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第二章「白い結婚なんて、願ったり叶ったり」

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「わ、分かった。どうやらその晴れやかな表情を見るに、嘘ではなさそうだ」
 旦那様は指でこめかみを押さえながらそう言うと、ふいに私の顔を覗き込む。
「最後に、ひとつ確認したい」
「はい、なんでしょう」
「君は僕の匂いを間近で嗅いでも、今と同じことが言える?」
 なんとも不思議な質問だと思ったけれど、冗談を口にしている雰囲気でもない。もしかして、これまで結婚をされていないのは体臭に悩んでいるからなのでは?とピンときた私は、くいっと背伸びをして彼の首元に鼻を近付けた。
「失礼いたしますね」
「お、おい!急になんだ!」
 すんすんと嗅覚を働かせる私と、狼狽える旦那様。よほどのコンプレックスなのかと、胸が痛んだ。
「自信を持ってください!旦那様はちっとも臭くありませんよ!」
「な、なに……?」
「私鼻は効く方なので、信用してください!あ、気を遣っているというわけでもないです!」
 ぐっと親指を立て、ばちんとウィンクをしてみせる。そうこうしているうちにいつの間にか私の部屋に到着していたので、深々と頭を下げた。
「今夜はありがとうございました。では、お休みなさいませ」
 これ以上一緒にいて失言を重ねると大変なので、ドアマンが開けてくれた扉にさっと身を滑り込ませたのだった。

 
♢♢♢
 早朝。鳥の鳴き声で目を覚ました私は、マリッサに準備を整えてもらい庭へと駆け出した。この屋敷に来てから早十日が過ぎ、ようやく緊張からも解放された。
 旦那様はお忙しい方で、初日にディナーをご一緒して以降はほとんど顔を合わせていない。たまにちらっと姿が見えた時には「お勤めご苦労様です!」と元気に挨拶してはいるのだけれど、彼の反応は実に淡白なものだ。
 まぁ、私達は真っ白な結婚という約束。特に気にすることはないし、最低限の礼儀だけちゃんとしていれば問題はなし。
 ああ、最高。好き勝手に自然と戯れても、誰にも何も咎められないなんて。
「嘘おっしゃい。初日からいびきをかいてそれはそれはぐっすり寝ていらっしゃったくせに」
「仕方ないじゃない。だって、とっても疲れていたんですもの」
 もう二度とブルーメルから出たくないと思うくらいに、道中は辛かった。慣れていないせいもあるだろうけれど、とにかく王都から距離があり過ぎる。
「だけど、幸せだわ。朝からこんな風に自由に出来て、お母様が長い爪を見せつけながら追いかけてくることもなくて、めいいっぱい時間を使えるなんて」
「普通の女性なら、暇だと感じるのでは?」
「こんなに贅沢なことはないわよ!だって、一日中好きにしていられるのよ?蟻を追いかけたり、魚を追いかけたり、リスを追いかけたり、蝶を追いかけたり!」
「追いかけ過ぎです」
 朝日を受けてきらきらと光る芝生に腰を下ろすと、ふかふかと心地良い。さすがにマリッサ以外の前で寝転がったりは出来ないから、この朝の時間は結構貴重だ。
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