上 下
26 / 45
第四章「スナオになりたい」

しおりを挟む
王寺先輩は約束通り、部活終わりに私を待ってくれていた。はーちゃんに着いてきてって頼んだけど、ニヤニヤしながら「今日塾だから」って断られてしまった。

周りの視線が、物凄く痛い。全く気にしていない様子の先輩の斜め後ろを、私は背中を丸めながら足早に歩いた。

「疲れてない?大丈夫?」

「あっ、はい!平気です!」

今日も変わらず、王寺先輩は王子様だ。夕方になっても爽やか度百パーセントだし、笑顔が優しい。こうして話してても緊張して、自分が上手く笑えてるか心配だ。

それに本当のことを言うと、この間のクッキーの件がずっと引っかかってて、その度に甘崎君の顔が頭の中に浮かぶ。

甘崎君は一回も、私を責めなかった。凄く優しくて、今思い出しても泣きそうになる。

甘崎君、今何してるんだろう。あのエプロンをつけて、いつもみたいに部屋中を動き回りながらミドリ君達の面倒見てるのかな。今日も、おいしいご飯を作るんだろうなぁ。

しゃもじを手にした甘崎君が「ご飯できたよ」って私を呼ぶ姿を想像して、思わず頬っぺたが緩んだ。

「白石さん、ボーッとしてるけど大丈夫?やっぱり疲れた?」

ハッと気付くと、王寺先輩が心配そうに私の顔を覗き込んでる。私は慌てて「何でもないです」と首を横に振った。

そうだ、王寺先輩にもちゃんと言わなくちゃ。この間のクッキーを作ったのは私じゃないって。

「あの王寺先輩…っ」

覚悟を決めて名前を呼んだ瞬間、王寺先輩の足が止まる。

「見て。ここに来たかったんだ」

「え…?」

そう言われて目の前を見上げると、そこにはパン屋さん。夕暮れの薄暗い中に、パッと明るい照明が浮かんでる。ふわっといい匂いがしてきて、私はパチパチと目を瞬かせた。

「このパン屋さん、夕方になったら残ったパンの耳で作ったラスクを売るんだけど、俺それが大好きでさ。買ってくるから、ちょっとここで待ってて」

「えっ、あの先輩!?」

王寺先輩はニコッと笑うと、そのままパン屋さんの中に入っていく。そしてすぐに、紙袋を手にして戻ってきた。

「ちょっと言った先にベンチがあるから、そこで食べよう」

「あ、あの」

「ほら行こう!」

嬉しそうな顔をした王寺先輩に、グイッと手を引かれる。その手のあったかさにドキドキしながら、先輩の後をついていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ワガママ姫とわたし!

清澄 セイ
児童書・童話
照町明、小学5年生。人との会話が苦手な彼女は、自分を変えたくても勇気を出せずに毎日を過ごしていた。 そんなある日、明は異世界で目を覚ます。そこはなんと、絵本作家である明の母親が描いた物語の世界だった。 絵本の主人公、ルミエール姫は明るく優しい誰からも好かれるお姫さま…のはずなのに。 「あなた、今日からわたくしのしもべになりなさい!」 実はとってもわがままだったのだ! 「メイってば、本当にイライラする喋り方だわ!」 「ルミエール姫こそ、人の気持ちを考えてください!」 見た目がそっくりな二人はちぐはぐだったけど… 「「変わりたい」」 たった一つの気持ちが、世界を救う…!?

悪役令嬢はキラキラ王子とお近付きになりたい!

清澄 セイ
児童書・童話
小学生の朝日麗は有名な強面一家で、麗自身も悪役令嬢と呼ばれてみんなから避けられていた。見た目とはうらはらに、友達が欲しくて欲しくてたまらないちょっと天然なぽんこつ女子。笑顔が苦手で、笑うとさらに悪役っぽくなるのが悩み。 六年生になり、超人気者の夕日ヶ丘君と初めて同じクラスに。笑顔がキラキラ眩しくて、みんなから好かれる優しくて素敵な彼を勝手に「師匠」呼ばわりして、同じクラス委員にも立候補。笑顔のコツと友達作りのアドバイスをもらおうと、必死の麗。 だけどある日、そんな彼の「裏の顔」を知ってしまった麗は……? ポンコツ悪役令嬢×偽キラキラ王子の日常ラブコメ!

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

GREATEST BOONS+

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!

小さな歌姫と大きな騎士さまのねがいごと

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしとある国で、戦いに疲れた騎士がいました。政争に敗れた彼は王都を離れ、辺境のとりでを守っています。そこで彼は、心優しい小さな歌姫に出会いました。 歌姫は彼の心を癒し、生きる意味を教えてくれました。彼らはお互いをかけがえのないものとしてみなすようになります。ところがある日、隣の国が攻めこんできたという知らせが届くのです。 大切な歌姫が傷つくことを恐れ、歌姫に急ぎ逃げるように告げる騎士。実は高貴な身分である彼は、ともに逃げることも叶わず、そのまま戦場へ向かいます。一方で、彼のことを諦められない歌姫は騎士の後を追いかけます。しかし、すでに騎士は敵に囲まれ、絶対絶命の危機に陥っていました。 愛するひとを傷つけさせたりはしない。騎士を救うべく、歌姫は命を賭けてある決断を下すのです。戦場に美しい花があふれたそのとき、騎士が目にしたものとは……。 恋した騎士にすべてを捧げた小さな歌姫と、彼女のことを最後まで待ちつづけた不器用な騎士の物語。 扉絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。 以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。 不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。

魔法が使えない女の子

咲間 咲良
児童書・童話
カナリア島に住む九歳の女の子エマは、自分だけ魔法が使えないことを悩んでいた。 友だちのエドガーにからかわれてつい「明日魔法を見せる」と約束してしまったエマは、大魔法使いの祖母マリアのお使いで魔法が書かれた本を返しに行く。 貸本屋ティンカーベル書房の書庫で出会ったのは、エマそっくりの顔と同じエメラルドの瞳をもつ男の子、アレン。冷たい態度に反発するが、上から降ってきた本に飲み込まれてしまう。

わたしの師匠になってください! ―お師匠さまは落ちこぼれ魔道士?―

島崎 紗都子
児童書・童話
「師匠になってください!」 落ちこぼれ無能魔道士イェンの元に、突如、ツェツイーリアと名乗る少女が魔術を教えて欲しいと言って現れた。ツェツイーリアの真剣さに負け、しぶしぶ彼女を弟子にするのだが……。次第にイェンに惹かれていくツェツイーリア。彼女の真っ直ぐな思いに戸惑うイェン。何より、二人の間には十二歳という歳の差があった。そして、落ちこぼれと皆から言われてきたイェンには、隠された秘密があって──。

処理中です...