「聖女は民の為に生き民の為に死ぬ」と教えられ生きてきた私は、深淵の魔王に溺愛される

エイルダイアンを救え

スティラトールとエイルダイアンの国境に掛かる橋を超え、アレイスター様が邸を構えている首都に辿り着くまでの道中では、気付くことができなかった。

私がもっと注意深く周囲を警戒していれば、一つでも多くの命を失わずに済んだのではないかと、自責の念に駆られる。

ーーこの役立たず！

スティラトールで聖女として力を行使していた時は、何度そう罵られたか分からない。今でも偶に、私なんかが聖女として名乗ることは本当に正しいことなのかと、自問自答することもある。

けれどもう、私は俯かないと決めた。

何度も何度も、過去に引きずられ暴れ泣いていた私を、アザゼル様が抱き締めてくれた。大丈夫だと、何も心配いらないと、そう囁いて背中を撫でてくれた。

今だって、いつも私のことを一番に考えてくれている。幾ら傷付こうと翌朝には元通りになるこの身体に、傷一つ付けまいと心を砕いてくれる。

（めそめそするのは、もう終わりよ）

今だって、不安になることもたくさんあるけれど。私はもう、一人ではないのだから。

だから何があっても、きっと“大丈夫”なのだ。

「私あの時は無我夢中で、どうやって大神官様と渡り合えたのかよく分からないのです」
「聖女の力にはいまだに謎が多いからね。そもそも存在自体が希少であるし、普通は国が聖女を出したがらない。だから私がこうしてイザベラに出会えたのは、神が与えたもうた奇跡といえるね」
「そっ、そんな…」

アレイスター様のような方に褒められると恐縮してしまう。しかもその度に、アザゼル様が牙を剥いて「イザベラは俺のだ」と威嚇して私を抱き締めるから、その度に心臓が跳ねて休まる暇がない。

（…もう、早く着きますように！）

二人に挟まれわたわたとしながら、帰りは別の馬車か馬に乗せてもらおうと誓ったのだった。





ーーそれから私達は何日もかけ目的の場所に到着した。道中どの街に滞在しても、アレイスター様は崇拝の対象だった。私達もその恩恵で破格の待遇を受けた。

「魔物は夜にならないと活動しないからね」
「俺から離れんなよ、イザベラ」
「はい」

以前アザゼル様も仰っていたけれど、魔物という存在は野生動物のようなもので、基本的に人を襲うという行動はしないらしい。

スティラトールの場合は、人間から危害を加えていたことと大神官様が操っていた所為もあり、魔物達然りアザゼル様まで”深淵の魔王”などと恐れられていたいたのだと。

エイルダイアンの人々は魔物とは棲み分けをしていたようで、今回のことでは特に恐怖が蔓延しているらしい。

（私は私にできることを）

アレイスター様は魔物が逃げ出さないよう、空間保護の魔術を発動させると。その周囲を騎士や武装集団が護りを固めている。私とアザゼル様の傍にも、数人の屈強な男性達がついてくれている。

「大丈夫だ、イザベラ。お前の力を見せつけてやれ」
「…はい！」

彼の言葉に力強く頷くと、私は自身の胸に両手を当てゆっくりと目を閉じた。