愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ

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第七章「いざ、双子同士の対決へ!」

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 ♢♢♢
 エトワナ公爵邸の自慢の中庭は、今日も暖かな日差しと甘い香りの花々に包まれている。姉リリアンナはバスケットを手にしており、双子のルシフォードとケイティベルは二人で協力しながら芝生の上にござを敷いた。
「ケイティベルの好きなデニッシュを焼いてもらったのよ」
「わぁ、焼き立てね!おいしそう!」
 空色の瞳をぱあっと輝かせる彼女に、リリアンナの美顔はたちまちふにゃりと崩れる。
「それからデザートには、さくらんぼよ」
「僕の好物だ、お姉様ありがとう!」
 白い歯を見せながら喜ぶルシフォードも、天使に負けない可愛らしさだ。こんな風に弟妹と穏やかな日常を過ごせることが、リリアンナは嬉しくて堪らない。気を抜くと涙が溢れ落ちそうになるのを、さり気なく天を仰いで誤魔化した。ついでに、鼻血も。
「食べ終わったらお花を摘もうよ」
「そうね、私お姉様に花冠を作ってあげたいわ」
「それは楽しみ」
 所作ひとつとってもリリアンナは完璧で、双子の口元は汚れている。いくら目に入れても痛くないほど可愛いからといって、マナーを疎かにすることは本人の為にならない。彼女はなるべく柔らかな物言いを心掛けながら、二人に注意を促した。
 その後三人は存分に午後のひと時を堪能し、木陰でひと休み。ケイティベルは姉の膝の上に頭を乗せ、またルシフォードは肩に寄りかかり、うとうとと夢の世界へ旅立っていく。リリアンナは嬉しそうに微笑みながら、どこまでも澄んだ青空を見上げた。
 ほんの数ヶ月前までは、まさかこんな風になるとは予想もしていなかった。最愛の弟妹に懐かれ、頬を触りたいという願いも叶い、もうこの世に悔いはないとすら感じる。

――いいえ、まだこれからだわ。もっともっと、二人の幸せを見届けたいもの。

 長い間姉らしいことをしてやれなかったという後悔が、彼女の心に巣食っている。ルシフォードとケイティベルはそれを笑い飛ばし、ちゃんとリリアンナの性格を理解して受け入れてくれた。
 痣持ち双子の事件も、いくら子どもとはいえ普通は見逃せるものではない。偏見も差別もなく、ただ許すという行為がどれほど難しいことであるか。愛され双子はその見た目だけでなく、中身も本当に輝いている。
「きっと神様が、貴方達をお救いくださったのね」
 穏やかな寝息を聞きながら、リリアンナはぽつりと呟いた。一度死んで時が巻き戻ったのか、それとも予知夢を見たのか、真相は分からない。けれどこの世界が尊い二人の命を守ったのだと、彼女は毎晩満月に祈りを捧げていた。
 今まで素直に可愛がってやれなかった分も含めて、ルシフォードとケイティベルの為ならばどんなことでもするつもりだと、リリアンナは心に誓っている。
 今後エドモンドとの婚約が進み、結婚する運びとなったなら自分はこのセントラ王国を離れることになる。後悔はしていないが、やはり寂しいという思いは消えない。ケイティベルの手前、そんな態度はお首にも出さないが。
 それにリリアンナの中に、妹の代わりに無理をしたという気持ちはなかった。自らが望んだ結婚であるし、エドモンドとならきっと穏やかに暮らしていける。そう簡単に会える距離ではなくても、胸の中にはいつだって愛しい弟妹の姿が刻まれている。それにあの二人は、離れるべきではない。これから先困難に見舞われても、必ず力を合わせてそれを打破するだろう。
「……ありがとう。ルーシー、ベル。貴方達の姉になれて、私は本当に幸せよ」
 彼女の頬を伝う一筋の涙には、一体どんな意味が込められていたのか。気持ちよさそうに眠る双子には、その真意を知ることは出来なかった。
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