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第九章「さよならとただいま」
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「光島先生。これ、残ってました」
「あら、私のものだわ。ありがとう照町さん」
放課後。教室にあった紙袋を渡すと、先生はお礼を言ってくれる。相変わらずクールだし、怖いってウワサだ。
ーーあなたなら、大丈夫
最初から聞こえてた声は、やっぱり光島先生のものだと思う。妖精女王さまはなにも言わなかったけど、先生の名前を否定もしなかった。
ソルが有栖君に、ラランが心谷さんにソックリだったみたいに、ただ見た目が似てるだけだったんだろうか。
“先生は妖精女王さまなんですか?”
なんて、どんなに勇気を出してもさすがに聞けない。
「この袋の中には大切なものが入っていたから、助かりました」
「大切なもの?」
「わたしの友人が作ったの」
そう言いながら、光島先生は紙袋から一冊の本を取り出す。その表紙を見て、わたしは目を丸くした。
「そ、それ…」
「あなたのお母さんと私は、大学の頃からの友人だったの」
「し、知りませんでした」
「言うと変に気を遣わせるかと思って」
わたしが持ってるのと同じくらい、ボロボロの絵本。先生がそれをどれだけ読み込んでるのかが、すぐに分かった。
「あなたのお母さんが書いたお話はどれもステキだけど、特にこれが一番好きなの」
「わ、わたしもです!」
「そう、一緒ね」
光島先生の表情が、少しだけ柔らかくなる。
「感情表現が苦手で周りから浮いていた私に、あなたのお母さんは少しも変わらず接してくれた。それがどれだけ嬉しかったか」
「先生…」
「この話を読むと、いつも勇気をもらえるの。私もちゃんと、自分の力で前に進もうって」
先生の瞳が、悲しそうに揺れてる。お母さんのことを思い出してるのかと思うと、私の胸もギュッとつまる。
「照町さんは、お母さんによくにてるわ。よく気がついて優しくて、思いやりがあって」
「で、でもわたし…上手く話せなくて…」
「大丈夫」
光島先生は、優しく笑う。
「あなたなら、大丈夫よ。自信持って」
「…はい、ありがとうございます!」
わたしは、嬉しくて何度も頷いた。
「それにあんな体験をしたんだから、怖いものなしだと思わない?」
「え…っ、み、光島先生もしかして…」
「フフッ。さぁ、もう帰る時間よ。届けてくれてありがとう」
意味ありげに微笑んだ先生に、わたしは目を白黒させた。
「あら、私のものだわ。ありがとう照町さん」
放課後。教室にあった紙袋を渡すと、先生はお礼を言ってくれる。相変わらずクールだし、怖いってウワサだ。
ーーあなたなら、大丈夫
最初から聞こえてた声は、やっぱり光島先生のものだと思う。妖精女王さまはなにも言わなかったけど、先生の名前を否定もしなかった。
ソルが有栖君に、ラランが心谷さんにソックリだったみたいに、ただ見た目が似てるだけだったんだろうか。
“先生は妖精女王さまなんですか?”
なんて、どんなに勇気を出してもさすがに聞けない。
「この袋の中には大切なものが入っていたから、助かりました」
「大切なもの?」
「わたしの友人が作ったの」
そう言いながら、光島先生は紙袋から一冊の本を取り出す。その表紙を見て、わたしは目を丸くした。
「そ、それ…」
「あなたのお母さんと私は、大学の頃からの友人だったの」
「し、知りませんでした」
「言うと変に気を遣わせるかと思って」
わたしが持ってるのと同じくらい、ボロボロの絵本。先生がそれをどれだけ読み込んでるのかが、すぐに分かった。
「あなたのお母さんが書いたお話はどれもステキだけど、特にこれが一番好きなの」
「わ、わたしもです!」
「そう、一緒ね」
光島先生の表情が、少しだけ柔らかくなる。
「感情表現が苦手で周りから浮いていた私に、あなたのお母さんは少しも変わらず接してくれた。それがどれだけ嬉しかったか」
「先生…」
「この話を読むと、いつも勇気をもらえるの。私もちゃんと、自分の力で前に進もうって」
先生の瞳が、悲しそうに揺れてる。お母さんのことを思い出してるのかと思うと、私の胸もギュッとつまる。
「照町さんは、お母さんによくにてるわ。よく気がついて優しくて、思いやりがあって」
「で、でもわたし…上手く話せなくて…」
「大丈夫」
光島先生は、優しく笑う。
「あなたなら、大丈夫よ。自信持って」
「…はい、ありがとうございます!」
わたしは、嬉しくて何度も頷いた。
「それにあんな体験をしたんだから、怖いものなしだと思わない?」
「え…っ、み、光島先生もしかして…」
「フフッ。さぁ、もう帰る時間よ。届けてくれてありがとう」
意味ありげに微笑んだ先生に、わたしは目を白黒させた。
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