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最終章「適当がいつの間にか愛に変わる時」
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「いつも弟と仲良くしてくださってありがとうございます、アンナ様」
「べ、別に仲良くしているわけではないわ!ケニーがどうしてもというから、特別に付き添いを許してあげているだけよ!」
応接室にて、ブルーメル産のハーブティーとマリッサ特製の焼き菓子を振る舞いながら、和かに彼女に話しかける。紅く色付いた頬をぷくっと膨らまして、アンナマリア様は照れ隠しのように怒っていた。
男女のあれこれに興味がなかった私だけれど、この二人がお互いを大好きだというのは丸わかりで、実に微笑ましい。それが恋愛に発展するかどうかは本人次第だけれど、もしも未来を約束するような仲になったら素敵だと思う。
今回ももちろんケニーは同行しているけれど、今は旦那様と書物庫に行っている。私よりよほどしっかりしていて、今から次期マグシフォン当主としての勉強を積んでいるらしい。見習いたいけど、到底真似出来そうにない。
「そういえば、アンナ様にプレゼントがあるんです!」
「なによ、まさか虫とか草とか言い出すのではなくって?」
「さすがの私もそこは弁えています」
自分がもらって嬉しいものが、相手もそうだとは限らない。仮に私なら、珍しい蝶や食虫花なんて素敵だなとは思うけれど。
彼女に手渡したのは、私が縫ったスカーフ。ヴァンドームの屋敷に咲き誇る花々をイメージした刺繍を施した、我ながら会心の出来の一枚だ。
「先日の生誕パーティーに間に合わず、申し訳ありません。どうしても納得のいくものにしたくて」
包み紙からそれを取り出したアンナ様は、光に透かしてほうっと溜息を吐いている。素直じゃない性格をしていても、こういう面で素を隠しきれていないところも凄く可愛い。
「気に入っていただけたみたいで、頑張った甲斐がありました」
「べべべ、別に私は!見惚れていたとか嬉しくて泣きそうだとか、そんな風にはちっとも思っていないんだから!勘違いしないでちょうだい、フィリア!」
「はいはい、分かっていますとも」
彼女の本心はダダ漏れでいるから、この強がりも微笑ましい。とってもよく似合うと褒めちぎれば、アンナ様の頬にますます赤みが差していた。
美味しいハーブティーとお菓子で話に花を咲かせている(主に私が怒られている)と、旦那様と私の可愛い弟ケニーが顔を出す。相変わらずぶすっとした仏頂面だけれど、日に日に美少年へと成長している。
「本当に、私と似なくてよかったわよね」
「は?いきなりなんなんだ、人の顔をじろじろ見て」
表情と同じ不機嫌そうな声色で、じろりとこちらを一瞥する。アンナ様を見つめるほんの一瞬だけ口元が緩んでいたのを、鋭い姉である私は見逃さなかった。
ああ、この部屋には可愛いが詰まっている。ケニーもアンナ様も、それから愛しい旦那様も。
「……やぁ、フィリア。朝食振りだな」
「すみません旦那様、二人を迎える準備に追われていて。色々と手伝ってくださり、ありがとうございます」
「いや、それは構わない」
表面上は冷静を装いつつ、私にだけ分かる彼の拗ねた横顔。ただでさえ多忙な旦那様が、今日は屋敷にいる。そういう日は決まって二人で過ごしていたのだけれど、プレゼントの準備でバタバタしていて碌に会話も出来なかった。そのことに、彼は拗ねているのだ。
「さぁさぁ、二人ともお疲れ様でした。早くソファに座って、美味しいハーブティーを召し上がって!」
内心にやにやとにやけながら、素早く立ち上がってケニーの背中を押す。それから旦那様に近付いて、誰にも気付かれないよう背中に隠して手を繋いだ。
「ふふっ、本当にお可愛らしいですね」
驚いて私を見下ろす旦那様には視線を移さず、自身の唇に人差し指を当てる。
「……ああ、そうだな。とても可愛い」
私達は目の前の二人を見つめながら、似たような台詞を呟いたのだった。
「べ、別に仲良くしているわけではないわ!ケニーがどうしてもというから、特別に付き添いを許してあげているだけよ!」
応接室にて、ブルーメル産のハーブティーとマリッサ特製の焼き菓子を振る舞いながら、和かに彼女に話しかける。紅く色付いた頬をぷくっと膨らまして、アンナマリア様は照れ隠しのように怒っていた。
男女のあれこれに興味がなかった私だけれど、この二人がお互いを大好きだというのは丸わかりで、実に微笑ましい。それが恋愛に発展するかどうかは本人次第だけれど、もしも未来を約束するような仲になったら素敵だと思う。
今回ももちろんケニーは同行しているけれど、今は旦那様と書物庫に行っている。私よりよほどしっかりしていて、今から次期マグシフォン当主としての勉強を積んでいるらしい。見習いたいけど、到底真似出来そうにない。
「そういえば、アンナ様にプレゼントがあるんです!」
「なによ、まさか虫とか草とか言い出すのではなくって?」
「さすがの私もそこは弁えています」
自分がもらって嬉しいものが、相手もそうだとは限らない。仮に私なら、珍しい蝶や食虫花なんて素敵だなとは思うけれど。
彼女に手渡したのは、私が縫ったスカーフ。ヴァンドームの屋敷に咲き誇る花々をイメージした刺繍を施した、我ながら会心の出来の一枚だ。
「先日の生誕パーティーに間に合わず、申し訳ありません。どうしても納得のいくものにしたくて」
包み紙からそれを取り出したアンナ様は、光に透かしてほうっと溜息を吐いている。素直じゃない性格をしていても、こういう面で素を隠しきれていないところも凄く可愛い。
「気に入っていただけたみたいで、頑張った甲斐がありました」
「べべべ、別に私は!見惚れていたとか嬉しくて泣きそうだとか、そんな風にはちっとも思っていないんだから!勘違いしないでちょうだい、フィリア!」
「はいはい、分かっていますとも」
彼女の本心はダダ漏れでいるから、この強がりも微笑ましい。とってもよく似合うと褒めちぎれば、アンナ様の頬にますます赤みが差していた。
美味しいハーブティーとお菓子で話に花を咲かせている(主に私が怒られている)と、旦那様と私の可愛い弟ケニーが顔を出す。相変わらずぶすっとした仏頂面だけれど、日に日に美少年へと成長している。
「本当に、私と似なくてよかったわよね」
「は?いきなりなんなんだ、人の顔をじろじろ見て」
表情と同じ不機嫌そうな声色で、じろりとこちらを一瞥する。アンナ様を見つめるほんの一瞬だけ口元が緩んでいたのを、鋭い姉である私は見逃さなかった。
ああ、この部屋には可愛いが詰まっている。ケニーもアンナ様も、それから愛しい旦那様も。
「……やぁ、フィリア。朝食振りだな」
「すみません旦那様、二人を迎える準備に追われていて。色々と手伝ってくださり、ありがとうございます」
「いや、それは構わない」
表面上は冷静を装いつつ、私にだけ分かる彼の拗ねた横顔。ただでさえ多忙な旦那様が、今日は屋敷にいる。そういう日は決まって二人で過ごしていたのだけれど、プレゼントの準備でバタバタしていて碌に会話も出来なかった。そのことに、彼は拗ねているのだ。
「さぁさぁ、二人ともお疲れ様でした。早くソファに座って、美味しいハーブティーを召し上がって!」
内心にやにやとにやけながら、素早く立ち上がってケニーの背中を押す。それから旦那様に近付いて、誰にも気付かれないよう背中に隠して手を繋いだ。
「ふふっ、本当にお可愛らしいですね」
驚いて私を見下ろす旦那様には視線を移さず、自身の唇に人差し指を当てる。
「……ああ、そうだな。とても可愛い」
私達は目の前の二人を見つめながら、似たような台詞を呟いたのだった。
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