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第五章

新じゃがのコロッケと、本当の気持ち①

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ーーside 大澤

ただ、可愛いと思った。キスしたいと思った。キスしたら、止まらなくなった。

少ない荷物、控えめな言動、絶対に俺の寝室には入ろうとしない謙虚さ。

悪いことじゃない、むしろズカズカ人のテリトリーに踏み込んでこないそういうところに好感がもてると、最初は思っていたはずなのに。

今ではそのどれもが、俺を焦らせる要因でしかなくなっていく。

しかも、好きだとも付き合おうとも言っていないのに、あろうことか先に手を出してしまった。

今、山田さんは仕事を辞め住む場所もなく大変な時期。告白などすれば、気を遣って今すぐにでも出ていくと言い出しかねない。

だから明確な告白はまだしないと、心に決めたばかりだったのに。

(ただの告白より、もっと最悪だ)

これじゃあ最初から、体目当てで部屋に招き入れたと思われて当然。幻滅され嫌われて、彼女は今この瞬間も早く出て行きたいと思っているかもしれない。

ーー新太…っ

あの時の声も表情も視線も、なにもかもが忘れられない。脳裏にこびりついて、離れてくれない。

今まで、清い付き合いばかりをしてきたわけじゃない。

仕事が忙しく彼女なんか作っている暇はないと言ったら、体だけでもいいからと言われ実際にそうしたことだってある。

でも、山田さんに関しては違った。

手に入れたくてどうしようもなくなって、もしかすればこうすることで彼女の心まで手に入るんじゃないかと、そんな狡い考えすらあったのかもしれない。

今の彼女の中で、俺は確実に恋愛対象外だ。きっと会社で何かあったのだろう。自己評価が限りなく低く、すぐに「私なんか」と自身を卑下する。

いい歳して、ここからどう動くのが正解なのかも分からない。

朝、ベッドから出ていく彼女の腕を引いて、もう一度抱き締めたくても。

拒否されたらと思うと、その勇気が出なかった。

(情けない)

今までカッコつけた生き方をし過ぎたせいで、カッコ悪い自分を曝け出すことが怖いなんて。

真面目でひたむきな彼女につり合わないのは、むしろ俺の方だ。
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