愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ

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第五章「運命の双子」

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 なんとか二人が落ち着いたところで、リリアンナは自身の考えを口にする。
「貴方達を傷付ける犯人が本当にいるなら、その双子だと思うわ」
 まるで断言にも似た、きっぱりとした表情だった。
「ルシフォードとケイティベルが個人的に恨まれるなんて、あるわけがないもの」
 弟妹大好きリリアンナは、それはもう自信たっぷりだった。二人が悪意を持って誰かを攻撃するなどあり得ないことは、最初から分かっている。だから彼女は逆恨みの線を主に調べていたのだけれど、それに該当するような人物は現れなかった。

――同じ夜に産まれた、痣持ち双子の話を聞くまでは。

「だけど、僕らと同い年ってことだよね?あんな恐ろしいことをしようとするかな……」
 ルシフォードはふにゃりと眉を下げ、不安げな眼差しでリリアンナを見つめる。
「残念ながら、年齢は理由にならないわ。エマーニーの話から察するに、きっと想像を絶する人生を歩んできたのだろうから」
 洗脳とは、それほどに恐ろしいものだ。痣を持つ双子を排斥する人間は、どんな手を使っても元凶を根絶やしにしようとするはず。そして、憎悪ほど利用しやすいものはない。心理を利用し金を巻き上げ、まだ力のない子どもにすら非道な行いをしても平然としている。
 そんな彼らから見れば、ルシフォードとケイティベルはどれだけ羨望の的だっただろう。羨ましいという気持ちが、次第に憎しみへと変化していくのはそう難しいことではない。

――エトワナ家に産まれたあの双子が、お前達の幸福をすべて奪ったのだ。

 たとえばそんな風に唆されたら。悪意のある大人達に囲まれて、まともな知識やまっとうに生きる術を誰も与えてくれなかったなら。地獄のような人生の中で、希望はたったひとつだけ。
「同じ双子同士でありながら、片方は忌み嫌われ片方は国の宝と言われる。彼らにとって、貴方達を憎むことこそが生きる糧だったのかもしれないわ」
「そんなことが、生きる糧だなんて……」
 ずっと俯いていたケイティベルが、震える声でぽつりと漏らす。誰からも愛され大切にされてきた二人には、絶対に越えられない見えない線がある。生まれというものは、本人達にはどうすることも出来ない。
 まだたった十歳の子どもだから、人を殺そうとは思わないはず。そんな常識は、闇の中では通用しない。
「現状、彼らだという証拠はないわ。もっと詳しく調べる必要はあるけれど、きっとあまり成果は得られないでしょう」
 所詮はリリアンナも、侯爵令嬢として守られながら生きてきたに過ぎない。十年も身を隠して生きている相手を、たった数日で見つけ出すことは困難を極めるだろう。
「最も現実的な方法は、犯行の現場を押さえることだわ」
「つまり、誕生日パーティーの日?」
「ええ、そうよ」
 神妙な面持ちで頷くリリアンナに、ルシフォードの瞳は大きく揺れる。出来るならば、あの夜が訪れる前に事態の収拾を図りたかった。思い出しただけで、双子の小さな体はがたがたと震えてしまう。
「殿下に申し入れをして、当日の警備体制を強化するわ。けれどわざと誘いこめるよう、ほんの少し綻びを残すの。こちらのテリトリーに引き込んで、絶対に取り逃さない為に」

 もしも本当にその双子が犯行を計画しているのならば容赦はしないと、リリアンナの意志は固い。その境遇に同情はするが、だからといって無関係の人間を手に掛けようなど、決してあってはならないことだ。
「……その二人が捕まったら、どうなっちゃうのかしら」
 ケイティベルの表情は硬いままだが、口調は先ほどよりもはっきりとしていた。空色の瞳に濁りはなく、きらきらと光を反射している。
「当然、ただでは済まされないでしょうね。けれどそれは、痣持ちかどうかは関係ないわ」
「で、でも!普通の人より酷い目に遭うわよね?」
「そう、かもしれない。断言は出来ないけれど」
 元を辿れば、王家が扇動した忌まわしい風習。それを隠す為ならば、おそらく子どもだからと情状はされないだろう。
「……そんなの、間違ってるわ」
 ケイティベルは立ち上がり、悲痛の声を上げる。そんな彼女を見たルシフォードも、寄り添うように傍に立った。
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