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最終章「ぽっちゃり双子は暗躍する!」
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出会った頃は、リリアンナと話すたびに緊張して腹の音を轟かせていたエドモンドの食欲も、彼女との関係性が深まるにつれだんだんと落ち着いていった。そしてその代わりに、まるで主人からしばらく放置された懐こい大型犬のように、瞳をうるうると潤ませ甘えるという技を会得したのだ。
これには鉄面皮のリリアンナも肩なしで、とにかく愛でたい衝動に駆られて仕方ない。弟妹や我が子も当然可愛らしいが、まさか自分より体の大きな男性に対してこんな感情を抱くなど、彼女自身も想像していなかった。
視線だけで辺りを見回し誰もいないことをしっかりと確認すると、リリアンナはその細腕をエドモンドに向かってめいいっぱい広げる。
「いらっしゃい、可愛い私の旦那様」
オリバーに妬いているのを隠そうとして、まったく隠れていない。それが愛らしく、どうしようもなく甘やかしたくなる。本人に自覚がないのが、また殊更に。
この六年の間に積み重ねてきた信頼関係は、この先何があろうと揺らぐことはない。決して我の強くない控えめな二人だが、今の幸せだけは絶対に手放さないと固く誓っていた。
ブラックダイヤのような瞳が途端に光り輝き、彼はまっすぐリリアンナの胸に飛び込んでいく。とはいえ彼の方がずっと長躯でがたいも良く、自然と抱き締める格好になってしまうのだが。それでも、全てを受け入れてくれるリリアンナの広い懐と深い愛情に、エドモンドは得も言われぬ多幸感を胸いっぱいに吸い込んだ。
「愛してる、リリアンナ」
「ええ、私も」
妹の結婚式の場でなんて破廉恥な……、と思わないわけではないが、今は彼の好きにさせてやろうと、リリアンナはそっと目を閉じる。何年経っても落ち着かないその鼓動が可愛らしく、自然と頬が緩んだ。
「リリアンナ、相談なんだが」
「どうしたの?」
「体力を温存とは、具体的に何割ほど回復させることを意味するのだろうか?」
愛する夫からの突拍子もない問い掛けに、リリアンナは細い首をことりと横に傾げる。エドモンドは甘えた声色で、すりすりと彼女の頭に頬を寄せた。
昔から変わらない、甘く華やかでどこかほろ苦い肌の香りが、好きで好きで堪らない。これからも永遠に、自分だけがこの距離を許される唯一の男でありたい。その為ならばどんな努力も厭わないと、エドモンドは六年前からそう心に決めている。
「つまり、加減すれば多少の無理は構わないと……」
「あ……っ、もう!いやらしいったら!」
質問の意図をようやく理解したリリアンナは、ぱっと彼から体を離すと頬をぱんぱんに膨らませる。それはまるで、妹ケイティベルがヘソを曲げる時とそっくりだった。
「実家でそのようなことはいたしませんわ!」
「ああ、すまなかった!謝るから、もう少しだけ」
「嫌です、離れてください!」
真白な頬を赤く染め、ぷいっとそっぽを向いてみせる。こうして頑なに拒絶したところで結局、夜が更ければ甘えたのエドモンドに絆されてしまうのだろうと、彼女は先の未来を透視しているような気分になり、それは深い溜息を吐いたのだった。
これには鉄面皮のリリアンナも肩なしで、とにかく愛でたい衝動に駆られて仕方ない。弟妹や我が子も当然可愛らしいが、まさか自分より体の大きな男性に対してこんな感情を抱くなど、彼女自身も想像していなかった。
視線だけで辺りを見回し誰もいないことをしっかりと確認すると、リリアンナはその細腕をエドモンドに向かってめいいっぱい広げる。
「いらっしゃい、可愛い私の旦那様」
オリバーに妬いているのを隠そうとして、まったく隠れていない。それが愛らしく、どうしようもなく甘やかしたくなる。本人に自覚がないのが、また殊更に。
この六年の間に積み重ねてきた信頼関係は、この先何があろうと揺らぐことはない。決して我の強くない控えめな二人だが、今の幸せだけは絶対に手放さないと固く誓っていた。
ブラックダイヤのような瞳が途端に光り輝き、彼はまっすぐリリアンナの胸に飛び込んでいく。とはいえ彼の方がずっと長躯でがたいも良く、自然と抱き締める格好になってしまうのだが。それでも、全てを受け入れてくれるリリアンナの広い懐と深い愛情に、エドモンドは得も言われぬ多幸感を胸いっぱいに吸い込んだ。
「愛してる、リリアンナ」
「ええ、私も」
妹の結婚式の場でなんて破廉恥な……、と思わないわけではないが、今は彼の好きにさせてやろうと、リリアンナはそっと目を閉じる。何年経っても落ち着かないその鼓動が可愛らしく、自然と頬が緩んだ。
「リリアンナ、相談なんだが」
「どうしたの?」
「体力を温存とは、具体的に何割ほど回復させることを意味するのだろうか?」
愛する夫からの突拍子もない問い掛けに、リリアンナは細い首をことりと横に傾げる。エドモンドは甘えた声色で、すりすりと彼女の頭に頬を寄せた。
昔から変わらない、甘く華やかでどこかほろ苦い肌の香りが、好きで好きで堪らない。これからも永遠に、自分だけがこの距離を許される唯一の男でありたい。その為ならばどんな努力も厭わないと、エドモンドは六年前からそう心に決めている。
「つまり、加減すれば多少の無理は構わないと……」
「あ……っ、もう!いやらしいったら!」
質問の意図をようやく理解したリリアンナは、ぱっと彼から体を離すと頬をぱんぱんに膨らませる。それはまるで、妹ケイティベルがヘソを曲げる時とそっくりだった。
「実家でそのようなことはいたしませんわ!」
「ああ、すまなかった!謝るから、もう少しだけ」
「嫌です、離れてください!」
真白な頬を赤く染め、ぷいっとそっぽを向いてみせる。こうして頑なに拒絶したところで結局、夜が更ければ甘えたのエドモンドに絆されてしまうのだろうと、彼女は先の未来を透視しているような気分になり、それは深い溜息を吐いたのだった。
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