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第五章
新じゃがのコロッケと、本当の気持ち⑩
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「どうしてそんなことになったのか、聞いてもいいかな」
「…」
「嫌なら、無理に話さなくていいから」
「前の会社で…ちょっと色々あって…それがフラッシュバックして、勝手に涙が出てきたんです」
あまり口にしたくないのか、言葉が途切れ途切れだった。
山田さんにとっての前の会社は、俺にとっての今の会社。
それがあるから、山田さんはこんなにもためらい口調なのかと推測できる。
真面目で気遣い屋の彼女のことだ。俺が現在進行形で働いている場所のことを、あまり悪く言わない方がいいんのではと思っているんだろう。
フラッシュバックのせいで面接すら受けられないなんて、よっぽどのことがあったはず。
にもかかわらず自分より俺を気遣うなんて、あまりにも人が良過ぎる。
そんな彼女の良心を、心ない誰かが搾取し踏みにじった。
想像しただけで、無意識に拳に力が入った。
「ごめん。辛いこと話させて」
俺の言葉に、山田さんは強い意志を示すようにブンブン首を左右に振った。
「こうやって聞いてもらえて、嬉しいです。会社を辞めたことは、私の弱さが原因でもあります。でも本当はずっと、こうして誰かに聞いてほしかったんです。辛かった、苦しかったって、泣きたかった。まさか、他の会社を受けようとしてこんなことになるなんて、思ってもみなかったけど」
山田さんを追いかけたあの日、公園で泣いた彼女を見てなんらかの事情があって会社を辞めたんだろうと予想はついていた。
だけどこんなにも、山田さんの心を壊しているとは。
もっと、寄り添うべきだった。
一緒に住めるようになったことに浮き足立ち、彼女をちゃんと見ていなかったのかもしれない。
ーー山田さんって、そんな無責任な人だった?
会社の前で、山田さんが辞めると知った時に放った心ない言葉。
辞めることがショックだったとはいえ、あんなにも無慈悲なセリフを吐いたあの時の自分を、心底殴りたいと思った。
「…」
「嫌なら、無理に話さなくていいから」
「前の会社で…ちょっと色々あって…それがフラッシュバックして、勝手に涙が出てきたんです」
あまり口にしたくないのか、言葉が途切れ途切れだった。
山田さんにとっての前の会社は、俺にとっての今の会社。
それがあるから、山田さんはこんなにもためらい口調なのかと推測できる。
真面目で気遣い屋の彼女のことだ。俺が現在進行形で働いている場所のことを、あまり悪く言わない方がいいんのではと思っているんだろう。
フラッシュバックのせいで面接すら受けられないなんて、よっぽどのことがあったはず。
にもかかわらず自分より俺を気遣うなんて、あまりにも人が良過ぎる。
そんな彼女の良心を、心ない誰かが搾取し踏みにじった。
想像しただけで、無意識に拳に力が入った。
「ごめん。辛いこと話させて」
俺の言葉に、山田さんは強い意志を示すようにブンブン首を左右に振った。
「こうやって聞いてもらえて、嬉しいです。会社を辞めたことは、私の弱さが原因でもあります。でも本当はずっと、こうして誰かに聞いてほしかったんです。辛かった、苦しかったって、泣きたかった。まさか、他の会社を受けようとしてこんなことになるなんて、思ってもみなかったけど」
山田さんを追いかけたあの日、公園で泣いた彼女を見てなんらかの事情があって会社を辞めたんだろうと予想はついていた。
だけどこんなにも、山田さんの心を壊しているとは。
もっと、寄り添うべきだった。
一緒に住めるようになったことに浮き足立ち、彼女をちゃんと見ていなかったのかもしれない。
ーー山田さんって、そんな無責任な人だった?
会社の前で、山田さんが辞めると知った時に放った心ない言葉。
辞めることがショックだったとはいえ、あんなにも無慈悲なセリフを吐いたあの時の自分を、心底殴りたいと思った。
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