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第二章「白い結婚なんて、願ったり叶ったり」

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 それにしても、見れば見るほど綺麗な顔で、まるで絵画の中の住人みたいだと感嘆してしまう。少なくとも、マグシフォン領にはこんな美男子はいなかった。
 男性にしては長めの紫黒色の髪は眩いシャンデリアの光に照らされ、虹色に輝いて見える。前髪の隙間から覗く同じ色の瞳はどこまでも深く、彫りの深い目鼻と引き締まった頬。男性的な喉仏が色気たっぷりで、耳の形まで素敵。芸術品を飾っていると言われても、違和感がない。
「……ですから、何か」
「ひゃ!ご、ごめんなさい不躾に」
 そんなに見ないつもりだったのに、実際は穴が開くほど凝視してしまった。だって、本当に綺麗だと思ったから。例えるならば、そう――。
「ぴかぴか光る幸せの黄金虫を見つけたような気分になってしまって」
「は……?虫とは僕のことか?」
 不機嫌そうな唸り声が聞こえた瞬間、さっと口元を覆う。けれどそれはなんの意味もなくて、私の失言はしっかりとお二人の耳に届いていた。
「わ、私の領では黄金虫は幸運の象徴とされていて、大変に縁起の良い昆虫なのです。旦那様の髪や瞳を見ていると、つい思い出してしまって」
「やはり、僕を虫に見立てていると」
「ただの虫ではありません!黄金虫ですよ?あの黄金虫!」
「虫は虫だ」
 ああ、どうしよう。私の意図がちっとも伝わらない。
「気分を害されたのであれば、謝罪いたします。ですが私が言いたかったのは、旦那様の紫黒色の髪と瞳はとても素敵だということです!」
 また横槍を入れられては敵わないと、息継ぎなしに一気に捲し立てる。勢いあまって、気付けば身を乗り出していた。
「……どうも」
 旦那様はそれだけ言って、ふいと視線を逸らす。なぜかしきりに、指先で髪をいじり始めた。
「ははっ、これはおもしろい」
 口髭を撫でながら、大旦那様が笑う。その様がとても紳士的で色気があって、こちらも何かに例えてしまいそうになる自分を必死に押さえつけた。
「フィリアは、我が息子にはもったいないくらいの妻になりそうだ」
「あっ、そうですね。いつか、黄金虫を捕まえてごらんにいれます!」
「それは楽しみにしているよ」
 私がどんな発言をしても、広い心で受け止めてくれる。そのことが嬉しかった私は、食事中もついぺらぺらとお喋りを続けてしまう。
 時折旦那様に会話を振っても、そっけない相槌だけ。私の歳の離れた弟ケニーもそんな感じなので、大して気にもならなかった。
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