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異世界で奴隷を買いました
12. 異世界で奴隷を買いました
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怖い。怖い。こっちにも暴力を振るわれたらどうしよう。
怖いけど黙って見てられない。だってこれ以上殴られたら死んじゃうかもしれない。怖さのあまり何もしていないのに、は、は、と息が上がった。
「ああ゙? ……っと、おや、これはこれは。お美しいお嬢さん」
不機嫌そうな声でこちらを振り返った太った男。ゆったりとしたローブを身に纏っていて、いかにも残虐そうな顔をしている。邪魔するなと怒鳴られるかと思ったけど、私の顔を見た途端、奴隷商の男はにやりと笑って二重あごを撫でた。
「お嬢さん。汚いものを見せて申し訳ありませんね。おら! お前も寝てないで謝罪しろ!」
「や、やめて下さい!」
青い顔をして立っている私に笑いかけると、男は床に倒れている青年の頭を踏んづける。それがまた恐ろしくて、私は悲鳴じみた制止をした。
「この人、そんなに悪いことしたんですか? いくらなんでも、やり過ぎだと思います……!」
奴隷ということは、この暴力は何かしらの罰なのかもしれない。そう思っての言葉だったけれど、奴隷商は呆れたような、不思議そうな顔をしてこちらをせせら笑った。
「変なことを言うお嬢さんだねぇ。これだけ美人だし、どこかの箱入り娘かな? コレは奴隷なんだから何したっていいに決まっているだろう? しかもこいつは狼の獣人ですよ、お嬢さん。ちょっとやそっとぶん殴ったってケロリとしてやがる」
「そんな……そんなわけ、ないでしょう……!」
奴隷商は話しながらも青年に足を乗せてぐりぐりと嬲るように足蹴にしている。その倒れた体からは悲鳴もうめき声もしないけれど、それは絶対に痛くないからじゃない。きっと失神してしまっているんだろう。
ボロボロの服を着た青年の背筋には、何十もの鞭の痕が付いていて血が滲んでいる。きっと今日だけでなくずっと酷い暴力を振るわれ続けてきたんだろう。それこそ痛いとかやめろとか言えないくらいに、恐ろしく一方的な暴力を。真っ黒い髪の毛はぼさぼさで頭に変な盛り上がりがあり、彼の体からは異臭もする。まともな扱いじゃない。
怖さと酷さに吐き気がする。荒い息を繰り返していると、馬鹿にしたような奴隷商はその場にしゃがむと青年の髪の毛を掴んだ。
「ははは。お優しくて美しいお嬢さんに、コレのおぞましい顔を見せてあげましょうか。はは、泣いちゃうかな」
笑いながら乱雑に青年を引き摺り上げようとする。その、青年を人として扱わない態度。これだけ傷ついて倒れている青年を見世物のように扱うその姿に、怒りが降り切れる。
そして……私の中で腹が決まったのを感じた。
「結構です。その手を放してください。できるだけそっと。……この人奴隷なんですよね?」
「あ?」
「だったら私が買います。おいくらですか?」
「ニーナ!?」
私の傍で様子を伺っていたルドが慌てて飛び出してきた。
「何言ってるんだよ、ニーナ!」
「ははは、美しいお嬢さん、こいつは狼獣人だぞ? そこのお兄さんとは段違いの醜さだ。きっと買ってもすぐに捨てたくなるさ」
そう言い切った奴隷商。そして私のすぐそばに寄って来たルドが、正面から私の両肩を持つと諭すように口を開いた。
「ニーナ、落ち着いて。悪いことは言わないからここから立ち去ろう。そこの青年は不遇だと思うけど、獣人奴隷なんだからしょうがないよ。それにこの男の言う通り、獣人は俺なんかですら醜くて目を背けたいほどなんだから。そんな奴隷を買っても後悔するだけだよ」
奴隷だからしょうがない?
それがこちらの世界の価値観なのね。でもそれを聞いて、じゃあ止めますとはとても言えなかった。
「別に醜くて後悔してもいいわ。私だって地味ブスだもん、お似合いよ」
今まで散々容姿についてバカにされてきたんだから、そこの青年がどれだけ不細工でも気にするわけないじゃない。
ルドの手を振り払うと、私は再び奴隷商に向き合った。
「で? おいくらですか?」
「はは、綺麗な顔に似合わず気が強いね。……10万ペルラでどうだ?」
「おい、ニーナ!」
言われた金額を鞄の中の袋から掴み出す。そこそこ大金なんだろうけど知ったことじゃないわ。掌にちゃりちゃりと銀貨を何枚も滑らせて数えると、それを奴隷商に乱暴に突き出した。
「10万ぺルラ……ってこれで足りるわよね。はい、これで彼は私のものね」
「……本気で買うのか? この醜い獣人を? まぁ後悔して泣いてもしらないからな」
奴隷商は手の上で銀貨を数えると、面白がるような馬鹿にしたような顔でこちらを見てくる。その薄っすらと唇に乗った笑が不快で、私はふんと鼻息を荒く噴き出した。
「なんでもいいけど、いい加減、私の奴隷から足を下ろしてもらえます? もう彼は私のものなので」
怖いけど黙って見てられない。だってこれ以上殴られたら死んじゃうかもしれない。怖さのあまり何もしていないのに、は、は、と息が上がった。
「ああ゙? ……っと、おや、これはこれは。お美しいお嬢さん」
不機嫌そうな声でこちらを振り返った太った男。ゆったりとしたローブを身に纏っていて、いかにも残虐そうな顔をしている。邪魔するなと怒鳴られるかと思ったけど、私の顔を見た途端、奴隷商の男はにやりと笑って二重あごを撫でた。
「お嬢さん。汚いものを見せて申し訳ありませんね。おら! お前も寝てないで謝罪しろ!」
「や、やめて下さい!」
青い顔をして立っている私に笑いかけると、男は床に倒れている青年の頭を踏んづける。それがまた恐ろしくて、私は悲鳴じみた制止をした。
「この人、そんなに悪いことしたんですか? いくらなんでも、やり過ぎだと思います……!」
奴隷ということは、この暴力は何かしらの罰なのかもしれない。そう思っての言葉だったけれど、奴隷商は呆れたような、不思議そうな顔をしてこちらをせせら笑った。
「変なことを言うお嬢さんだねぇ。これだけ美人だし、どこかの箱入り娘かな? コレは奴隷なんだから何したっていいに決まっているだろう? しかもこいつは狼の獣人ですよ、お嬢さん。ちょっとやそっとぶん殴ったってケロリとしてやがる」
「そんな……そんなわけ、ないでしょう……!」
奴隷商は話しながらも青年に足を乗せてぐりぐりと嬲るように足蹴にしている。その倒れた体からは悲鳴もうめき声もしないけれど、それは絶対に痛くないからじゃない。きっと失神してしまっているんだろう。
ボロボロの服を着た青年の背筋には、何十もの鞭の痕が付いていて血が滲んでいる。きっと今日だけでなくずっと酷い暴力を振るわれ続けてきたんだろう。それこそ痛いとかやめろとか言えないくらいに、恐ろしく一方的な暴力を。真っ黒い髪の毛はぼさぼさで頭に変な盛り上がりがあり、彼の体からは異臭もする。まともな扱いじゃない。
怖さと酷さに吐き気がする。荒い息を繰り返していると、馬鹿にしたような奴隷商はその場にしゃがむと青年の髪の毛を掴んだ。
「ははは。お優しくて美しいお嬢さんに、コレのおぞましい顔を見せてあげましょうか。はは、泣いちゃうかな」
笑いながら乱雑に青年を引き摺り上げようとする。その、青年を人として扱わない態度。これだけ傷ついて倒れている青年を見世物のように扱うその姿に、怒りが降り切れる。
そして……私の中で腹が決まったのを感じた。
「結構です。その手を放してください。できるだけそっと。……この人奴隷なんですよね?」
「あ?」
「だったら私が買います。おいくらですか?」
「ニーナ!?」
私の傍で様子を伺っていたルドが慌てて飛び出してきた。
「何言ってるんだよ、ニーナ!」
「ははは、美しいお嬢さん、こいつは狼獣人だぞ? そこのお兄さんとは段違いの醜さだ。きっと買ってもすぐに捨てたくなるさ」
そう言い切った奴隷商。そして私のすぐそばに寄って来たルドが、正面から私の両肩を持つと諭すように口を開いた。
「ニーナ、落ち着いて。悪いことは言わないからここから立ち去ろう。そこの青年は不遇だと思うけど、獣人奴隷なんだからしょうがないよ。それにこの男の言う通り、獣人は俺なんかですら醜くて目を背けたいほどなんだから。そんな奴隷を買っても後悔するだけだよ」
奴隷だからしょうがない?
それがこちらの世界の価値観なのね。でもそれを聞いて、じゃあ止めますとはとても言えなかった。
「別に醜くて後悔してもいいわ。私だって地味ブスだもん、お似合いよ」
今まで散々容姿についてバカにされてきたんだから、そこの青年がどれだけ不細工でも気にするわけないじゃない。
ルドの手を振り払うと、私は再び奴隷商に向き合った。
「で? おいくらですか?」
「はは、綺麗な顔に似合わず気が強いね。……10万ペルラでどうだ?」
「おい、ニーナ!」
言われた金額を鞄の中の袋から掴み出す。そこそこ大金なんだろうけど知ったことじゃないわ。掌にちゃりちゃりと銀貨を何枚も滑らせて数えると、それを奴隷商に乱暴に突き出した。
「10万ぺルラ……ってこれで足りるわよね。はい、これで彼は私のものね」
「……本気で買うのか? この醜い獣人を? まぁ後悔して泣いてもしらないからな」
奴隷商は手の上で銀貨を数えると、面白がるような馬鹿にしたような顔でこちらを見てくる。その薄っすらと唇に乗った笑が不快で、私はふんと鼻息を荒く噴き出した。
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