「聖女は民の為に生き民の為に死ぬ」と教えられ生きてきた私は、深淵の魔王に溺愛される

ー聖女とは民の為に生きる者。その慈悲深き御心を、どうか我らの為に

スティラトール王国では、聖女と呼ばれる存在はそういうものであった。

百年ぶりにこの国に誕生した聖女・イザベラは国の為にその身を削り聖女としての役割を果たしていた。

ずたぼろの修道服に掘建小屋のような住まい。どれだけ働こうと次の日には元通りになる体は、まるで彼女に一日たりとも休むことは許さないとでも言っているかのようだった。

産まれた瞬間からそれが普通の世界で育ったイザベラは、文句ひとつこぼすこともなく国だけの為に生きる日々。それが幸せかどうかなど、考える思考すら彼女にはなかった。

ある日偶然保護した、金色の美しい小鳥。それが魔物だと分かっていたが、イザベラは怪我を治してやる。すると小鳥はイザベラに懐き、しばらく生活を共にすることに。

イザベラは小鳥との毎日に幸せを感じていたが、ある日突然小鳥は姿を消した。そしてそれと入れ替わるように、彼女の前に一人の男が現れる。

「俺がお前に本物の幸せを教えてやるよ、イザベラ」

赤い舌を覗かせながら妖しく笑うその男は、深い森の奥に住まう「深淵の魔王」と呼ばれる存在だった。



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