おとなりさんはオカン男子!

清澄 セイ

文字の大きさ
上 下
17 / 45
第三章「縮んでいくキョリ」

しおりを挟む
大満足の夕食を終え、私達は近所のコンビニに向かって歩いている。甘崎君は牛乳、私は明日のパンを買いに。

「甘崎君のハンバーグ、ホントにおいしかったよ」

「もう何回も聞いたから」

「だって言いたくなるんだもん」

この前王寺先輩と月を見た時はまだ薄ぼんやりだったけど、今日ははっきりと輝いてる。

「あの月、卵の黄身みたい」

「白石は、食べもののことばっかりだな」

甘崎君が笑うから、私はプクッと頬っぺたを膨らませた。

コンビニに着くと、お互いにササッと買い物を済ませる。さっき来た道を、また並んで歩いた。行きと違うのは、二人が歩くたびにコンビニの袋がガサガサと音を立てることだ。

「白石の親って、何の仕事してるの?」

甘崎君が前を向いたまま、そんな質問をする。

「私の親?えっとね、お父さんは海外で自動車開発の仕事してて、お母さんは雑誌の編集だよ」

「へぇ、凄いな」

こんな風に両親のことを褒めてもらえるのは、娘として純粋に嬉しい。二人とも優しいし、いつも私のことを気にしてくれる。

だから私も、ワガママ言わないようにしてるんだ。この歳になって寂しいなんて、誰にも言えない。

「甘崎君のご両親も、仕事が忙しい人なの?」

「父さんがね。プログラマーだから、昼夜あんま関係ないみたい。それから母さんは、病気でもういない」

思わず言葉に詰まって、何も言えなくなる。甘崎君はそんな私を見て、柔らかく目を細めた。

「今はもう大丈夫だから。あれだけ家族がいれば、寂しいとか思う暇もなくなる」

「甘崎君…」

私は立ち止まると、甘崎君の方を見る。ギュッと強く拳を握ったせいで、手に持っているコンビニの袋がガサッと鳴った。

「甘崎君はお母さんの代わりに、家族を守ってるんだね」

「…俺は別に」

「私、甘崎君のこと凄く尊敬する」

ニコッと笑うと、甘崎君はビックリしたように目を見開いた。

「甘崎君のことが知れて、嬉しいよ。お隣さんにならなかったら、こんな風に話すこともなかったかもしれないもんね」

「白石」

「私も見習って頑張らなきゃ」

甘崎君はあんなにおいしいご飯を作って、弟達の面倒もしっかり見てて、それに優しい。

あれもできないこれもできないなんて言ってないで、私ももっとちゃんと家族の役に立ちたい。

甘崎君を見てたら、自然とそう思えた。

「白石は」

甘崎君が、ポツリと言葉を落とす。

「十分頑張ってると思う」

「え…?」

「教室でもいつも明るいし笑顔だし、翠達があんなに懐くのも、白石が優しいからだし」

パッと私の方を向いた彼と目が合って、思わずドキッと胸が鳴る。月明かりに照らされた甘崎君の瞳は、キラキラしていて凄く綺麗だった。

「それに、よく庭で素振りしてるでしょ?」

「み、見られちゃってた?あーもう恥ずかしいなぁ」

「たまたまだよ。別に覗いてるわけじゃないから」

「それは分かってるって」

クスクス笑うと、甘崎君は恥ずかしそうに指で前髪を触った。

「でも、電気の点いてない家に帰るのって結構寂しいよね」

そう言われて、いつもの私なら「そんなことないよ」って返すはずなのに。

「…うん、寂しい」

気が付いたら、私は甘崎君に向かって本当の気持ちを口にしていた。

「あのね、甘崎君。私いつも家ではイヤホンしてるって、前に言ったっけ?」

「うん」

ほとんど無意識にやってたことだけど、それは多分一人ぼっちの寂しさを紛らわす為。自分以外の物音がしない部屋が嫌いだったから。

「この間ね?イヤホン外して過ごしてみたんだ。そしたら、甘崎君の家の方から声とか音とか聞こえてきて、何だかほっこりしちゃった」

「ごめん、うるさかった?」

「ううん。何となく、一人じゃない気がして嬉しかったよ。って言うのも変かな」

頭をかきながら笑うと、甘崎君も同じように笑ってくれて。

それを見て、ほんの少しだけ胸の奥がキュウッと苦しくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

コボンとニャンコ

魔界の風リーテ
児童書・童話
吸血コウモリのコボンは、リンゴの森で暮らしていた。 その日常は、木枯らしの秋に倒壊し、冬が厳粛に咲き誇る。 放浪の最中、箱入りニャンコと出会ったのだ。 「お前は、バン。オレが…気まぐれに決めた」 三日月の霞が晴れるとき、黒き羽衣に火が灯る。 そばにはいつも、夜空と暦十二神。 『コボンの愛称以外のなにかを探して……』 眠りの先には、イルカのエクアルが待っていた。 残酷で美しい自然を描いた、物悲しくも心温まる物語。 ※縦書き推奨  アルファポリス、ノベルデイズにて掲載 【文章が長く、読みにくいので、修正します】(2/23) 【話を分割。文字数、表現などを整えました】(2/24) 【規定数を超えたので、長編に変更。20話前後で完結予定】(2/25) 【描写を追加、変更。整えました】(2/26) 筆者の体調を破壊()3/

【完】ノラ・ジョイ シリーズ

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!? ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

【総集編】童話パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。童話パロディ短編集

ワガママ姫とわたし!

清澄 セイ
児童書・童話
照町明、小学5年生。人との会話が苦手な彼女は、自分を変えたくても勇気を出せずに毎日を過ごしていた。 そんなある日、明は異世界で目を覚ます。そこはなんと、絵本作家である明の母親が描いた物語の世界だった。 絵本の主人公、ルミエール姫は明るく優しい誰からも好かれるお姫さま…のはずなのに。 「あなた、今日からわたくしのしもべになりなさい!」 実はとってもわがままだったのだ! 「メイってば、本当にイライラする喋り方だわ!」 「ルミエール姫こそ、人の気持ちを考えてください!」 見た目がそっくりな二人はちぐはぐだったけど… 「「変わりたい」」 たった一つの気持ちが、世界を救う…!?

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

処理中です...