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第四章「スナオになりたい」

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ーー

「どうしたのツバサ。珍しく元気ないね」

朝の登校途中、目をまん丸にしたはーちゃんに声をかけられる。私はへにゃりと笑いながら片手を上げた。

「私そんなに顔に出てる?」

「他の人が気付くかどうかは知らないけど、私はすぐ分かった」

「そっかぁ」

昨日甘崎君と少し気まずい別れ方をしてしまったせいで、なかなか寝られなかった。もちろん、こうなった原因は全部私にある。

甘崎君はきっと、利用されてるような気持ちになったんだと思う。自分が作ったクッキーを悪用されて、しかも作り方まで教えなきゃいけなくなっちゃったんだから。

優しいから断れなかっただけで、本当は嫌な思いをさせてたのかもしれない。もしかして、嫌われたりなんて…

「あぁ、もう!私ってホントにバカだ!」

いきなり両手で頭を抱え出した私を見て、はーちゃんの目がますますまん丸になる。

彼女は心配そうに、私の肩にポンと手を置いた。

「大丈夫?なんかあったなら話聞くよ?」

「はーちゃん…」

「一人で溜め込んじゃダメだからね?」

彼女の言葉に、鼻の奥がツンとする。皆こんなに優しいのに、私は自分のことばっかりで。甘崎君を傷つけたことに気付けなかった。

優しくて面倒見のいい彼に、私は甘え過ぎたんだ。

「ありがとう、はーちゃん。私、なんだか自分のことが嫌になっちゃって。人の気持ちをちゃんと考えられなかったから」

「ツバサが?そんなことある?」

「あるよ。私自分のことばっかりだもん」

私がハァッとため息をつくと、はーちゃんは優しげな瞳で私を見つめた。

「ツバサは優しいよ。優しくて、明るい。私いつもツバサに元気もらってるんだから」

「そんなこと…」

「詳しくは聞かないけどさ。ツバサはそのままのツバサでいいと私は思うな」

私を元気付けるようにニコッと笑うはーちゃんに、心の中が温かくなる。はーちゃんの優しい言葉のおかげで、落ち込んでいた気持ちが少し楽になった。

「はーちゃん、ホントにありがとう!」

「えへへ、どういたしまして」

照れてるはーちゃんが可愛くて、私はガバッと彼女に抱きついた。

「おはよう、白石さん。春ちゃん」

その時後ろから声をかけられて、私と彼女は同時に振り返る。

「お、王寺先輩!」

そこに立っていたのは、王寺先輩だった。その隣には、はーちゃんのお兄さんもいる。

そっか。確か二人は部活もクラスも同じで、仲がいいんだっけ。

「おっ、おはようございます!」

突然の王寺先輩に、私は慌てて挨拶をしながら勢いよく頭を下げた。

「ハハッ、朝から元気だね」

そんな私を見て、王寺先輩は楽しそうに笑う。あぁ、今日も笑顔がとっても爽やかだ。

「でもツバサ、今日ちょっと元気がないみたいで」

「えっ、めっちゃ元気そうなのに?」

はーちゃんがそういうと、すかさずお兄さんがツッコミを入れる。彼女はお兄さんなギロリと鋭い視線を送った。

「そうなの?大丈夫?」

「あっ、はい。大丈夫です」

王寺先輩に心配してもらえるなんて、ホントにはーちゃん様様だ。

「私、元気だけが取り柄なので!」

手でグーを作って、それを掲げてみせる。王寺先輩は一瞬考える素振りをした後、私の目を見ながら言った。

「白石さん、今日部活終わってから何か予定ある?」

「えっ?いえ、今日は特にないです」

「じゃあ、一緒に帰ろうよ」

そう言われて、私は思わずポカンと口を開けた。だって今、王寺先輩に「一緒に帰ろう」って言われたよね?夢じゃないよね?

「ツバサ、夢じゃないから!」

放心状態の私の体を、はーちゃんが揺すりながら耳元でそう言った。

「え、あ、はい!」

熱くなる頬っぺたを手で押さえながら、私は勢いよく返事をする。王寺先輩はクスクスと笑いながら頷くと、はーちゃんのお兄さんと共に先に行ってしまった。

「やったじゃんツバサ!王寺先輩と二人で帰れるよ!」

はーちゃんが私の肩をバシバシ叩きながら、まるで自分のことみたいに喜んでくれる。

私はまだ夢見心地で、頭の中がふわふわして実感がわかないままだった。
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