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最後に過ごす夜
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「ったくこの国のヤツらはどこまでも勝手だぜ。胸糞悪りぃ」
「イザベラ様が居なければ、全員漏れなく死んでいたというのに」
所詮英雄や女神様とは、誰かが創り出したお伽話なのかもしれない。例えどれだけの功績を挙げようとも、総ての人達から認められ讃えられるということは。
(そんなの構わない)
今の私は、一人ではない。その事実さえあれば私は何だってできるのだ。
「少しでも多くの人の命が助けられて、良かったです」
いつの間にかすっかり秋の香りを含んだ涼やかな風が、私の髪で遊んでいる。二人を見つめふわりと微笑めば、アザゼル様はその大きな掌で頭を撫でてくれた。
「お前は凄いな、イザベラ」
「それには僕も同感です」
「そんなことありません」
ずっと辛くて苦しくて、それを見ないように目を瞑ってた。だけど、誰も恨みたくない。私はもう、自由の翼を手に入れたんだ。どんな感情にも縛られず、ありのままのイザベラとして生きていきたい。
「あ、ちなみに当たり前ですが僕とアザゼル様が同室ですからね」
「は?何でイアンとなんだよ。俺とイザベラでお前が一人だろ?」
「あり得ませんよ拗らせ中年が」
「ああん!?」
ぎゃいぎゃいと言い合いをしている…いや主にアザゼル様が、だけれど。そんな二人を見ながら、褒められた嬉しさに私は頬を緩めた。
「わぁ、これ甘くて美味しい!」
私は目の前にあるふわふわのパンケーキを口いっぱいに頬張りながら、その美味しさに目を輝かせる。
イアンが部屋に食事を調達してくれるというのを断り、私は二人に我儘を言った。
少しだけ街を散策したい、と。
先程騒がれた時イアンが諌めてくれたものを、またこんな風に頼むなんて迷惑だろうと思ったのだけれど。
旅に出る前に一度だけ、聖女ではなくイザベラとして街の雰囲気を味わってみたかったのだ。
「ふむ。この焼き加減は確かになかなかのものですね。参考にしましょう」
「ちっ。じろじろ見られて居心地悪いぜ」
しかめ面のアザゼル様だけれど、それでもちゃんと着いてきてくれるから優しい。私はもう、銀の髪をローブで隠すこともしていない。
生まれて初めて店に入り、ご飯を食べる。出来立ての料理はどれも美味しくて、次から次へとつい手が伸びてしまう。
「あの…イアン」
一度ごくんと飲み込んで、私は彼の耳元に少しだけ顔を近付け小さな声で囁いた。
「こんなこと言うのはいけないかもしれませんが、私にとってはイアンのご飯の方がおいしいです」
彼はバイオレットの瞳を丸くした後、少しだけ頬を緩める。
「…イザベラ」
不意に隣から不機嫌そうな声が聞こえて、ぐいっと頬を掴まれる。そしてあろうことかぺろりと、口の端を舐められた。
「あっ、あっ、アザゼル様今何を…っ!」
「…ソースついてた」
一瞬で火がついたように熱くなった頬を押さえながら彼を睨んだけれど、当の本人も顔を赤くしているのを見てそれ以上何も言えなくなってしまう。
(恥ずかしい…っ!)
愛していると言われて以降、アザゼル様の一挙手一投足にますます振り回されている私は、心臓がいくつあっても足りないと思ってしまうのだった。
「イザベラ様が居なければ、全員漏れなく死んでいたというのに」
所詮英雄や女神様とは、誰かが創り出したお伽話なのかもしれない。例えどれだけの功績を挙げようとも、総ての人達から認められ讃えられるということは。
(そんなの構わない)
今の私は、一人ではない。その事実さえあれば私は何だってできるのだ。
「少しでも多くの人の命が助けられて、良かったです」
いつの間にかすっかり秋の香りを含んだ涼やかな風が、私の髪で遊んでいる。二人を見つめふわりと微笑めば、アザゼル様はその大きな掌で頭を撫でてくれた。
「お前は凄いな、イザベラ」
「それには僕も同感です」
「そんなことありません」
ずっと辛くて苦しくて、それを見ないように目を瞑ってた。だけど、誰も恨みたくない。私はもう、自由の翼を手に入れたんだ。どんな感情にも縛られず、ありのままのイザベラとして生きていきたい。
「あ、ちなみに当たり前ですが僕とアザゼル様が同室ですからね」
「は?何でイアンとなんだよ。俺とイザベラでお前が一人だろ?」
「あり得ませんよ拗らせ中年が」
「ああん!?」
ぎゃいぎゃいと言い合いをしている…いや主にアザゼル様が、だけれど。そんな二人を見ながら、褒められた嬉しさに私は頬を緩めた。
「わぁ、これ甘くて美味しい!」
私は目の前にあるふわふわのパンケーキを口いっぱいに頬張りながら、その美味しさに目を輝かせる。
イアンが部屋に食事を調達してくれるというのを断り、私は二人に我儘を言った。
少しだけ街を散策したい、と。
先程騒がれた時イアンが諌めてくれたものを、またこんな風に頼むなんて迷惑だろうと思ったのだけれど。
旅に出る前に一度だけ、聖女ではなくイザベラとして街の雰囲気を味わってみたかったのだ。
「ふむ。この焼き加減は確かになかなかのものですね。参考にしましょう」
「ちっ。じろじろ見られて居心地悪いぜ」
しかめ面のアザゼル様だけれど、それでもちゃんと着いてきてくれるから優しい。私はもう、銀の髪をローブで隠すこともしていない。
生まれて初めて店に入り、ご飯を食べる。出来立ての料理はどれも美味しくて、次から次へとつい手が伸びてしまう。
「あの…イアン」
一度ごくんと飲み込んで、私は彼の耳元に少しだけ顔を近付け小さな声で囁いた。
「こんなこと言うのはいけないかもしれませんが、私にとってはイアンのご飯の方がおいしいです」
彼はバイオレットの瞳を丸くした後、少しだけ頬を緩める。
「…イザベラ」
不意に隣から不機嫌そうな声が聞こえて、ぐいっと頬を掴まれる。そしてあろうことかぺろりと、口の端を舐められた。
「あっ、あっ、アザゼル様今何を…っ!」
「…ソースついてた」
一瞬で火がついたように熱くなった頬を押さえながら彼を睨んだけれど、当の本人も顔を赤くしているのを見てそれ以上何も言えなくなってしまう。
(恥ずかしい…っ!)
愛していると言われて以降、アザゼル様の一挙手一投足にますます振り回されている私は、心臓がいくつあっても足りないと思ってしまうのだった。
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