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第四章「溺愛演技が上手過ぎます、旦那様」
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「僕は君にとって、味しか取り柄のないただの肉塊?」
「えっ?そ、そういう意味での発言ではなくて」
「いや、いいんだ。元々悪いのは僕だし」
これ見よがしに落ち込まれると、物凄く失礼なことをしてしまったような気分になる。ただ王女殿下に落ち着いてほしかっただけなのに、旦那様を傷付けてしまうなんて。
「ごめんなさい、旦那様。私、結婚してから毎日が幸せです」
「美味しい食事が食べられるから?」
「それも含められていることは否定できません……。ブルーメルが大好きなので」
馬鹿正直にしか答えられない自分が、なんとも情けない。ここは前言撤回して「旦那様大好き!」とでも言っておいた方が良かったのかもしれない。彼が私をこの場に同伴させたのは、自分には妻という存在がいるから気持ちには答えられないと示す為。
もしかしたら、この方の猛攻を躱したくて婚約すっ飛ばして結婚などという暴挙に出たのだろうか。
「そうだな。思えば君は、最初から彼の地を気に入ってくれた。外見や能力を褒められるよりもずっと、嬉しくて堪らなかった」
「そんなにも素晴らしい容姿をお持ちなのですから、それに惹かれるのは当然のことではありませんか!それを差し置いて、領地を褒めるなど……!」
「私にとっては最高の言葉でした」
きっぱりと言い切るその表情は凛々しくて、思わず視線を奪われる。目が合った瞬間微かに微笑まれ、なぜか反射的に逸らしてしまった。
旦那様は立ち上がると私の目の前にやって来て、それはもう自然に腰元に手をやった。
「今夜は第三王女殿下の生誕パーティーという良き日です。どうか不穏な話題は抜きにして、純粋にお祝いを申し上げたいと思っております」
「ふ、不穏な話⁉︎」
「新婚夫婦に別れろなどと、不穏以外の何者でもありません」
段々と顔が険しくなっていく旦那様に、私はおろおろと慌てるだけ。確かに発言を許されたけれど、彼が不敬罪で裁かれたらどうしようと、気が気じゃない。
覚悟を決めた私は、ことりと旦那様の肩口に頭を預けると、上目遣いに彼を見つめる。仲睦まじい夫婦作戦決行だ!と、頭の中で拳を高く突き上げた。
「そうですね、旦那様。私達、ブルーメルでとっても仲良く暮らしていますものね」
「えっ?」
「自領を大切に思っていらっしゃる旦那様は、本当に素敵です」
精いっぱい可愛い令嬢のふりをして、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。さして長くもない睫毛が忙しなく上下して、慣れない上目遣いにそのままぐるんと白目を剥いてしまいそうだった。
仲良し夫婦は誇張だけれど、旦那様を素敵だと感じていることは嘘じゃない。ブルーメルの歴史や風土や、他にも色々な話を聞かせてくれる彼の表情は穏やかで、慈愛に溢れていて、こちらまで胸が温かくなる。
私の父も領地や領民を大切にする人だから、なんだか懐かしさを感じてしまう。もちろん、広大なヴァンドーム領とこじんまりしたマグシフォン領では責任も重圧も桁違いで、一括りにするのは失礼かもしれないけれど。
「えっ?そ、そういう意味での発言ではなくて」
「いや、いいんだ。元々悪いのは僕だし」
これ見よがしに落ち込まれると、物凄く失礼なことをしてしまったような気分になる。ただ王女殿下に落ち着いてほしかっただけなのに、旦那様を傷付けてしまうなんて。
「ごめんなさい、旦那様。私、結婚してから毎日が幸せです」
「美味しい食事が食べられるから?」
「それも含められていることは否定できません……。ブルーメルが大好きなので」
馬鹿正直にしか答えられない自分が、なんとも情けない。ここは前言撤回して「旦那様大好き!」とでも言っておいた方が良かったのかもしれない。彼が私をこの場に同伴させたのは、自分には妻という存在がいるから気持ちには答えられないと示す為。
もしかしたら、この方の猛攻を躱したくて婚約すっ飛ばして結婚などという暴挙に出たのだろうか。
「そうだな。思えば君は、最初から彼の地を気に入ってくれた。外見や能力を褒められるよりもずっと、嬉しくて堪らなかった」
「そんなにも素晴らしい容姿をお持ちなのですから、それに惹かれるのは当然のことではありませんか!それを差し置いて、領地を褒めるなど……!」
「私にとっては最高の言葉でした」
きっぱりと言い切るその表情は凛々しくて、思わず視線を奪われる。目が合った瞬間微かに微笑まれ、なぜか反射的に逸らしてしまった。
旦那様は立ち上がると私の目の前にやって来て、それはもう自然に腰元に手をやった。
「今夜は第三王女殿下の生誕パーティーという良き日です。どうか不穏な話題は抜きにして、純粋にお祝いを申し上げたいと思っております」
「ふ、不穏な話⁉︎」
「新婚夫婦に別れろなどと、不穏以外の何者でもありません」
段々と顔が険しくなっていく旦那様に、私はおろおろと慌てるだけ。確かに発言を許されたけれど、彼が不敬罪で裁かれたらどうしようと、気が気じゃない。
覚悟を決めた私は、ことりと旦那様の肩口に頭を預けると、上目遣いに彼を見つめる。仲睦まじい夫婦作戦決行だ!と、頭の中で拳を高く突き上げた。
「そうですね、旦那様。私達、ブルーメルでとっても仲良く暮らしていますものね」
「えっ?」
「自領を大切に思っていらっしゃる旦那様は、本当に素敵です」
精いっぱい可愛い令嬢のふりをして、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。さして長くもない睫毛が忙しなく上下して、慣れない上目遣いにそのままぐるんと白目を剥いてしまいそうだった。
仲良し夫婦は誇張だけれど、旦那様を素敵だと感じていることは嘘じゃない。ブルーメルの歴史や風土や、他にも色々な話を聞かせてくれる彼の表情は穏やかで、慈愛に溢れていて、こちらまで胸が温かくなる。
私の父も領地や領民を大切にする人だから、なんだか懐かしさを感じてしまう。もちろん、広大なヴァンドーム領とこじんまりしたマグシフォン領では責任も重圧も桁違いで、一括りにするのは失礼かもしれないけれど。
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