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第七章
鮭茶漬けと、諸悪の根源⑥
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野々原がいれば俺を止めたかもしれないが、俺に意見できるヤツは今この場にはいない。
山田さんはきっと、こんなこと望んでないだろう。俺自身が、どうしても我慢できなかった。
「山田さんは、二ヶ月ほど前に退社したんです」
「そうだったんですか。それは知りませんでした」
さも初耳かのように、大げさに驚いてみせる。
「庶務課のことですから、知らなくても無理はないです」
「彼女、真面目で一生懸命だと評判でしたよね?僕はあまりよく知らないけれど性格も良さそうだったし、皆さんさぞ残念でしょう」
「でも山田さんって…」
「ねぇ…?」
三宮の取り巻きのような女達が、俺が山田さんを褒めたことに難色を示している。
「庶務課では、あんまり…」
「え、そうだったの?」
「ちょっとスピードが遅いっていうか、それを当たり前だと思ってるっていうか」
「いつも三ノ宮さんがカバーしてましたよね」
「僕にはとてもそんな風に見えなかったなぁ。営業部の野々原が彼女と同期らしいんですが、とても真面目で優しい子だといつも言っていましたし」
周囲の女達に負けないくらい、声を張り上げる。ここには、誰も彼女を庇うヤツはいないのか。
三ノ宮だけではなくそれにもイラついて、自制が効かなくなりそうだ。
「坂上部長も、山田さんは頑張り屋だと褒めていましたし」
「坂上部長が、ですか?」
「えぇ」
嘘だ。あの部長は、アンタの味方。三ノ宮もそれを分かっているから、俺が名前を出した瞬間若干怪訝そうな顔をした。
それもほんの一瞬で、すぐ残念そうな表情へと変わる。
「私もそう思います。山田さんがいなくなってから、私達の仕事量が一気に増えましたから。いかに彼女が背負っていたのかを痛感しているんです。ねぇ?」
「えっ?まぁ、それは確かに…」
「ちょっと!」
「あ…」
三ノ宮が言ったことは、事実だろう。それに同意した隣の女に鋭い視線を向けたのを、俺は見逃さなかった。
山田さんはきっと、こんなこと望んでないだろう。俺自身が、どうしても我慢できなかった。
「山田さんは、二ヶ月ほど前に退社したんです」
「そうだったんですか。それは知りませんでした」
さも初耳かのように、大げさに驚いてみせる。
「庶務課のことですから、知らなくても無理はないです」
「彼女、真面目で一生懸命だと評判でしたよね?僕はあまりよく知らないけれど性格も良さそうだったし、皆さんさぞ残念でしょう」
「でも山田さんって…」
「ねぇ…?」
三宮の取り巻きのような女達が、俺が山田さんを褒めたことに難色を示している。
「庶務課では、あんまり…」
「え、そうだったの?」
「ちょっとスピードが遅いっていうか、それを当たり前だと思ってるっていうか」
「いつも三ノ宮さんがカバーしてましたよね」
「僕にはとてもそんな風に見えなかったなぁ。営業部の野々原が彼女と同期らしいんですが、とても真面目で優しい子だといつも言っていましたし」
周囲の女達に負けないくらい、声を張り上げる。ここには、誰も彼女を庇うヤツはいないのか。
三ノ宮だけではなくそれにもイラついて、自制が効かなくなりそうだ。
「坂上部長も、山田さんは頑張り屋だと褒めていましたし」
「坂上部長が、ですか?」
「えぇ」
嘘だ。あの部長は、アンタの味方。三ノ宮もそれを分かっているから、俺が名前を出した瞬間若干怪訝そうな顔をした。
それもほんの一瞬で、すぐ残念そうな表情へと変わる。
「私もそう思います。山田さんがいなくなってから、私達の仕事量が一気に増えましたから。いかに彼女が背負っていたのかを痛感しているんです。ねぇ?」
「えっ?まぁ、それは確かに…」
「ちょっと!」
「あ…」
三ノ宮が言ったことは、事実だろう。それに同意した隣の女に鋭い視線を向けたのを、俺は見逃さなかった。
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