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アザゼル、その人
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「おえ。この距離移動すんの、やっぱキツいわ」
「…」
「あーらら、聖女様目回しちまってるし。おーい、着いたぞ。起きろって」
(ん、んん……っ)
頬に感触を感じて、私の意識はゆっくりと覚醒に向かう。自分が気を失ったことにも、気付いていなかった。
(何だかあったかい。もう少しだけ、このまま…)
「可愛い眠り姫。魔王様の熱いキス、ご所望?」
「っ!!」
ふぅーっと耳に吐息を吹きかけられ、私の意識は瞬時に覚醒した。
ばちりと、視線が絡み合う。
「なんだ、残念」
ぺろりと舌を出したその人の瞳は、正に目の醒めるような金色だった。
「オーロ…」
黄金色の羽を持った愛しいあの子を思い出し、思わず呟く。すると彼は何故か、心底驚いたように目を見開いた。
「あ…お、降ろしてください…っ!」
自分が未だに抱き抱えられていることに気が付き、私は慌てて身を捩らせる。その人は素直に従う。
「あ、ありがとう…ございます…」
「なんだ、律儀だな聖女様は」
「た、例え貴方が恐ろしい“魔王”であろうと、礼儀を欠くことは致しませんっ」
きっと彼を睨みつけても、全く効果がない気がする。黄金色の瞳に見つめられると、なぜか心を許してしまいそうになる。
「…気付いてるわけではねーのか」
「な、なんですか?」
「いや、別に?」
艶やかな黒髪を揺らし、彼は愉しげに笑う。
まるで紳士のそれのように、恭しくボウ・アンド・スクレープをしてみせた。
「聖女様、改めてご挨拶を。俺はアザゼル、周りの奴らは俺のことを“深淵の魔王”なんて呼んでいるみたいだが」
「アザ、ゼル…」
「親しみを込めて、アズ様って呼んでくれても構わないけど?」
彼が、深淵の魔王と呼ばれる存在。突如現れ、魔物達からも恐れられる正に“魔王”。
世にも恐ろしい風貌をしていると聞いていたけれど、人間と変わらないように見える。
それどころか…
(こんなに美しい男の人、初めて見たわ)
人間離れしているという意味では、魔王と呼ぶにふさわしいのかもしれない。艶やかな濡羽色の長髪に滑らかな肌、すらっとした身体と綺麗な指先。
そして何より、長いまつ毛に縁取られた黄金色に輝く瞳。
すでに魔術でも使われてしまったのかと錯覚するほどに、視線を逸せなくなる。
「そんなに熱い瞳で見つめられると、さすがの俺でも照れますよ聖女様」
「そ、そんなことしていません!」
苦し紛れにぷいっと顔を背けると、くつくつと愉しげに喉を鳴らす音が聞こえた。
今更ながら周りを見渡すと、辺り一面うっそうと生い茂る草木で覆われている。陽の光すら届かないここはまるで、深い深い森の中のようだ。
(まさかここは…)
少し考えれば、それは分かること。自身の身体からみるみる血の気が引いていくのを感じた。
「…」
「あーらら、聖女様目回しちまってるし。おーい、着いたぞ。起きろって」
(ん、んん……っ)
頬に感触を感じて、私の意識はゆっくりと覚醒に向かう。自分が気を失ったことにも、気付いていなかった。
(何だかあったかい。もう少しだけ、このまま…)
「可愛い眠り姫。魔王様の熱いキス、ご所望?」
「っ!!」
ふぅーっと耳に吐息を吹きかけられ、私の意識は瞬時に覚醒した。
ばちりと、視線が絡み合う。
「なんだ、残念」
ぺろりと舌を出したその人の瞳は、正に目の醒めるような金色だった。
「オーロ…」
黄金色の羽を持った愛しいあの子を思い出し、思わず呟く。すると彼は何故か、心底驚いたように目を見開いた。
「あ…お、降ろしてください…っ!」
自分が未だに抱き抱えられていることに気が付き、私は慌てて身を捩らせる。その人は素直に従う。
「あ、ありがとう…ございます…」
「なんだ、律儀だな聖女様は」
「た、例え貴方が恐ろしい“魔王”であろうと、礼儀を欠くことは致しませんっ」
きっと彼を睨みつけても、全く効果がない気がする。黄金色の瞳に見つめられると、なぜか心を許してしまいそうになる。
「…気付いてるわけではねーのか」
「な、なんですか?」
「いや、別に?」
艶やかな黒髪を揺らし、彼は愉しげに笑う。
まるで紳士のそれのように、恭しくボウ・アンド・スクレープをしてみせた。
「聖女様、改めてご挨拶を。俺はアザゼル、周りの奴らは俺のことを“深淵の魔王”なんて呼んでいるみたいだが」
「アザ、ゼル…」
「親しみを込めて、アズ様って呼んでくれても構わないけど?」
彼が、深淵の魔王と呼ばれる存在。突如現れ、魔物達からも恐れられる正に“魔王”。
世にも恐ろしい風貌をしていると聞いていたけれど、人間と変わらないように見える。
それどころか…
(こんなに美しい男の人、初めて見たわ)
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そして何より、長いまつ毛に縁取られた黄金色に輝く瞳。
すでに魔術でも使われてしまったのかと錯覚するほどに、視線を逸せなくなる。
「そんなに熱い瞳で見つめられると、さすがの俺でも照れますよ聖女様」
「そ、そんなことしていません!」
苦し紛れにぷいっと顔を背けると、くつくつと愉しげに喉を鳴らす音が聞こえた。
今更ながら周りを見渡すと、辺り一面うっそうと生い茂る草木で覆われている。陽の光すら届かないここはまるで、深い深い森の中のようだ。
(まさかここは…)
少し考えれば、それは分かること。自身の身体からみるみる血の気が引いていくのを感じた。
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