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第二章「ハランの幕が開けました⁉︎」

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それからはさらに作業の手もはかどり、あっという間に完了。ふう、いい仕事した。いや、スムーズな会話はできなかったけどね。
 二人で職員室に行き、上川先生に出来上がった資料を手渡す。
「あ、教室のカギ閉めるの忘れてた。おれ行ってくるから、朝日さん先に帰ってて!」
「いや、でも」
「女子なんだし、あんま遅くなるのも危ないしさ!」
 ウィンクでもしそうな爽やかさ。そう言って、夕日ヶ丘君は戻ってしまった。
「女子扱いしてくれた」
 彼の優しさをしみじみかみしめながら、下駄箱のローファーに手をかける。いや、待てよ。ここで何も言わないまま帰っちゃって、ホントに後悔しないのか麗。
「夕日ヶ丘君なら、教えてくれるかも……」
 両手を握りしめて、わたしもクルッと向きを変えた。せっかくのチャンス、二度も逃しちゃもったいない!
なるべく走らないように急いで教室に戻ったわたし。ちょうど、夕日ヶ丘君が教室のカギを閉めようとしているところ。
「ゆ、夕日ヶ丘く……」
「ああ、ダル!どいつもこいつも、めんどくさいんだよマジで」
「あなた誰ですか⁉︎」
 しまった、つい心の声がスピーカーになっちゃった!
 
カチャーン
 
夕日ヶ丘君の手から、カギが落ちる。彼はロボットみたいな動きで、わたしの方を振り返った。
「今の、聞いてた……よね?」
「聞いてたけど……けど、あれでしょ?聞き間違い!なんだっけ、ダルマ?めんたいこ?マジックテープ?」
「いや無理ありすぎるだろ!」
 夕日ヶ丘君は見事なツッコミを見せると、わたしに向かってダッシュしてくる。いや、この短い距離を⁉︎こわい!ぶつかる!
「言うなよ?」
「え⁉︎」
「絶対言うなよ⁉︎」
「それはフリですか?」
「バカか!」
 なんだ、違うのか。一時期、芸人みたいにおもしろくなれば友達出来るかと思って、お笑い番組見まくったことがある。その中では「絶対〇〇するな」は「して」の意味だったから、勝手に脳がそう判断してしまった。
「ああもう、めんどくさいからいいわ」
 夕日ヶ丘君は頭をガシガシかきながら、大きなため息をつく。もちろん、笑顔なんてない。
「朝日さんって、会話がかみ合わなすぎるよね。見た目怖いのにそれだと、余計恐怖しかないから。さっき教室でも、ガチで気まずかったし。気付いてなさそうだけど」
「でも夕日ヶ丘君、笑ってくれてたじゃん」
「愛想笑いです気付け」
 あれ?この人ホントに夕日ヶ丘君?双子?二重人格?ドッペルゲンガー?
「顔怖いけど、考えてることはたぶんヤバいな。絶対全部違うやつ」
「だ、だって!夕日ヶ丘君はいつも笑顔で優しくてさわやかで……」
「当たり前じゃん。そう見えるようにしてんだから」
「演技……ってこと?」
「処世術って言ってくれ」
なに?ショセイジュツ?それはなんの魔法のジュモンですか?
「世の中をうまく渡っていくためには、ホントの顔ばっかり見せてらんないってことだよ。バーカ」
 ベッと舌を出して、わたしをバカ呼ばわりする。さっきまでの彼とは真逆で、頭でも打っちゃったのかと思いたくなる。でもそっか……それが『ショセイジュツ』ってやつなんだ。楽しくなくてもはしゃいで、笑いたくなくても笑って、マイナスな気持ちを隠して生きてる。えっ、ホントに小六?頭いいって言っても、良すぎない?
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