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特別編「フィリアとオズベルトは、理想の夫婦」
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「まったく、お前は。いつまで経っても女性に対しての妙な偏見を拗らせたままなんだな」
「そ、そういうお前だって昔は!」
「だから結婚して変わったと、何度も説明しただろう」
どうやら、マリッサのおかげで誤解は解けたよう。護衛三人組も一緒に私を庇い、アイゼンベルク様に対して私が全く色目を使っていないと説明してくれた。
「熱い瞳でこっちを見つめてきたくせに!」
「それは、アシダカグモみたいで素敵だなって」
「ま、またこの俺をクモ呼ばわりしたな‼︎」
目の前でむすっと頬を膨らませる彼は、いまだに納得がいっていない様子。何やら私への不満をぶつぶつと呟いて、旦那様に思いきり頬っぺたを引っ張られた。
「い、いひゃい馬鹿!」
「馬鹿はお前だ、馬鹿!」
「だ、旦那様。喧嘩はもうそのくらいで」
元はといえば、私がふらふらと危なっかしい足取りで帝都を歩いていたのが原因。アイゼンベルク様は助けてくださっただけだし、人様のお屋敷でこれ以上騒ぐのも良くない。
「私にとっては褒め言葉だったのですが、不快にさせてしまったのでしたら申し訳ありません」
「べ、別に不快というほどでは」
「あと、好きだと勘違いさせてしまったことも」
「そ、それはわざわざ言うな!」
いつの間にか、彼の髪を靡かせていた風が止んでいる。どうやらアイゼンベルク様は、見た目だけでなく中身も魅力的な方らしい。最初は「なんだこの人」と思わなくもなかったけれど、だんだん可愛らしく見えてきた。
「要するに、旦那様のことが大好きなのですね」
「どうしてそういう解釈になるんだ‼︎」
「じゃあ、取られたみたいで寂しかったとか」
「そ、それは……っ」
不機嫌そうに横を向いた拍子に、赤く染まった耳が銀髪からひょこっと覗いている。なんだか、私の可愛い弟ケニーにも似ているような気がしてきた。アンナマリア様とは相変わらず顔を合わせれば喧嘩ばかりしているけれど、なんだかんだで仲が良い。
「つまりはそういう関係なのよね、お二人も」
「貴女の話は本当に支離滅裂だ!意味不明だ!」
一人で納得してうんうんと頷いている私に、アイゼンベルク様の強烈な突っ込みが入る。それはその通りで、本来私はこんな風にして社交界からも浮きまくっていた。話が通じないなんて、一体何度言われてきたか分からない。
「ご安心を。フィリア様はやれば出来る子です」
「マリッサはなんだかんだで私に甘いから」
「いや、彼女の言う通りだ。フィリアのポテンシャルには誰も敵わない」
その場にいるアイゼンベルク様以外の全員が、旦那様の言葉にしっかりと頷く。褒められることに慣れていない私は居た堪れなくなり、その場にちょんと縮こまった。
「とにかく。すべてお前の勘違いだ。フィリアは見た目に惑わされるような女性ではないし、僕の良き妻だ」
旦那様は私の肩を抱きながら、ふんと勝ち誇ったように胸を張る。同時にアイゼンベルク様が、がっくりと膝をついた。
「オズベルトの裏切り者め……!」
「なんとでも言うがいいさ」
「俺の気持ちを理解出来るのはお前だけだったのに!」
どうやら彼は、私と旦那様を愛のない政略結婚だと勘違いしていた模様。結婚式には都合が悪くて来られていなかったらしいけれど、もしもあれを目の当たりにしていたらもっとそう感じていただろう。
それに最初は私も彼も白い結婚のつもりだったから、アイゼンベルク様の言い分もあながち間違いではないのだ。綺麗な顔に生まれた者の宿命、辛さ、煩わしさ、エトセトラ。嫌な思いや怖い思いをしてきたかもしれない、私が百パーセントは理解してあげられないデリケートな部分。
旦那様とアイゼンベルク様は友人関係だけれど、そういった部分でも互いを分かり合える大切な存在。それが私のせいで壊れてしまうのは、ちょっと居た堪れない。
どうするのが最善かと考えた結果、答えはこれしか出て来なかった。
「やっぱり私、帰りますね」
すくっと立ち上がってにこっと微笑むと、ドレープの少ないドレスの裾をひらりと翻した。突拍子のない台詞にもちろん皆驚いていたけれど、マリッサだけは既に私の帽子を手にしていた。
「そ、そういうお前だって昔は!」
「だから結婚して変わったと、何度も説明しただろう」
どうやら、マリッサのおかげで誤解は解けたよう。護衛三人組も一緒に私を庇い、アイゼンベルク様に対して私が全く色目を使っていないと説明してくれた。
「熱い瞳でこっちを見つめてきたくせに!」
「それは、アシダカグモみたいで素敵だなって」
「ま、またこの俺をクモ呼ばわりしたな‼︎」
目の前でむすっと頬を膨らませる彼は、いまだに納得がいっていない様子。何やら私への不満をぶつぶつと呟いて、旦那様に思いきり頬っぺたを引っ張られた。
「い、いひゃい馬鹿!」
「馬鹿はお前だ、馬鹿!」
「だ、旦那様。喧嘩はもうそのくらいで」
元はといえば、私がふらふらと危なっかしい足取りで帝都を歩いていたのが原因。アイゼンベルク様は助けてくださっただけだし、人様のお屋敷でこれ以上騒ぐのも良くない。
「私にとっては褒め言葉だったのですが、不快にさせてしまったのでしたら申し訳ありません」
「べ、別に不快というほどでは」
「あと、好きだと勘違いさせてしまったことも」
「そ、それはわざわざ言うな!」
いつの間にか、彼の髪を靡かせていた風が止んでいる。どうやらアイゼンベルク様は、見た目だけでなく中身も魅力的な方らしい。最初は「なんだこの人」と思わなくもなかったけれど、だんだん可愛らしく見えてきた。
「要するに、旦那様のことが大好きなのですね」
「どうしてそういう解釈になるんだ‼︎」
「じゃあ、取られたみたいで寂しかったとか」
「そ、それは……っ」
不機嫌そうに横を向いた拍子に、赤く染まった耳が銀髪からひょこっと覗いている。なんだか、私の可愛い弟ケニーにも似ているような気がしてきた。アンナマリア様とは相変わらず顔を合わせれば喧嘩ばかりしているけれど、なんだかんだで仲が良い。
「つまりはそういう関係なのよね、お二人も」
「貴女の話は本当に支離滅裂だ!意味不明だ!」
一人で納得してうんうんと頷いている私に、アイゼンベルク様の強烈な突っ込みが入る。それはその通りで、本来私はこんな風にして社交界からも浮きまくっていた。話が通じないなんて、一体何度言われてきたか分からない。
「ご安心を。フィリア様はやれば出来る子です」
「マリッサはなんだかんだで私に甘いから」
「いや、彼女の言う通りだ。フィリアのポテンシャルには誰も敵わない」
その場にいるアイゼンベルク様以外の全員が、旦那様の言葉にしっかりと頷く。褒められることに慣れていない私は居た堪れなくなり、その場にちょんと縮こまった。
「とにかく。すべてお前の勘違いだ。フィリアは見た目に惑わされるような女性ではないし、僕の良き妻だ」
旦那様は私の肩を抱きながら、ふんと勝ち誇ったように胸を張る。同時にアイゼンベルク様が、がっくりと膝をついた。
「オズベルトの裏切り者め……!」
「なんとでも言うがいいさ」
「俺の気持ちを理解出来るのはお前だけだったのに!」
どうやら彼は、私と旦那様を愛のない政略結婚だと勘違いしていた模様。結婚式には都合が悪くて来られていなかったらしいけれど、もしもあれを目の当たりにしていたらもっとそう感じていただろう。
それに最初は私も彼も白い結婚のつもりだったから、アイゼンベルク様の言い分もあながち間違いではないのだ。綺麗な顔に生まれた者の宿命、辛さ、煩わしさ、エトセトラ。嫌な思いや怖い思いをしてきたかもしれない、私が百パーセントは理解してあげられないデリケートな部分。
旦那様とアイゼンベルク様は友人関係だけれど、そういった部分でも互いを分かり合える大切な存在。それが私のせいで壊れてしまうのは、ちょっと居た堪れない。
どうするのが最善かと考えた結果、答えはこれしか出て来なかった。
「やっぱり私、帰りますね」
すくっと立ち上がってにこっと微笑むと、ドレープの少ないドレスの裾をひらりと翻した。突拍子のない台詞にもちろん皆驚いていたけれど、マリッサだけは既に私の帽子を手にしていた。
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