔を上げると、笑顔の王寺先輩と目が合う。先輩は少し照れたように、手を頭の後ろにおいた。
「全然謝ることじゃないよ。ていうか、せっかく人からもらったものほとんど食べちゃって、俺の方こそごめん」
「そ、そんなことないです!」
安心して泣きそうになる。こんなに優しい言葉をかけてもらえるなんて。
「王寺先輩に嫌われなくてよかった…」
ホッとして、思わず心の声がもれてしまった。
「もしよかったら今度、白石さんの作ったお菓子が食べたいなーなんて、俺図々しいかな」
「で、でも私料理とか得意じゃなくて…きっとおいしくできないと思います」
「そんなの関係ないよ。白石さんの手作りなら、なんでも嬉しいから」
心臓がドキドキする。王寺先輩は気を遣って言ってくれてるだけなのに、茜色の空のせいなのか先輩の顔が赤く染まって見える。
しばらくしてそろそろ帰ろうかって言われて、先輩は家の近くまで送ってくれた。
その後もしばらく気分がボーッして、自分が何をしたのかもよく思い出せなかった。
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