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第五章「衝撃(たぶん)の真実」

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 それに効果が切れたら、また嫌な思いをさせてしまうかもしれない。一度ネガティブな方向に考え出したら、なかなか反対には舵を切れない。
「君がこの屋敷に来てから、オズベルトは変わった。あの子のあんな姿が見られて私は本当に嬉しいよ」
「あの……、大旦那様」
「ありがとう、フィリア」
 穏やかな笑みを浮かべると、目尻に皺が寄る。これまで積み重ねてきた苦労と功績、それから家族への愛情。元奥様のことで辛い思いをしてきた大旦那様にも、これから一層の幸せが訪れますようにと願わずにはいられない。
 どうすればいいのかと考えあぐねた結果、私は哀しげな表情を隠せないまま、恐るおそる口を開いた。
「違うんです、大旦那様。私は、これっぽっちもあの方のお役に立てていません」
 そう切り出した瞬間、紫黒の瞳の奥に私を案じるような色が差し込む。
「旦那様から聞きました。このヴァンドーム領の屋敷だけに咲くジャラライラという花の香りには、異性を惑わす効果があるのだと。彼の肌にその香気が移ったせいで女性から過剰に言い寄られて、とても辛い思いをしたと話してくださいました」
「ジャラライラ?ああ、あの花のことか」
 大旦那様の視線が、ちらりと庭園の方向に向けられる。私もそれに倣うように、ここからは見えないあの小さくて可憐な花を思い浮かべた。
「それがなぜか、私からも香っているらしいのです。自分では分からないのですが、旦那様からそう指摘されました。彼が私を嫌だと感じないのはそのせいであって、いわばとんでもないずるをしているのと同じことなのです」
 改めて口にすると、余計に気が塞ぐ。当初の予定通り互いに干渉し合わないままなら、こんな風に罪悪感を抱かずに済んだ。ただブルーメルを楽しむことだけを考えられたのにと、そう考えてしまう自分も嫌だ。
「ジャラライラの香気……。はて、なんのことか」
 どんな顔をしていらっしゃるのかが気になって、視線だけでちらっと伺う。大旦那様は何やら考え込むように顎の下を掌で摩りながら、しばらくして「ああ、あの時のあれか」と、ひとつのヒントもない台詞を口にした。
「すまない、それは出鱈目だ」
「へ……?で、でたら……?」
「つまり、まったくの大嘘、出まかせ、荒唐無稽な妄想といったところか」
 さらりとした口調でとんでもない真実をぶち込まれた私は、あんぐりと口を開けるどころか驚きのあまり逆に閉じてしまった。そうしなければ、屋敷中に響き渡る声で「嘘ってなんだ‼︎」と叫んでしまうから。
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