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第一章「適当…と言う名の運命」
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死に物狂いで、ようやく辿り着いたヴァンドーム領。旦那様と碌に顔も合わせないまま、今日から私はこの広過ぎる屋敷の女主人となる。
「って言っても、すでに言質はとってあるもの。私って、ぐうたらすることにかけては天才的なのよね」
「悲しき才能でございます」
「マリッサ、ついてきてくれてありがとう」
「今さらですか。フィリア様らしいですが」
ウィットに飛んだブラックジョークは、彼女の良いところ。なんだかんだで私が心配だと、こんなにも遠い地まで来てくれたことに、心から感謝している。
ちなみに言質とは、この結婚に関する「契約」のようなもの。双方合意してからすぐに、ヴァンドーム様から私宛てに送られてきた。
一、これは「白い結婚」である。
二、口は出すな。手も出すな。
三、互いに自由。
「はい、最高!ああ、神様ありがとう!私これからも、大切なことを決断する時には必ず貴方を頼ります!」
「ただの運じゃないですか」
「運も立派なお導きよ!」
旦那様にも、結婚を急ぐ理由があったみたい。でなければ、子爵家でしかも変わり者の私をわざわざ選んだりはしない。この手紙を読んだ時、妙に納得したのを覚えている。だから、より私の誠意が伝わるように血判で返事を出しておいた。
「ようこそ、遠路はるばるおいでくださいました。私は当屋敷の執事長バルバと申します」
「まぁ、素敵なお名前!よろしくお願い致しますね、バルバさん」
「どうぞ、馬車へお乗りください」
「ぐへぇ」
ま、また馬車。確かにここは正門で、本邸の玄関口はもっとずっと先。マグシフォン家の馬車はさすがに休ませようという気遣いなのだろうけれど、だったら私も休ませてほしい。そこの馬小屋で十分だから。
「さっさと行きますよ、フィリア様」
「ふぁい」
トランクの角でお尻をせっつかれ、しぶしぶ馬車に乗り込む私。綺麗に整備された道のおかげで道中よりは随分ましな気がする。というより、めちゃくちゃ快適。
「見てみてマリッサ!お花が凄いわ!わさわさ咲いているわ!」
「もっと適切な表現はなかったのですか」
「だって、とにかく素敵なんですもの!」
喋りたくないけど勝手に声が出る、という葛藤を抱えながら、私はほとんど車窓に張り付くようにして屋敷の景色を見つめた。
「って言っても、すでに言質はとってあるもの。私って、ぐうたらすることにかけては天才的なのよね」
「悲しき才能でございます」
「マリッサ、ついてきてくれてありがとう」
「今さらですか。フィリア様らしいですが」
ウィットに飛んだブラックジョークは、彼女の良いところ。なんだかんだで私が心配だと、こんなにも遠い地まで来てくれたことに、心から感謝している。
ちなみに言質とは、この結婚に関する「契約」のようなもの。双方合意してからすぐに、ヴァンドーム様から私宛てに送られてきた。
一、これは「白い結婚」である。
二、口は出すな。手も出すな。
三、互いに自由。
「はい、最高!ああ、神様ありがとう!私これからも、大切なことを決断する時には必ず貴方を頼ります!」
「ただの運じゃないですか」
「運も立派なお導きよ!」
旦那様にも、結婚を急ぐ理由があったみたい。でなければ、子爵家でしかも変わり者の私をわざわざ選んだりはしない。この手紙を読んだ時、妙に納得したのを覚えている。だから、より私の誠意が伝わるように血判で返事を出しておいた。
「ようこそ、遠路はるばるおいでくださいました。私は当屋敷の執事長バルバと申します」
「まぁ、素敵なお名前!よろしくお願い致しますね、バルバさん」
「どうぞ、馬車へお乗りください」
「ぐへぇ」
ま、また馬車。確かにここは正門で、本邸の玄関口はもっとずっと先。マグシフォン家の馬車はさすがに休ませようという気遣いなのだろうけれど、だったら私も休ませてほしい。そこの馬小屋で十分だから。
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「ふぁい」
トランクの角でお尻をせっつかれ、しぶしぶ馬車に乗り込む私。綺麗に整備された道のおかげで道中よりは随分ましな気がする。というより、めちゃくちゃ快適。
「見てみてマリッサ!お花が凄いわ!わさわさ咲いているわ!」
「もっと適切な表現はなかったのですか」
「だって、とにかく素敵なんですもの!」
喋りたくないけど勝手に声が出る、という葛藤を抱えながら、私はほとんど車窓に張り付くようにして屋敷の景色を見つめた。
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