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第四章「溺愛演技が上手過ぎます、旦那様」

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「オズベルト・ヴァンドーム様。第五王女殿下がお呼びですので、どうかご来臨賜りますようお願い申し上げます」
「だ、第五王女殿下が……」
「お一人でいらっしゃいますようにと」
 どうやら王族の御付人らしく、どうりで洗練された雰囲気が漂っていると納得した。第五王女殿下といえば、先ほど本日の主役である第三王女様と並んでいらっしゃった、七つか八つくらいの可愛らしい方。国王陛下や王妃陛下を始め全員が美形で、それはそれは圧巻だった。
「いや、妻の同席も許可願いたい」
「王女殿下の意向を無下にすると?」
「そうではありません。もうこれ以上、彼の方の貴重な時間をいただくことはできないと感じているからです」
 一体何の話だろうと首を傾げていると、セシルバ様が「以前からオズベルトは王女殿下に言い寄られているんだ」と私に耳打ちした。
「承知いたしました。一度お二人でご来臨いただき、以降は王女殿下にご判断を委ねます」
「はい、それで構いません」
 先ほどの表情豊かな旦那様はどこへやら、険しい顔で私の手を離す。非公式とはいえ殿下に謁見するのだから、手なんて繋げるわけがない。それでも、今の今まで感じていた温もりがなくなって、どこか寂しいと思う自分もいた。
 旦那様の過剰な演技(もしくは香気のせいかも)について話し合いたいと思っていたのに、予想外の事態になってしまった。別の意味で緊張に固まってしまう私の頭を、旦那様がぽんぽんと二度撫でた。

 王宮のプライベートサロンに通された私達の目の前には、ソファに腰掛けた第五王女アンナマリア様が不機嫌そうに私を睨めつけている。面会を許されたのが不思議なくらい、嫌われオーラがびしびしと肌に突き刺さる。
「どうぞ、座って。発言も自由に許可します」
「恐れ入ります、王女殿下」
「オズベルト様は、今夜も本当に素敵です。その正装姿も、お髪も、瞳も、すべてが完璧でお美しいですわ」
 私に向ける表情とは百八十度違い、凛とした王女らしい雰囲気が一瞬で甘さを含んだものに変わる。近くで見ると一層綺麗で可愛らしく、年齢よりもずっと大人びて見えた。
 まるで正面から直接太陽の光を浴びせられているみたいで、私なんかは一瞬で溶けてなくなってしまいそう。それでも妻としてこの場にいるのだからと、だらだらと噴き出る汗を必死に拭った。
「単刀直入に申し上げますと、お二人には別れていただきたいのです」
「恐れながら、それは出来ません」
「どうして⁉︎私の方がずっと前から貴方のことを好きだったのに‼︎」
 華奢な指先で顔を覆い、わっと泣き出した王女殿下。おろおろしているのは私だけで、旦那様はいたって冷静沈着に対応している。
「幼い頃、王宮の廊下で転んだ私を優しく抱き上げてくれたあの腕の力強さを、今でもはっきりと覚えています」
 彼女はうっとりと目を細めながら、ありし日の美しい出会いに想いを馳せているようだ。私はといえば、その様子を眺めながら「今も十分幼いんじゃ?」と空気の読めないことを考えていた。
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