60 / 89
第六章「妖精の剣」
7
しおりを挟む
妖精の剣を手に入れたわたしたち。もうだいぶ日も暮れたし、その場所で野宿することに決めた。ここは他と違って、魔獣たちも近寄って来れないらしい。
持ってきたパンと、ソルが作ってくれた即席のスープ。体があったまるし、緊張してた心がホッと落ち着いた。
食事を終えて、わたしたちは焚き火のそばに座る。わたしを真ん中にして、ソルとルミエール姫。ラランとソララは休むと言って、木の上に飛んでいってしまった。
「火起こしもあっという間だったし、ソルはなんでもできるんだね」
「騎士見習いとして遠征についていくこともあるし、このくらいは当然だ」
「悪かったわね。どうせわたくしは足手まといよ」
「誰もそんなこと言ってないだろ?」
ソルとルミエール姫の視線がバチッと合わさったから、わたしは慌てて間に入る。
「そ、そういえばね?わたしのクラス……えっと、知り合いにアリス君っていう男の子がいるんだけど」
なんとか話題を、って思った時にソルの顔が視界に入ってきて、わたしは有栖君の名前を出した。
「ソルと顔がソックリなんだよ。初めて会った時ビックリしちゃった」
「ああ、そういやすごい顔してたもんな」
「しっ、してないよ!」
「してたしてた」
おかしそうに笑われて、わたしは少しだけ唇を尖らせる。
「わたくしたちも瓜二つだし、不思議なこともあるものだわ」
「確か、お前の本の世界と似てるんだっけ?」
「うん。わたしのお母さんが描いた“”っていう絵本とおんなじ」
そう口にして、ふと首を傾げる。
「二人とも、信じてくれるんだ……」
「なによ、いまさらそんなこと」
「最初は信じてくれなかったくせに」
「あら、そうだったかしら」
しれっとしてるルミエール姫に、わたしは苦笑いするしかできない。
ソルもソルで、いたって普通だ。
「わざわざそんなウソついてまで命かけるヤツなんかいないだろ」
「命……そうだよね」
もといた場所とは違う。ここには、なんの補償もないんだ。
「この世界を元に戻せば、きっと帰れる気がする。根拠はないけど…」
「戻れなくたって、わたくしの影武者として雇ってあげるわよ」
「あ、あはは…」
それは遠慮します、とは言えない。
「話は戻るけど、ソルにソックリなアリス君もすごくいい人なんだよ。明るくて優しくて、いつも話しかけてくれるんだ」
「へぇ、さすが俺に似てるだけはあるな」
「でもわたし、話すのが苦手で。アリス君にもいつも、嫌な態度しかとれなくて……」
しょんぼりとうつむくわたしの両隣から、それぞれ声が降ってくる。
「あら、あなた最初に比べたらずいぶん話せるようになってるわよ」
「今じゃ腰に剣までぶら下げてるしな」
「そっ、それは」
「わたくしに嫌味まで言えるんだもの」
「いっ、嫌味なんてっ」
ソルもルミエール姫も、焦るわたしを見てイタズラっぽく笑った。
「これが終わる頃には、変われてるのかな……」
ポツンと呟くと、二人も笑うのをやめる。
わたしたちは三人揃って、月も星も見えない空を見上げた。
持ってきたパンと、ソルが作ってくれた即席のスープ。体があったまるし、緊張してた心がホッと落ち着いた。
食事を終えて、わたしたちは焚き火のそばに座る。わたしを真ん中にして、ソルとルミエール姫。ラランとソララは休むと言って、木の上に飛んでいってしまった。
「火起こしもあっという間だったし、ソルはなんでもできるんだね」
「騎士見習いとして遠征についていくこともあるし、このくらいは当然だ」
「悪かったわね。どうせわたくしは足手まといよ」
「誰もそんなこと言ってないだろ?」
ソルとルミエール姫の視線がバチッと合わさったから、わたしは慌てて間に入る。
「そ、そういえばね?わたしのクラス……えっと、知り合いにアリス君っていう男の子がいるんだけど」
なんとか話題を、って思った時にソルの顔が視界に入ってきて、わたしは有栖君の名前を出した。
「ソルと顔がソックリなんだよ。初めて会った時ビックリしちゃった」
「ああ、そういやすごい顔してたもんな」
「しっ、してないよ!」
「してたしてた」
おかしそうに笑われて、わたしは少しだけ唇を尖らせる。
「わたくしたちも瓜二つだし、不思議なこともあるものだわ」
「確か、お前の本の世界と似てるんだっけ?」
「うん。わたしのお母さんが描いた“”っていう絵本とおんなじ」
そう口にして、ふと首を傾げる。
「二人とも、信じてくれるんだ……」
「なによ、いまさらそんなこと」
「最初は信じてくれなかったくせに」
「あら、そうだったかしら」
しれっとしてるルミエール姫に、わたしは苦笑いするしかできない。
ソルもソルで、いたって普通だ。
「わざわざそんなウソついてまで命かけるヤツなんかいないだろ」
「命……そうだよね」
もといた場所とは違う。ここには、なんの補償もないんだ。
「この世界を元に戻せば、きっと帰れる気がする。根拠はないけど…」
「戻れなくたって、わたくしの影武者として雇ってあげるわよ」
「あ、あはは…」
それは遠慮します、とは言えない。
「話は戻るけど、ソルにソックリなアリス君もすごくいい人なんだよ。明るくて優しくて、いつも話しかけてくれるんだ」
「へぇ、さすが俺に似てるだけはあるな」
「でもわたし、話すのが苦手で。アリス君にもいつも、嫌な態度しかとれなくて……」
しょんぼりとうつむくわたしの両隣から、それぞれ声が降ってくる。
「あら、あなた最初に比べたらずいぶん話せるようになってるわよ」
「今じゃ腰に剣までぶら下げてるしな」
「そっ、それは」
「わたくしに嫌味まで言えるんだもの」
「いっ、嫌味なんてっ」
ソルもルミエール姫も、焦るわたしを見てイタズラっぽく笑った。
「これが終わる頃には、変われてるのかな……」
ポツンと呟くと、二人も笑うのをやめる。
わたしたちは三人揃って、月も星も見えない空を見上げた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】やいまファンタジー、もうひとつの世界
BIRD
児童書・童話
2024.8.28 本編完結しました!
七海とムイ、ふたりの視点で進む物語。
八重山諸島の伝説の英雄オヤケアカハチが、ちがう未来に進んだ世界の話です。
もしもイリキヤアマリ神がアカハチに力を貸していたら?
もしも八重山(やいま)が琉球国や日本とは別の国になっていたら?
そんなことを考えながら書いています。
算数が苦手な小学6年生・城間 七海(しろま ななみ)。
0点をとってしまった答案用紙を海辺へかくしに行ったら、イタズラ者のキジムナー「ムイ」に答案用紙を飛ばされた。
七海はそれを追いかけて海まで入っていき、深みにはまって流されてしまう。
あわてたムイが七海を助けようとしたとき、不思議な光の円が現れた。
2人が引きこまれたのは、星の海。
七海はそこで、自分そっくりな男の子とすれちがう。
着ている服がちがうだけで、顔も体つきもそっくりな子。
七海そっくりな男の子はこう言った。
「やあこんにちは。あとはまかせたよ」
けれど七海が話しかける前に、男の子は通り過ぎてどこかへ消えてしまう。
七海たちが光のトンネルからおし出された場所は、知らない砂浜。
キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていると、知らない大人たちがあわてた様子でかけ寄ってきた。
七海は、だれかとまちがわれて連れて行かれてしまう。
そこは、七海の世界とはちがう歴史をもつ、もうひとつの世界。
七海は、ヤイマ国の第七王子ナナミにそっくりだった。
おまけに、ヤイマ国の王妃は、七海のママにそっくり。
王妃から「ナナミがもどってくるまで第七王子のフリをしてほしい」とお願いされた七海は、しばらくお城で暮らすことになる。
ひとりっこの七海に6人も兄が出来て、うれしかったり、とまどったり。
すぐ上の兄リッカとは、いちばんの仲良しになる。
七海が王子の代わりに勉強することになるのは、なんと魔術(マジティー)。
七海は魔術書を読んでみて、その内容が算数よりもずっとカンタンだと気づいた。
※第2回きずな児童書大賞エントリー
8月から本編スタートしました。
おまけとして、島の風景や暮らしや伝説なんかも書いています。
沖縄の食べ物も画像つきで紹介!
宝石店の魔法使い~吸血鬼と赤い石~
橘花やよい
児童書・童話
宝石店の娘・ルリは、赤い瞳の少年が持っていた赤い宝石を、間違えてお客様に売ってしまった。
しかも、その少年は吸血鬼。石がないと人を襲う「吸血衝動」を抑えられないらしく、「石を返せ」と迫られる。お仕事史上、最大の大ピンチ!
だけどレオは、なにかを隠しているようで……?
そのうえ、宝石が盗まれたり、襲われたりと、騒動に巻き込まれていく。
魔法ファンタジー×ときめき×お仕事小説!
「第1回きずな児童書大賞」特別賞をいただきました。
蒸気都市『碧霞傀儡技師高等学園』潜入調査報告書
yolu
児童書・童話
【スチパン×スパイ】
彼女の物語は、いつも“絶望”から始まる──
今年16歳となるコードネーム・梟(きょう)は、蒸気国家・倭国が設立した秘匿組織・朧月会からの任務により、蒸気国家・倭国の最上級高校である、碧霞(あおがすみ)蒸気技巧高等学園の1年生として潜入する。
しかし、彼女が得意とする話術を用いれば容易に任務などクリアできるが、一つの出来事から声を失った梟は、どう任務をクリアしていくのか──
──絶望すら武器にする、彼女の物語をご覧ください。
【奨励賞】花屋の花子さん
●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】
旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。
そこには『誰か』が不思議な花を配っている。
真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。
一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。
『あなたにこの花をあげるわ』
その花を受け取った後は運命の分かれ道。
幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。
「花子さん、こんにちは!」
『あら、小春。またここに来たのね』
「うん、一緒に遊ぼう!」
『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』
これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
星座の街のエル&ニ−ニョ 〜世界を石に変えてしまったふたり〜
藍条森也
児童書・童話
お転婆なエルはダナ家の子。
やんちゃなニ−ニョはミレシア家の子。
星座の街を二分する名家として常にいがみ合う両家。その両家に生まれたエルとニ−ニョはことあるごとに張り合っていた。ある日、子供っぽい意地の張り合いから《バロアの丘》へ肝試しに向かうことに。その体験からお互いを認め、兄弟分となったふたり。しかし、大人たちはそれを認めず、家に監禁して引き離そうとする。反発したふたりは家出を決行。人里離れた野山の中で力を合わせて暮らし始める。
ところが、大人たちは、互いに相手の家にさらわれたのだと決めつけ、戦争状態に突入。責任を感じたエルとニ−ニョは《邪眼のバロア》の復活を装い、戦争を食い止めようとする。ところが──。
ふたりが呪いの言葉を放ったとき、世界のすべては石へと変わった。
なぜ、こんなことになったのか。
答えを求め、奔走するふたり。
空は透明な闇に覆われ、飛来するは無数のデイモン。対するはたったふたりのただの子供。史上、最も戦力差のある戦いがいま、はじまる。
※毎日18:30更新。
2022/7/14完結
その溺愛は伝わりづらい
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる