悪役令嬢はキラキラ王子とお近付きになりたい!

清澄 セイ

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最終章「悪役令嬢は卒業!って、世の中そんなに甘くない⁉︎」

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 梅雨が明けてからは、毎日ちょっとずつ暑い日が増えていく。四月の桜はあっという間に散って、今は校庭の脇にあるヒマワリのツボミが、ふっくら大きく育ってる。
「もうすぐ夏休みかぁ、いやだなぁ」
「うわ、めずらしい小学生がいる」
「ゆ、夕日ヶ丘君!」
 朝の登校中、後ろからポンと肩を叩かれる。振り返ると、夕日ヶ丘君が太陽と同じくらい、キラキラ光ってた。
「さすが師匠は、笑ってても笑ってなくても輝いてるね!」
「意味分かんないこと言うな!ていうか、まだ師匠とか言ってんのかよ!」
「だって夕日ヶ丘君は、わたしの憧れの人だから!」
 ふふん!と得意げに胸を張ると、なぜかいやそうな顔をされた。
「夕日ヶ丘君!」
 わたし達が並んで歩いてると、かわいい足音と一緒に、かわいい声が聞こえてくる。
「南さん」
「おはよう夕日ヶ丘君!今日もいいお天気だね!」
「そうだね!」
「えへへ」
 わたしと同じ制服着てるはずなのに、南さんの方がなん倍もステキに見える。朝から可愛い南さんは、今日も一日ずっとかわいいんだと思う。
「み、南さん。おはよう」
 夕日ヶ丘君のトナリから、おそるおそる顔を出す。予想通り、思いっきりぷいってされちゃった。
「朝日さんは、わたしにウソついたからいや!」
「そ、その節はごめんなさい」
「じゃあ、二学期からのクラス委員譲ってくれる?」
「それはムリ」
「ほらひどい!前は良いって言ったくせに!」
 ぷーっとほっぺたを膨らませながら、腰に手を当てて怒ったポーズをする南さんは、いつどんな時でもかわいい。
 怒ってもかわいい南さんと、笑顔すら怒って見えるわたし。どっちが夕日ヶ丘君のトナリに相応しいのかは、イチモクリョーゼンなわけだけど。
「ホントにごめん、南さん。わたしこの一年、夕日ヶ丘君と一緒に最後までクラス委員やり遂げたいから」
 もう、人のせいにして逃げたりしないって決めたんだ。
「そ、そんな顔してニラんだって、こわくないんだからね!」
「いや、別にニラんでは」
「夕日ヶ丘くぅん!朝日さんが、わたしのこといじめようとするの!こわいよぉ!」
 あれ?こわくないって言ってなかった?
「ま、まぁ、朝日さんはこれが通常運転だから。こわいのは標準装備っていうか、ゲームで言えば初期アバターみたいな?」
 夕日ヶ丘君、それはわたし喜んでいいのかな?
「とにかく!クラス副委員長の座は朝日さんにゆずったけど、ただそれだけなんだからね!夕日ヶ丘君に迷惑かけたら、絶対許さないんだから!」
「南さんって、ホント優しいんだね……」
 かわいい上に心がキレイなんて、南さんはカミサマに愛されてるんだなぁ。
 尊敬の目で彼女を見つめたら、めちゃくちゃいやそうな顔された。
「やっぱり朝日さんって、こわい。それに、ちょっと変だし」
「でも、一緒にいるとあきないよ。こわおもしろいっていうか」
 こわおもしろい⁉︎この世界にそんなポジションがあるなんて、初めて知った!
「わたしこれからは、『こわおもしろい』を目指そうかな⁉︎」
「そんなもの目指さなくていいし、なんならもうなってるって話だから安心して良いよ」
「そうなの⁉︎ありがとう!」
「……やだぁ、やっぱりこわい」
 南さんは小さな体をさらにちっちゃく丸めて、夕日ヶ丘君のシャツをギュッとつかむ。その仕草も女の子らしくて、すごくかわいい。かわいい、んだけど。
「な、な、なに⁉︎そんなにニラんで!」
「ニラんでるつもりはないけど、ちょっとキョリが近いと思う」
「それがどうしてダメなの⁉︎」
「ダメっていうか……」
 ん?どうしてわたし、こんなにモヤモヤしてるんだろう。
 自分でもよく分かんなくて、足を止めて胸に手を当ててみる。うん、心臓は今日も元気に動いてる。良かった。
「もう、意味分かんない!先に行こう、夕日ヶ丘君!」
「朝日さん行かないの?」
「わ、わたしのことは気にしないで!」
「だって!ほら、行こう!」
 南さんは夕日ヶ丘君のシャツをグイグイ引っ張りながら、二人で先に行ってしまった。いや、うん。それで良いって思うんだけど。
「……うらやましいからなのかも」
 わたしは、南さんがうらやましい。どうしたって、その気持ちはなくならない。
 いやいや、もう前を向くって決めたんだから、後ろ向きな考えはダメよ麗!南さんにもなんとかクラス副委員長を続ける許可をもらったんだし、彼女の言う通り、これからは夕日ヶ丘君に迷惑かけないようにしなきゃ。
「ベー、だ!」
 南さんがひとりだけクルッと振り向く。わたしに向かって舌をつき出しながら、人差し指で目の下を引っ張ってた。
 あっかんべーまでかわいいなんて、すごすぎる。しかも動きが素早くて、わたし以外誰も気付いてないみたいだし。
 南さんからはきらわれてるけど、とりあえずイッケンラクチャクしてひと安心。わたしは太陽の眩しさに目を細めながら、花組の教室に向かってまた歩きはじめた。
「今めちゃくちゃニラんでたね、朝日さん……」
「朝からこわいね……」
 違います、眩しかっただけです。とほほ。
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