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第一章「愛されぽっちゃり双子と悪役令嬢の姉」
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「私とリリアンナは、円満に婚約を解消する。そして彼女はこちらのトレンヴェルド殿下と、私はエトワナ公爵家次女ケイティベルと新たに婚約を結び直すこととなった」
あれだけ騒々しかった会場が、一瞬にしてぴたりと静まり返る。よく通るレオニルの淡々とした声だけが、煌びやかに飾り立てられたホールに反響した。
「これはすでに決定事項であり、国王陛下からの許可も降りている。この国さらなる発展と繁栄の為の婚約であり、意を申し立てる者は我が名をもって厳罰に処する」
一切の顔色を変えず、彼はそれだけ言うとすぐに踵を返す。後ろで一つに束ねられた艶やかな金髪だけが、ゆらゆらと忙しなく揺れていた。
「殿下からの説明通り、この婚約に一切の問題はありません。リリアンナ嬢はいずれ私の妃となり、我が国と貴国を繋ぐ架け橋として輝かしい活躍をみせてくれることでしょう。彼女には、それだけの価値がありますから」
エドモンドは後ろめたさなど微塵も感じさせない様子で、堂々とリリアンナの肩に手を添える。彼女も同じように飄々としていたけれど、とても妹の顔を見る勇気はなかった。
ケイティベルとの婚約発表話はほとんど広まってなかったとはいえ、この一連のやり取りが参列者達の度肝を抜いたことは間違いない。本来ならば時を得顔をしていてもおかしくないはずのアーノルドとベルシアが、喉に小麦粉の塊を詰めたような表情をしている時点で、普通ではない雰囲気が漂っている。
先のレオニルの宣言がある手前今この場で表立って非難する真似は出来ないが、心中では全員が同じことを思っていた。
――自分の婚約者を捨てて、妹の婚約者になるはずだった王子を横取りした最低な悪役令嬢だ。
と。
その後もリリアンナに表面上は祝福の拍手が送られたが、会場内は彼女への蔑視に満ちていた。それに比例してケイティベルへの同情は高まり、せっかくの誕生日になんて仕打ちだと、さらに多くの人達に囲まれた。
当の本人は何がなんだか分からず、ルシフォードへ助けを求める。彼も異様な雰囲気にのまれそうになっていたのを、大好きな片割れの為懸命に堪えて彼女を守った。
双子はもともと、誰からも愛されるマスコットキャラ的存在。たまに見た目をからかってくる令嬢令息もいたけれど、そういう人達はいつの間にか現れなくなっていたから、二人ともあまり気にしたことはない。
いかんせんリリアンナの評判が悪過ぎて、本人達の意思に関係なく勝手に評判が上がっていくのだ。
「ああ、私の可愛いケイティベル。こんなことになって、さぞや胸を痛めていることでしょう」
ベルシアは彼女のもちもちとした体ををきつく抱き締め、目に涙を浮かべている。当の本人はというと、けろりとした顔をしていた。
「お母様、泣かないで。私は平気よ、それにお姉様とエドモンド殿下とってもお似合いだったし、私が結婚するよりずっといいわ」
「なんて殊勝なの……!貴女は優し過ぎるわ!」
「そうじゃなくて、本当に平気なんだってば」
ケイティベルの言葉は、ベルシアには届かない。まるで自分自身が一番の被害者であるかのように、憎悪の表情を浮かべながらリリアンナを糾弾する。
正直なところ、ケイティベルは「外国に行かなくてもいいの?やったぁ!」という感情が大きく、姉を恨む気持ちはない。先ほどの婚約発表はもちろん驚いたし、エドモンド殿下との結婚がなくなった代わりに姉の元婚約者が新しい婚約者だなんて、嬉しいとは思えない。
そしてどちらの王子様も、ケイティベルの好みとは真逆だった。
あれだけ騒々しかった会場が、一瞬にしてぴたりと静まり返る。よく通るレオニルの淡々とした声だけが、煌びやかに飾り立てられたホールに反響した。
「これはすでに決定事項であり、国王陛下からの許可も降りている。この国さらなる発展と繁栄の為の婚約であり、意を申し立てる者は我が名をもって厳罰に処する」
一切の顔色を変えず、彼はそれだけ言うとすぐに踵を返す。後ろで一つに束ねられた艶やかな金髪だけが、ゆらゆらと忙しなく揺れていた。
「殿下からの説明通り、この婚約に一切の問題はありません。リリアンナ嬢はいずれ私の妃となり、我が国と貴国を繋ぐ架け橋として輝かしい活躍をみせてくれることでしょう。彼女には、それだけの価値がありますから」
エドモンドは後ろめたさなど微塵も感じさせない様子で、堂々とリリアンナの肩に手を添える。彼女も同じように飄々としていたけれど、とても妹の顔を見る勇気はなかった。
ケイティベルとの婚約発表話はほとんど広まってなかったとはいえ、この一連のやり取りが参列者達の度肝を抜いたことは間違いない。本来ならば時を得顔をしていてもおかしくないはずのアーノルドとベルシアが、喉に小麦粉の塊を詰めたような表情をしている時点で、普通ではない雰囲気が漂っている。
先のレオニルの宣言がある手前今この場で表立って非難する真似は出来ないが、心中では全員が同じことを思っていた。
――自分の婚約者を捨てて、妹の婚約者になるはずだった王子を横取りした最低な悪役令嬢だ。
と。
その後もリリアンナに表面上は祝福の拍手が送られたが、会場内は彼女への蔑視に満ちていた。それに比例してケイティベルへの同情は高まり、せっかくの誕生日になんて仕打ちだと、さらに多くの人達に囲まれた。
当の本人は何がなんだか分からず、ルシフォードへ助けを求める。彼も異様な雰囲気にのまれそうになっていたのを、大好きな片割れの為懸命に堪えて彼女を守った。
双子はもともと、誰からも愛されるマスコットキャラ的存在。たまに見た目をからかってくる令嬢令息もいたけれど、そういう人達はいつの間にか現れなくなっていたから、二人ともあまり気にしたことはない。
いかんせんリリアンナの評判が悪過ぎて、本人達の意思に関係なく勝手に評判が上がっていくのだ。
「ああ、私の可愛いケイティベル。こんなことになって、さぞや胸を痛めていることでしょう」
ベルシアは彼女のもちもちとした体ををきつく抱き締め、目に涙を浮かべている。当の本人はというと、けろりとした顔をしていた。
「お母様、泣かないで。私は平気よ、それにお姉様とエドモンド殿下とってもお似合いだったし、私が結婚するよりずっといいわ」
「なんて殊勝なの……!貴女は優し過ぎるわ!」
「そうじゃなくて、本当に平気なんだってば」
ケイティベルの言葉は、ベルシアには届かない。まるで自分自身が一番の被害者であるかのように、憎悪の表情を浮かべながらリリアンナを糾弾する。
正直なところ、ケイティベルは「外国に行かなくてもいいの?やったぁ!」という感情が大きく、姉を恨む気持ちはない。先ほどの婚約発表はもちろん驚いたし、エドモンド殿下との結婚がなくなった代わりに姉の元婚約者が新しい婚約者だなんて、嬉しいとは思えない。
そしてどちらの王子様も、ケイティベルの好みとは真逆だった。
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