17 / 99
第二章「白い結婚なんて、願ったり叶ったり」
7
しおりを挟む
「わ、分かった。どうやらその晴れやかな表情を見るに、嘘ではなさそうだ」
旦那様は指でこめかみを押さえながらそう言うと、ふいに私の顔を覗き込む。
「最後に、ひとつ確認したい」
「はい、なんでしょう」
「君は僕の匂いを間近で嗅いでも、今と同じことが言える?」
なんとも不思議な質問だと思ったけれど、冗談を口にしている雰囲気でもない。もしかして、これまで結婚をされていないのは体臭に悩んでいるからなのでは?とピンときた私は、くいっと背伸びをして彼の首元に鼻を近付けた。
「失礼いたしますね」
「お、おい!急になんだ!」
すんすんと嗅覚を働かせる私と、狼狽える旦那様。よほどのコンプレックスなのかと、胸が痛んだ。
「自信を持ってください!旦那様はちっとも臭くありませんよ!」
「な、なに……?」
「私鼻は効く方なので、信用してください!あ、気を遣っているというわけでもないです!」
ぐっと親指を立て、ばちんとウィンクをしてみせる。そうこうしているうちにいつの間にか私の部屋に到着していたので、深々と頭を下げた。
「今夜はありがとうございました。では、お休みなさいませ」
これ以上一緒にいて失言を重ねると大変なので、ドアマンが開けてくれた扉にさっと身を滑り込ませたのだった。
♢♢♢
早朝。鳥の鳴き声で目を覚ました私は、マリッサに準備を整えてもらい庭へと駆け出した。この屋敷に来てから早十日が過ぎ、ようやく緊張からも解放された。
旦那様はお忙しい方で、初日にディナーをご一緒して以降はほとんど顔を合わせていない。たまにちらっと姿が見えた時には「お勤めご苦労様です!」と元気に挨拶してはいるのだけれど、彼の反応は実に淡白なものだ。
まぁ、私達は真っ白な結婚という約束。特に気にすることはないし、最低限の礼儀だけちゃんとしていれば問題はなし。
ああ、最高。好き勝手に自然と戯れても、誰にも何も咎められないなんて。
「嘘おっしゃい。初日からいびきをかいてそれはそれはぐっすり寝ていらっしゃったくせに」
「仕方ないじゃない。だって、とっても疲れていたんですもの」
もう二度とブルーメルから出たくないと思うくらいに、道中は辛かった。慣れていないせいもあるだろうけれど、とにかく王都から距離があり過ぎる。
「だけど、幸せだわ。朝からこんな風に自由に出来て、お母様が長い爪を見せつけながら追いかけてくることもなくて、めいいっぱい時間を使えるなんて」
「普通の女性なら、暇だと感じるのでは?」
「こんなに贅沢なことはないわよ!だって、一日中好きにしていられるのよ?蟻を追いかけたり、魚を追いかけたり、リスを追いかけたり、蝶を追いかけたり!」
「追いかけ過ぎです」
朝日を受けてきらきらと光る芝生に腰を下ろすと、ふかふかと心地良い。さすがにマリッサ以外の前で寝転がったりは出来ないから、この朝の時間は結構貴重だ。
旦那様は指でこめかみを押さえながらそう言うと、ふいに私の顔を覗き込む。
「最後に、ひとつ確認したい」
「はい、なんでしょう」
「君は僕の匂いを間近で嗅いでも、今と同じことが言える?」
なんとも不思議な質問だと思ったけれど、冗談を口にしている雰囲気でもない。もしかして、これまで結婚をされていないのは体臭に悩んでいるからなのでは?とピンときた私は、くいっと背伸びをして彼の首元に鼻を近付けた。
「失礼いたしますね」
「お、おい!急になんだ!」
すんすんと嗅覚を働かせる私と、狼狽える旦那様。よほどのコンプレックスなのかと、胸が痛んだ。
「自信を持ってください!旦那様はちっとも臭くありませんよ!」
「な、なに……?」
「私鼻は効く方なので、信用してください!あ、気を遣っているというわけでもないです!」
ぐっと親指を立て、ばちんとウィンクをしてみせる。そうこうしているうちにいつの間にか私の部屋に到着していたので、深々と頭を下げた。
「今夜はありがとうございました。では、お休みなさいませ」
これ以上一緒にいて失言を重ねると大変なので、ドアマンが開けてくれた扉にさっと身を滑り込ませたのだった。
♢♢♢
早朝。鳥の鳴き声で目を覚ました私は、マリッサに準備を整えてもらい庭へと駆け出した。この屋敷に来てから早十日が過ぎ、ようやく緊張からも解放された。
旦那様はお忙しい方で、初日にディナーをご一緒して以降はほとんど顔を合わせていない。たまにちらっと姿が見えた時には「お勤めご苦労様です!」と元気に挨拶してはいるのだけれど、彼の反応は実に淡白なものだ。
まぁ、私達は真っ白な結婚という約束。特に気にすることはないし、最低限の礼儀だけちゃんとしていれば問題はなし。
ああ、最高。好き勝手に自然と戯れても、誰にも何も咎められないなんて。
「嘘おっしゃい。初日からいびきをかいてそれはそれはぐっすり寝ていらっしゃったくせに」
「仕方ないじゃない。だって、とっても疲れていたんですもの」
もう二度とブルーメルから出たくないと思うくらいに、道中は辛かった。慣れていないせいもあるだろうけれど、とにかく王都から距離があり過ぎる。
「だけど、幸せだわ。朝からこんな風に自由に出来て、お母様が長い爪を見せつけながら追いかけてくることもなくて、めいいっぱい時間を使えるなんて」
「普通の女性なら、暇だと感じるのでは?」
「こんなに贅沢なことはないわよ!だって、一日中好きにしていられるのよ?蟻を追いかけたり、魚を追いかけたり、リスを追いかけたり、蝶を追いかけたり!」
「追いかけ過ぎです」
朝日を受けてきらきらと光る芝生に腰を下ろすと、ふかふかと心地良い。さすがにマリッサ以外の前で寝転がったりは出来ないから、この朝の時間は結構貴重だ。
113
お気に入りに追加
2,757
あなたにおすすめの小説
あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。
※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。
元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。
破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。
だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。
初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――?
「私は彼女の代わりなの――? それとも――」
昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。
※全13話(1話を2〜4分割して投稿)
【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!
永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手
ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。
だがしかし
フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。
貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました
吉高 花
恋愛
◆転生&ループの中華風ファンタジー◆
第15回恋愛小説大賞「中華・後宮ラブ賞」受賞しました!ありがとうございます!
かつて散々腐れ縁だったあいつが「俺たち、もし三十になってもお互いに独身だったら、結婚するか」
なんてことを言ったから、私は密かに三十になるのを待っていた。でもそんな私たちは、仲良く一緒にトラックに轢かれてしまった。
そして転生しても奴を忘れられなかった私は、ある日奴が綺麗なお嫁さんと仲良く微笑み合っている場面を見てしまう。
なにあれ! 許せん! 私も別の男と幸せになってやる!
しかしそんな決意もむなしく私はまた、今度は馬車に轢かれて逝ってしまう。
そして二度目。なんと今度は最後の人生をループした。ならば今度は前の記憶をフルに使って今度こそ幸せになってやる!
しかし私は気づいてしまった。このままでは、また奴の幸せな姿を見ることになるのでは?
それは嫌だ絶対に嫌だ。そうだ! 後宮に行ってしまえば、奴とは会わずにすむじゃない!
そうして私は意気揚々と、女官として後宮に潜り込んだのだった。
奴が、今世では皇帝になっているとも知らずに。
※タイトル試行錯誤中なのでたまに変わります。最初のタイトルは「ループの二度目は後宮で ~逃げるための後宮でしたが、なぜか奴が皇帝になっていました~」
※設定は架空なので史実には基づいて「おりません」
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
【完結】隣国にスパイとして乗り込み故郷の敵である騎士団長様へ復讐をしようとしたのにうっかり恋をしてしまいました
るあか
恋愛
ルカ・エマーソン18歳は12年前に滅びた『魔女の森』の唯一の生き残り。
彼女は当時のことを今でも頻繁に夢に見る。
彼女の国『メドナ王国』の“クリスティア女王陛下”は、隣国『ヴァルトーマ帝国』へ彼女をスパイとして送り込む。
彼女の任務は帝国の騎士団へ所属して“皇帝セシル・ヴァルトーマ”が戦争を仕掛けようとしている事実を掴むこと。
しかしルカには個人的に果たしたいことがあった。それは、帝国の白狼騎士団のヴァレンタイン騎士団長を暗殺すること。
彼は若いながらに公爵の身分であり、騎士の称号は大将。
12年前に『魔女の森』を滅ぼした首謀者だと彼女は考えていて、その確たる証拠を掴むためにもどうしても白狼騎士団へと入団する必要があった。
しかし、白狼騎士団の団長は女嫌いで団員は全員男だと言う情報を得る。
そこで彼女は髪を切り、男装をして入団試験へと挑むのであった。
⸺⸺
根は真面目で素直な少し抜けたところのある、とても暗殺者には向かないルカ。
これは、彼女が復讐すべきである騎士団長へ恋をして当時の事件の真実を知り、愛する彼と共に両国の平和のため尽力して幸せになる、異世界ラブコメファンタジーである。
※後半シリアス展開が続き、戦いによる流血表現もありますのでご注意下さい。
※タイトル変更しました。
【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!
白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、
《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。
しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、
義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった!
バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、
前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??
異世界転生:恋愛 ※魔法無し
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる