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第四章「スナオになりたい」
⑤
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王寺先輩は約束通り、部活終わりに私を待ってくれていた。はーちゃんに着いてきてって頼んだけど、ニヤニヤしながら「今日塾だから」って断られてしまった。
周りの視線が、物凄く痛い。全く気にしていない様子の先輩の斜め後ろを、私は背中を丸めながら足早に歩いた。
「疲れてない?大丈夫?」
「あっ、はい!平気です!」
今日も変わらず、王寺先輩は王子様だ。夕方になっても爽やか度百パーセントだし、笑顔が優しい。こうして話してても緊張して、自分が上手く笑えてるか心配だ。
それに本当のことを言うと、この間のクッキーの件がずっと引っかかってて、その度に甘崎君の顔が頭の中に浮かぶ。
甘崎君は一回も、私を責めなかった。凄く優しくて、今思い出しても泣きそうになる。
甘崎君、今何してるんだろう。あのエプロンをつけて、いつもみたいに部屋中を動き回りながらミドリ君達の面倒見てるのかな。今日も、おいしいご飯を作るんだろうなぁ。
しゃもじを手にした甘崎君が「ご飯できたよ」って私を呼ぶ姿を想像して、思わず頬っぺたが緩んだ。
「白石さん、ボーッとしてるけど大丈夫?やっぱり疲れた?」
ハッと気付くと、王寺先輩が心配そうに私の顔を覗き込んでる。私は慌てて「何でもないです」と首を横に振った。
そうだ、王寺先輩にもちゃんと言わなくちゃ。この間のクッキーを作ったのは私じゃないって。
「あの王寺先輩…っ」
覚悟を決めて名前を呼んだ瞬間、王寺先輩の足が止まる。
「見て。ここに来たかったんだ」
「え…?」
そう言われて目の前を見上げると、そこにはパン屋さん。夕暮れの薄暗い中に、パッと明るい照明が浮かんでる。ふわっといい匂いがしてきて、私はパチパチと目を瞬かせた。
「このパン屋さん、夕方になったら残ったパンの耳で作ったラスクを売るんだけど、俺それが大好きでさ。買ってくるから、ちょっとここで待ってて」
「えっ、あの先輩!?」
王寺先輩はニコッと笑うと、そのままパン屋さんの中に入っていく。そしてすぐに、紙袋を手にして戻ってきた。
「ちょっと言った先にベンチがあるから、そこで食べよう」
「あ、あの」
「ほら行こう!」
嬉しそうな顔をした王寺先輩に、グイッと手を引かれる。その手のあったかさにドキドキしながら、先輩の後をついていった。
周りの視線が、物凄く痛い。全く気にしていない様子の先輩の斜め後ろを、私は背中を丸めながら足早に歩いた。
「疲れてない?大丈夫?」
「あっ、はい!平気です!」
今日も変わらず、王寺先輩は王子様だ。夕方になっても爽やか度百パーセントだし、笑顔が優しい。こうして話してても緊張して、自分が上手く笑えてるか心配だ。
それに本当のことを言うと、この間のクッキーの件がずっと引っかかってて、その度に甘崎君の顔が頭の中に浮かぶ。
甘崎君は一回も、私を責めなかった。凄く優しくて、今思い出しても泣きそうになる。
甘崎君、今何してるんだろう。あのエプロンをつけて、いつもみたいに部屋中を動き回りながらミドリ君達の面倒見てるのかな。今日も、おいしいご飯を作るんだろうなぁ。
しゃもじを手にした甘崎君が「ご飯できたよ」って私を呼ぶ姿を想像して、思わず頬っぺたが緩んだ。
「白石さん、ボーッとしてるけど大丈夫?やっぱり疲れた?」
ハッと気付くと、王寺先輩が心配そうに私の顔を覗き込んでる。私は慌てて「何でもないです」と首を横に振った。
そうだ、王寺先輩にもちゃんと言わなくちゃ。この間のクッキーを作ったのは私じゃないって。
「あの王寺先輩…っ」
覚悟を決めて名前を呼んだ瞬間、王寺先輩の足が止まる。
「見て。ここに来たかったんだ」
「え…?」
そう言われて目の前を見上げると、そこにはパン屋さん。夕暮れの薄暗い中に、パッと明るい照明が浮かんでる。ふわっといい匂いがしてきて、私はパチパチと目を瞬かせた。
「このパン屋さん、夕方になったら残ったパンの耳で作ったラスクを売るんだけど、俺それが大好きでさ。買ってくるから、ちょっとここで待ってて」
「えっ、あの先輩!?」
王寺先輩はニコッと笑うと、そのままパン屋さんの中に入っていく。そしてすぐに、紙袋を手にして戻ってきた。
「ちょっと言った先にベンチがあるから、そこで食べよう」
「あ、あの」
「ほら行こう!」
嬉しそうな顔をした王寺先輩に、グイッと手を引かれる。その手のあったかさにドキドキしながら、先輩の後をついていった。
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