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第一章「適当…と言う名の運命」

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 ヴァンドームのお屋敷は、マグシフォンと比べることすらおこがましいくらいに次元が違う。そもそも領地の規模が広大だから、このくらいでないと示しがつかないのかもしれない。
 目に映る全てが、花、花、花。要所で草木を挟んでまた、花。さすが『花の楽園』。あと、肉がとにかくおいしいらしいからそれも楽しみ。
「そりゃあ、こんな場所で自由に駆け回っていれば肉質も噛みごたえ抜群に引き締まるってものよね」
「恐ろしい表現をなさらないでください」
「あら、失礼」
 夫人らしく控えめに微笑んだつもりなのに、マリッサに溜息を吐かれてしまった。
「奥様、到着いたしました」
「か、体が痒くなっちゃう」
「えっ」
「出来れば名前で呼んでいただけると嬉しいのですが」
 執事長バルバさんの立場的に申し訳ないけれど、これからここで自然と戯れ放題の呑気で贅沢な生活を貪る予定の私には、奥様は荷が重すぎる。
「……どうぞ、こちらへ。足元にお気を付けて」
 バルバさんはにっこりと笑うのみで、エレガントな所作で私の手を支えてくれる。もはや、私より彼の方が奥様に相応しい優雅さと気品を兼ね備えているように思えるのは、きっと気のせいではない。
「わぁ、良い香り……」
 馬車を降りた瞬間、ふわりふわりと甘い香りが、私の体を包み込んでいく。まるで空気が色付いたみたいで、自然と頬が高揚する。香りが自我を持っているかのように、私の目の前でぱちん、ぱちんと弾ける。フレッシュで、繊細で、大胆で、華やか。
 昔から花は大好きだったけれど、私の知っているそれとは全くの別物に感じられた。正に、生命の象徴といえる。
「素敵ね……」
 もう、それしか言えない。
「吐瀉物は?」
「飲み込みましたから今聞かないで」
 せっかく幻想的な雰囲気を楽しんでいたのに、マリッサのおばかさん。
「玄関先でこんなに素晴らしいなら、お庭はもっと凄いんでしょうね。きゃあ、興奮しちゃう!」
 一人できゃぴきゃぴとはしゃぐ私に、生暖かい視線が二人分。
「フィリア様は、大変素直な女性でいらっしゃる」
「少々、いえかなり風変わりですが唯一無二の方です」
「フィリア様のようなお方なら、この屋敷を本当の意味で満開に出来るやもしれませんね」
「さぁ、どうでしょう」
 バルバさんとマリッサがひそひそと囁き合っているのを見て、早速打ち解けていると嬉しく思った。
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