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イザベラとアザゼルの旅路

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ーーそれから私とアザゼル様は何日もかけて国を回り治癒を施していった。彼の言う通り瘴気は国中に蔓延しており、救うことのできなかった命もたくさんあった。

その度に心はずきずきと痛み、どうかスティラトールの女神様のご加護がありますようにと、祈りを捧げた。

「イザベラ、お前少し休め」
「私は大丈夫ですから、アザゼル様こそお体を休めてください」
「アザゼル…?その名前は彼の…」

私がアザゼル様の名前を呼ぶ度に皆反応したけれど、それどころではなかったのだろう。こんな事態に陥っても大神官様の姿はなく、聖女である私は魔王と呼ばれる男と共に人々に治癒を施しているという、非常に不可解な状況。

けれど瘴気は私が思う以上に民達を苦しめており、自身の命が助かっても大切な誰かを失えばその哀しみは計り知れなかった。

「聖女様、どうして見捨てるの!?」
「私は、死者を蘇らせることはできないのです」

もう何度、この言葉を繰り返したか知れない。私だって、この手から零れ落ちていく命を目の当たりにして、かなしくないわけがなかった。救えるものならば、救いたかった。

「聖女様…ありがとう、ありがとう…」

そう言って大粒の涙を流す者も居れば、自身が血塗れで苦しんでいようとも、他者の為必死に動き回る者もいた。

(やっぱりまだ、この国は終わってない)

ふらふらと意識を失いそうになる度に、私は自身を回復させる。不思議なことに、使えば使う程に枯渇していくどころか身体の底から力が漲るような感覚になっていった。

スティラトールは小国であるが、それでも全土を渡るのは容易いことではない。アザゼル様の魔術がなければ、とてもこなすことはできなかっただろう。

私とアザゼル様は、国中の街や村を巡り治癒を施した。それは心身共に過酷な旅だったけれど、アザゼル様は最後までふてぶてしく笑っていた。

「言ったろ?俺がお前を助けてやるって」

金の瞳を揺らしながら笑う彼を見て、思わず涙を流す。そんな私を、アザゼル様は力強く抱き締めてくれたのだった。




「聖女イザベラ。この度の貴女の働きには、心より感謝しなければなりません。誰が何と言おうが、私は貴女をこの国の誇りだと確信しています」

旅が終わり、私達は国王に謁見するようにと命を受けた。この瘴気が原因で前国王は崩御なされ、代わりに即位したのはまだ年若き第一王太子殿下だった。

王城で治癒を施すことはあっても、宮殿に足を踏み入れたことは一度もなく、こうして間近で王太子殿下の姿を拝見するのも初めてだった。

まだ幼さの残る顔立ちではあるが、整った顔立ちの美丈夫で、薄青色の瞳はまっすぐに私に向けられている。

誠実そうな印象で、この凄惨な状況をどうにか打開したいと言う強い意志がひしひしと伝わってきた。

この方ならきっとこの先スティラトールを良い方向に導いてくれる筈だと、私にはそう思えた。

「大聖堂を調べた所、貴女の仰る通り大神官は数百年に渡りこの国を裏で牛耳る、人ならざる存在だったようです。その力で王家を支配し、この国が栄えぬよう上手く操っていたようですね。それに気が付けなかった私達は、本当に愚かな暗君です」
「国王陛下…」
「この国に残っている聖女に関する文献も、おそらく全てでたらめでしょう。修道女数人から、貴女がこれまでいかに不当な扱いを受けていたか、ようやく真実を聞き出すことができました。権力を持つ者は愚かにも、こんな事態でさえ己の保身しか考えぬようだ」

国王陛下は玉座から立ち上がると、私の前までやってくる。そして自ら深々と感謝の意を評した。

「そっ、そんな畏れ多いです国王陛下…っ」
「いいえ、貴女は元より正当な評価を受けるべき高潔な存在だ。スティラトールを救った聖女に、心からの感謝を」

国王陛下に倣い、その場にいた誰もがこちらに向かって目を伏せ感謝の意を示している。

突然のことにどうしたらいいのか分からず、私はアザゼル様に助けを求める。けれど彼はむすっとしたまま、私の手を握るだけだった。
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