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第二章「白い結婚なんて、願ったり叶ったり」

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「私には一生縁のなさそうな苦労です」
「それが、どうやら君にもジャラライカの香りがつき始めているらしい。まだ微かだが、僕に間違いはない」
「ええっ、本当ですか!」
 ということは、今日から私もモテモテのチヤホヤで、どんな男性でも無意識に魅了してしまう魔性の女に変貌を遂げてしまうと、そういうことなのだろうか。
「いやいや、ないない」
 思わず自分で自分に突っ込んでしまうくらい、あり得ない想像をしてしまった。胸も小さければ容姿も平凡だし、異性に好まれる要素がまったくない上に興味を持たれたいとも思わない。
 旦那様が嘘を吐いているようには見えないし、きっと苦労してきたのだろう。けれど、それがまるっと私に当てはまるとは到底考えられなかった。
「きっと、旦那様自身が魅力的だからというのも大きいのではないでしょうか?」
 私は女性にしては背が高い方だけれど、それでも彼の視線はずっと上にある。無意識に芝生を指でいじりながら、上目遣いに見つめた。
「確かに見た目が良いのは認める。それを差し引いても、花香がなければここまで悲惨な目には遭わなかった」
「私はこれまでの旦那様を存じませんので、軽々しいことは言えません。でも、きっと悪いことばかりではありませんよ」
「いいや、悪いことだらけだ。こんな体質は欲しくなかった」
 おお、これはなかなかに拗らせているなと、内心苦笑する。旦那様は心底嫌そうに顔を歪めていて、どうすれば少しでも気を紛らわすことが出来るだろうと考えた結果、変な顔して場を和まそうと思いつく。
「そんなに腹が痛いのか?屋敷へ帰るか?」
「えっ?違います、少しでも笑っていただこうかと」
 渾身の変顔は、ただ腹痛に悶えているだけだと勘違いされてしまった。
「じゃあ、これは?」
「食べすぎて吐きそうなのか?」
「じゃあ、これ!」
「幽霊を見てしまったのか」
 レパートリーがどれも通じず、わたしはがっくりと肩を落とす。そういえば、昔母から淑女教育をサボるなと追いかけられた時も、この顔をしたら大目玉を食らったなと思い出した。
「ははっ、もう良いから」
「ようやく笑ってくださいました!」
 失笑みたいな気もするけれど、笑顔は笑顔。とりあえず気を逸らすことには成功したと、ほっと胸を撫で下ろした。
「やはり君は変わっているな」
「そうなんです。淑女はどうにも、私には難易度が高くて。ですが、裕福な家庭に生まれ育ったことには感謝していますし、家族に迷惑はかけたくなかったので、結婚の提案をしてくださった旦那様には本当に感謝しています」
 ぺこりと頭を下げると、なぜか目をひん剥かれた。私とは違って、どんな顔をしても綺麗なんて凄い。
「もっと責められるかと思った」
「なぜですか?」
「サイコロで結婚相手を決めたと言ったし、そもそも結婚前に酷い内容の手紙を送りつけたし」
 旦那様は、どうやら律儀な性格の人らしい。正直なところ、私は釣書の中から「天の神様の言う通り」で相手を選んだことに、あまり罪悪感を抱いていなかったから。ラッキーくらいにしか思っていなかった私よりずっと、性格も良くて優しい。
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