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第十一章

手作りなんかより高級店の方がいいに決まってる⑩

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俯いていた山田さんが、急に顔を上げた。その表情が予想とは違っていて、思わず一瞬怯む。

「私は、三ノ宮さんに謝るようなことはなにもしていません」

「…は?」

「私に嫌がらせをしていたのは三ノ宮さん達じゃないですか!それなのにどうして私が謝らなくちゃいけないんですか!」

山田さんが、明らかに怒っている。

いつも悲しそうに俯くか、ビクビクしながら話しかけてくるかのどちらかだったのに。

「味方がついた途端、強気なんだ」

「私は忘れたかったんです。あの会社での辛いことは忘れようと努力して、今また一から頑張っています。それなのにまたこうやって呼び出されたり脅されたり、もうたくさんなんです」

「この間は、あんなに挙動不審だったくせに」

「三ノ宮さんの仰る通り、私には味方ができました。いえ、本当は会社にいる時だって一人なんかじゃなかった。庶務課という狭い世界に拘らずに、もっと周りを見ればよかったんです」

「それ、どういう意味?」

「私は、三ノ宮さん達に認められたかった。庶務課以外の人に相談すれば、その時点で私はもう仲間ではなくなってしまうと、そう思っていたんです」

「なによ、それ」

「私はずっと、あなたに認めてほしかったんです」

真剣な眼差し。バカみたいにまっすぐで、素直で、澄んでいて。

散々虐められたくせに、まだそんな瞳で私を見る。

こんな人間が一番嫌いだ。

「大澤係長の件、シラを切るつもりなんだね」

「私は、三ノ宮さんを嵌めようとなんてしていません」

「謝らないの?」

「謝りません」

「ふぅん、分かった。後悔すると思うけど」

やっと、ここまで辿り着いた。

信用できる人間なんていなくたって、そんなこと構わない。私は搾取される側から、する側に生まれ変わった。

この子に負けたら、自分の全てを否定することになる気がした。

「三ノ宮さん」

山田さんが、ギュッと眉根を寄せる。まるで憐れむような表情が、最高に腹立たしかった。

「もう、やめませんか?お互い忘れて、関わらずに生きていきたいです。三ノ宮さんのやったことは許せなかったけど、恨んだって仕方ないから。学んだこともあるし、前よりも強くなれた。私は、過去より未来のために生きていきたいんです」

「…」

「だからお願いです。もう、やめてください」

(なんで、そんなに必死なのよ)
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