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第二章「ムクチな同級生」

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「あれ、白石さん」

部活終わり、私ははーちゃんに背中を押されテニスショップ″MIX“へとやってきた。ホントはあんまり用事ないんだけど、練習用のボールでも買おうかなって。

最初は王寺先輩の姿はなくて、今日は会えなかったなぁ…なんて思ってたら、先輩は私の後からやってきた。

「お、お疲れ様です!」

シャキンと背筋を伸ばして挨拶する私を見て、王寺先輩はハハッと笑った。

あぁ、今日も素敵です王寺先輩。

「王寺君いらっしゃい。ガットの張り替えできてるわよ」

「ありがとうございます」

王寺先輩は、テニスショップの奥さんと楽しそうに話してる。はーちゃんの言ってた通り、王寺先輩ホントにここの常連さんなんだ。

しばらくポーッと眺めてたけど、もう自分の用事は済んでたことを思い出して、私は慌てて奥さんにお礼を言った。

「そうだ王寺君、白石さん送ってあげたら?もう、暗くなり始めてるし」

奥さんが思いついたように、ポンと手を叩く。王寺先輩も、それに同意するみたいに頷いた。

「わざわざすいません、王寺先輩」

「気にしないで。そんなに遠くないし」

結局、王寺先輩に家の近くまで送ってもらうことになった私。心の中で″奥さんありがとう!″と叫んだ。

「新しいラケットの使い心地はどう?」

王寺先輩が話を振ってくれる。

「それが…まだ使い心地を語れるほどラケットでボールを打てないといいますか」

「そうなんだ?白石さん、まだ始めたばっかりだもんね」

「今はとにかく、素振りを頑張るしかないかなと!」

フン!と拳を握り締める私を見て、王寺先輩が優しく笑う。

「応援してるから、頑張って」

「はい、ありがとうございます!」

あぁ、もうなんて素敵な展開なんだろう…私こんなに幸せでいいのかな。

ほんわかした気持ちで空を見上げれば、もううっすらと月が出てる。今日は、満月に近いみたい。

「あ、月見えるね」

私と同じように先輩も空を見上げる。そして、ぽつりとこんなことを呟いた。

「クッキーみたいでうまそう」

「ク、クッキーですか?」

月をクッキーに例えるなんて、王寺先輩っておもしろい。

「そう、俺クッキーとかの甘いものが大好きなんだ」

「へぇ、そうなんですね」

ごめんなさい先輩、知ってます。

「こんな話してたら、なんかお腹空いてきた」

「あ、そういえば…」

放課後に甘崎君からもらったクッキーのことを思い出して、私はゴソゴソとカバンの中を探す。

「これ手作りのクッキーなんですけど、もしよかったら食べますか?」

「えっ、いいの!?」

王寺先輩の顔が途端にぱぁっと輝く。子供みたいで可愛いなぁ…

「今食べてもいい?」

「はい」

「やった」

私が袋を開けると、先輩が手を入れてクッキーを取る。サクサクと小気味いい音を立ててあっという間に一枚平らげた。

「白石さん」

「はい?」

「これ、めちゃくちゃおいしいよ!」

王寺先輩がキラキラした顔でそう言う。その瞬間顔が近付いて、思わずドキッと胸が鳴った。

「もう一枚食べてもいい?」

「どうぞどうぞ」

先輩に向かってそう言いながら、私自身もクッキーを口に運ぶ。サクサクした軽い食感と、ちょうどいい甘さ。ナッツが入ってて、歯触りがいい。

これは確かに、売ってるみたいにおいしい。

甘崎君、お菓子作りも得意なんてホントに凄い。

それから王寺先輩はあっという間に全部のクッキーを平らげて、満足そうにニッコリ笑う。

「ホントにありがとう、白石さん」

「いえ、そんな」

王寺先輩がおいしそうにクッキーを食べてる姿、ちょっと意外だったけど可愛かった。

あんな顔が見られるなんて、何だか特別っぽくて嬉しい。

「ここまでで大丈夫です。送ってくれてありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ」

ぺこりと頭を下げると王寺先輩も真似するみたいにお辞儀するから、思わず笑ってしまった。

「じゃあ、また」

「はい、お疲れ様でした」

王寺先輩は片手を上げて、それからクルッと向きを変え帰っていく。

と思ったら、先輩は私の方に振り返った。

「今度、クッキーのお礼させて!」

少し離れた場所からそう言って笑顔ブンブン手を振ると、先輩は今度こそ振り返らず帰っていった。
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