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第四章「集う変人と犯人への手掛かり」

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「いや、面目ない。普段は気を付けているのですが、慣れない土地でつい」
 腹を立てるでもなく、エドモンドは照れたように頭をかく。
「とにかく、本当に助かりました。あの場で正体が明るみになるのはさすがに避けたい事態ですので」
「お姉様、よく殿下だって気付いたね」
 それは全くの誤解で、リリアンナはただ声を掛けようとしただけ。彼女は「貴方が自爆しただけ」と言うべきか迷ったが、結局胸に納めておくことにした。
 さて、一国の王子がなぜたった一人で空腹だったのか。尋ねてもいいものかどうか考えていたリリアンナだが、先にエドモンドが事情を説明し始める。
「端的に言うと、僕の婚約者となる女性に一目会いたかったのです」
「ケ、ケイティベルに?」
「あとは、セントラ名物を食べたくて」
 三人全員が間髪入れずに「そっちがメインでは?」と内心突っ込みを入れた。
「あの、エドモンド殿下」
 先ほどは失態を犯したが、今度は同じ轍は踏まない。リリアンナはぐっと眉を吊り上げ、厳しい表情で彼に向き直る。
「不躾ですが、率直にお尋ねいたします。貴方様はこの婚約に、不満を持っていらっしゃるのでしょうか」
「不満、ですか?」
「たとえば、すでに心を通わせた相手が……とか」
 大切な弟妹のことを思うと、つい語尾がきつくなる。エドモンドは帽子の隙間から覗くブラックダイヤの瞳をまん丸にしながら、勢いよく首を左右に振った。
「まさか、そんな相手はいません!」
「本当ですか?たとえば嫉妬深くて、思わず相手を殺してしまうような甲高い声をした激しい女性など」
「ず、随分と具体的ですね」
 二人から聞いた暗殺者の特徴を並べるリリアンナと、何がなんだかという表情のエドモンド。嘘を吐いているようには見えないが、これが演技であれば大したものだと彼女は思う。
 聞いた話ではエドモンドは自国でも評判の人格者らしく、わざわざ刺客を放ってルシフォードとケイティベルを殺す理由もない。であれば彼の恋人が計略したのではと考えたリリアンナだが、この様子だとどうやら勘は外れたようだ。
「情けない話ですが、僕はあまり女性に慣れていないのです。兄に憧れ、少しでも役に立ちたいと剣の道を極めてきました。その成果あってか、剣聖と謳われた曽祖父の生まれ変わりと言われるまでにのし上がることが出来ました」
「それは、相当なご苦労をなされたことでしょう。研鑽に努めるその胆力に、心より尊敬の意を表します」
 まっすぐ伸びた背筋と逞しい体躯、膝の上に置かれた手は革手袋のように分厚く、古い傷から真新しいものまで代償さまざまに刻まれている。
 自信に満ちた眼差しも、長年培った努力の賜物と言える。そんな人物が姑息な手を使うとは考えられず、エドモンドは容疑者から外しても問題ないだろうと、リリアンナは内心安堵の溜息を吐いた。
 愛する弟妹の為ならばなんだって出来るが、常に人を疑わなければならないというのはやはり心苦しい。

「これまでに何度か婚約のお話はいただいていたのですが、どうしてもそちらに気が回りませんでした。この度ケイティベル嬢との婚約話が持ち上がり、失礼のないようにと……」
「それで、お忍びで様子を伺いに?」
「本当にお恥ずかしい限りです」
 なるほど、理解出来るような出来ないような。そんな理由でわざわざ海を渡ってやってくる時点で、かなりの変わり者であることには違いない。とはいえそれは彼なりの気遣いらしいので、優しいといえば優しい。
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