64 / 99
最終章「適当がいつの間にか愛に変わる時」
1
しおりを挟む
♢♢♢
旦那様と改めて夫婦として歩もうと誓い合ったあの日から、早半年。大旦那様を始めバルバさんやクイネ先生、他の使用人達からもそれはそれは歓迎の視線を向けられた。
白い結婚についてはどうやらマリッサとセシルバ様以外には知られていなかったみたいで、皆一様に「過去の辛い経験を乗り越えて真実の愛を見つけたオズベルト万歳」というフラッグを、でかでかと背中に背負っていた(ように私の目には映った)。
旦那様はきりりとした紫黒の瞳で「大げさだ」と一蹴してはいるものの、私を見つけると人参に飛びつくウサギのように飛び跳ねながらこちらに向かってくるものだから、可愛くて心臓がぎゅんと縮む。
お互い素直に胸の内を曝け出して、旦那様は一層私に優しくなった。ふんわり柔らかな笑顔も、意図せず発した自分の台詞に照れる横顔も、散歩や会話に私を誘う時のそわそわした指先も、彼の仕草全てが可愛らしくて仕方ない。
私より六つ年上で、時折護衛騎士として王族直属の近衛騎士団から直々にお呼びがかかるほどの手練れで、道を歩けば女性全員が振り返るくらいの美形。そんな雲の遥か上にいるような方を捕まえて可愛いだなんて、私なんかが言える台詞じゃない。
今でもまだ「これでいいのかな」と悩む気持ちが消えたわけではないけれど、旦那様の気持ちを疑うことはしたくない。自分の中の卑屈な感情も周囲から受ける誹りも、気にしてばかりではキリがない。
そういう時は大体、芝生にごろごろと寝転がった後に甘いものを食べて温めのお湯にゆっくりと足をつけて、キングサイズのベッドで思いきり手足を伸ばしてぐっすり眠る。目覚めた時には頭がすっきりしていて「まぁなんとかなるか」と、呑気に伸びをしているのが私という人間なのだ。
母にはいつも楽観過ぎると呆れられるけれど、いつ死ぬか分からない人生なら楽しまなきゃ損だから。
「僕は、フィリアのその考え方が大好きだ」
季節はがらりと様変わりして、今日はちらちらと雪が降っている。ヴァンドームの屋敷には冬ならではの花が咲き誇り、枯れ色になった大きな葉っぱ達もそれはそれで趣があって素敵。
散歩に行くと報告すると、旦那様は当たり前のようにコートを二着用意する。小庭園の方なので、マリッサは気を遣ってかついてくることはない。
最近困っていることはないかと聞かれそのまま近況を話すと、彼の形のいい眉がぎゅっと中央に寄せられた。なぜそんな顔をさせてしまったのかというと、それは私宛に大勢の手紙が寄せられるからである。
絶賛社交シーズン中の今、貴族達は嬉々としてタウンハウスに移り毎晩のようにパーティーを楽しんでいる。それが嫌で仕方がなかった私は、白い結婚提案によりそれに参加しなくて良くなったと、ベッドの上で小躍りをしていた。
結果として私達は本当の夫婦となるべく歩み寄っている最中なのだけれど、そもそも旦那様もパーティー嫌いだから意見が一致する。ヴァンドーム領はとても広大かつ、片面が海に面したほぼ離れ小島のような地形。友人であるセシルバ様の侯爵領だけと隣接している為、余計ないざこざも起こらない。
こんな我儘を通せるのも、ヴァンドーム辺境伯家の絶大な権力の為せる技と、王都からかなり距離がある事情を考慮されてのこと。というわけで私は、世の貴婦人方がせっせと社交に勤しんでいる中、雪をかき集めて呑気に遊んでいた。
旦那様と改めて夫婦として歩もうと誓い合ったあの日から、早半年。大旦那様を始めバルバさんやクイネ先生、他の使用人達からもそれはそれは歓迎の視線を向けられた。
白い結婚についてはどうやらマリッサとセシルバ様以外には知られていなかったみたいで、皆一様に「過去の辛い経験を乗り越えて真実の愛を見つけたオズベルト万歳」というフラッグを、でかでかと背中に背負っていた(ように私の目には映った)。
旦那様はきりりとした紫黒の瞳で「大げさだ」と一蹴してはいるものの、私を見つけると人参に飛びつくウサギのように飛び跳ねながらこちらに向かってくるものだから、可愛くて心臓がぎゅんと縮む。
お互い素直に胸の内を曝け出して、旦那様は一層私に優しくなった。ふんわり柔らかな笑顔も、意図せず発した自分の台詞に照れる横顔も、散歩や会話に私を誘う時のそわそわした指先も、彼の仕草全てが可愛らしくて仕方ない。
私より六つ年上で、時折護衛騎士として王族直属の近衛騎士団から直々にお呼びがかかるほどの手練れで、道を歩けば女性全員が振り返るくらいの美形。そんな雲の遥か上にいるような方を捕まえて可愛いだなんて、私なんかが言える台詞じゃない。
今でもまだ「これでいいのかな」と悩む気持ちが消えたわけではないけれど、旦那様の気持ちを疑うことはしたくない。自分の中の卑屈な感情も周囲から受ける誹りも、気にしてばかりではキリがない。
そういう時は大体、芝生にごろごろと寝転がった後に甘いものを食べて温めのお湯にゆっくりと足をつけて、キングサイズのベッドで思いきり手足を伸ばしてぐっすり眠る。目覚めた時には頭がすっきりしていて「まぁなんとかなるか」と、呑気に伸びをしているのが私という人間なのだ。
母にはいつも楽観過ぎると呆れられるけれど、いつ死ぬか分からない人生なら楽しまなきゃ損だから。
「僕は、フィリアのその考え方が大好きだ」
季節はがらりと様変わりして、今日はちらちらと雪が降っている。ヴァンドームの屋敷には冬ならではの花が咲き誇り、枯れ色になった大きな葉っぱ達もそれはそれで趣があって素敵。
散歩に行くと報告すると、旦那様は当たり前のようにコートを二着用意する。小庭園の方なので、マリッサは気を遣ってかついてくることはない。
最近困っていることはないかと聞かれそのまま近況を話すと、彼の形のいい眉がぎゅっと中央に寄せられた。なぜそんな顔をさせてしまったのかというと、それは私宛に大勢の手紙が寄せられるからである。
絶賛社交シーズン中の今、貴族達は嬉々としてタウンハウスに移り毎晩のようにパーティーを楽しんでいる。それが嫌で仕方がなかった私は、白い結婚提案によりそれに参加しなくて良くなったと、ベッドの上で小躍りをしていた。
結果として私達は本当の夫婦となるべく歩み寄っている最中なのだけれど、そもそも旦那様もパーティー嫌いだから意見が一致する。ヴァンドーム領はとても広大かつ、片面が海に面したほぼ離れ小島のような地形。友人であるセシルバ様の侯爵領だけと隣接している為、余計ないざこざも起こらない。
こんな我儘を通せるのも、ヴァンドーム辺境伯家の絶大な権力の為せる技と、王都からかなり距離がある事情を考慮されてのこと。というわけで私は、世の貴婦人方がせっせと社交に勤しんでいる中、雪をかき集めて呑気に遊んでいた。
82
お気に入りに追加
2,757
あなたにおすすめの小説
あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。
※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。
元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。
破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。
だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。
初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――?
「私は彼女の代わりなの――? それとも――」
昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。
※全13話(1話を2〜4分割して投稿)
【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!
永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手
ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。
だがしかし
フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。
貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました
吉高 花
恋愛
◆転生&ループの中華風ファンタジー◆
第15回恋愛小説大賞「中華・後宮ラブ賞」受賞しました!ありがとうございます!
かつて散々腐れ縁だったあいつが「俺たち、もし三十になってもお互いに独身だったら、結婚するか」
なんてことを言ったから、私は密かに三十になるのを待っていた。でもそんな私たちは、仲良く一緒にトラックに轢かれてしまった。
そして転生しても奴を忘れられなかった私は、ある日奴が綺麗なお嫁さんと仲良く微笑み合っている場面を見てしまう。
なにあれ! 許せん! 私も別の男と幸せになってやる!
しかしそんな決意もむなしく私はまた、今度は馬車に轢かれて逝ってしまう。
そして二度目。なんと今度は最後の人生をループした。ならば今度は前の記憶をフルに使って今度こそ幸せになってやる!
しかし私は気づいてしまった。このままでは、また奴の幸せな姿を見ることになるのでは?
それは嫌だ絶対に嫌だ。そうだ! 後宮に行ってしまえば、奴とは会わずにすむじゃない!
そうして私は意気揚々と、女官として後宮に潜り込んだのだった。
奴が、今世では皇帝になっているとも知らずに。
※タイトル試行錯誤中なのでたまに変わります。最初のタイトルは「ループの二度目は後宮で ~逃げるための後宮でしたが、なぜか奴が皇帝になっていました~」
※設定は架空なので史実には基づいて「おりません」
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!
白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、
《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。
しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、
義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった!
バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、
前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??
異世界転生:恋愛 ※魔法無し
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる