【美醜逆転】助けた奴隷は獣人の王子でした

のらすて

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異世界で奴隷を買いました

11. 奴隷商

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※暴力表現があります。ご注意ください







「それにしても、あのアルバートがねぇ」

 気まずいまま無言で歩いていた私とルドだけど、少し進んだところで私はぼんやりと独り言のように呟いた。

 運命の人。口の中で慣れない言葉を転がす。自信満々だとは思ってたけど、そんなこと言うキャラだったんだ。
 そして少しだけ腑に落ちた。アルバートは私のことを臓器目当てで誘拐しようとしたんじゃなくて、顔目当て、もしくは体目当てだったのね。つまりアルバートが私を強引に家に連れて行こうとしたのは、タチの悪いナンパだったのか。あの時はあり得ないと思っていたけど、美醜の基準が違う世界なのだと分かったら少し納得する。
 
「アルバート様はすごく美形だろ? それに 昔からすごく人気があったんだ。彼が落とせない女の子はいないって」
「へぇ~あの顔で」
「それで、ニーナのことも諦めきれないんだと思う」
「そ、そう……」

 鏡に映る私は相変わらずの薄味地味女だから、ルドにそう言われると頬がぴくぴくと痙攣してしまう。

「最近は貴族の間でも話題になっているみたいだし、……少し気を付けた方がいいかもしれない」

 ルドが暗い表情でそう告げた言葉に、ただ「困った」で済む話じゃないのかもとドキリと心臓が鳴った。何度も言うけど、私はこの国では身元不明の不審者だ。アルバートに捕まるのも気持ち悪いけど、貴族に興味を持たれたっていいことなんてない。むしろ貴族の方が、私が不審者だと分かったら司法的な意味で捕まえられそう。そう考えたらますます体が強張ってしまう。

 ヤバいかも。本当にそろそろ潮時な気がする。

 しばらく暮らせるだけのお金が手に入ったんだから、この街を離れてどこか別の街に行く? 噂になっているなら早めに立ち去らないと、トラブルに発展してしまうかもしれない。

 それに。
 この街でそれとなく調べたけど、元の世界に関する情報なんて欠片も見つからなかった。ルドもイーディーも「他の世界とかって信じる?」みたいな質問に、御伽噺でもしているのかと笑っているだけだった。だったら他の場所へ移動して、もっと手がかりを探したほうがいいのかもしれない。

「だけどなぁ……」

 こっそりとため息に混ぜて呟く。
 
 だけど宿に帰るまでの夜道を歩くのすら女一人では危険なところだ。隣町までどれほどか分からないけど、一人旅なんて自殺行為かもしれない。次の街ではルドやイーディーさんのような知り合いもいない。この街ではルドがいい人だったからラッキーだけど、だからって次の街でも簡単に誰でも信用してほいほい付いていっては危な過ぎる。

「どうしよ……」
「ニーナ?」
 
 ため息をついているとルドが訝し気に振り返った。それに慌てて、何でもないと首を横に振る。

 ああ、本当にどうしようかしら。
 どこかに信用できて、体力もある男の人で、この世界に詳しくて、それでいて私に付いて旅をしてくれる人がいればいいんだけど……。でもそんな都合のいい存在、いるわけないしなぁ。
 大体あてもなく旅するつもりなのに一緒に来てくれるなんて人いるわけないし……。

 ぐるぐるとループする思考に、ああもう八方ふさがりじゃないと気分が落ち込みかけていた、その時。

 薄暗い通りの少し先から野太い男の怒声が聞こえてきて、小心者の私は小さく飛び跳ねた。

「おい! さっさと歩け!」

 バシン、と同時に鋭い音もする。驚いて目を凝らして見ると、野太い声を出した太った男がなにやら鞭のようなもので傍に膝を付いた男性を叩いている。しかも鞭で叩くと言ってもふざけて軽くではなく、思いっきり殴るようにして振り下ろしている。しかも何度も。膝を付いた男性の体がぐらりと揺れて、衝撃が見て取れるようだった。

「え!? ちょ、ルド! あれどうしたの? 喧嘩じゃないわよね?」

 初めて目の前で見る暴力に、怖さのあまり少し声を潜めてルドに聞く。日本では喧嘩すら見たことがほとんどない。あっても中学校の時にクラスメイトの男の子たちが掴み合いになったのを一度見たかも、程度だ。近くで見ているだけで血の気が引くような光景に、心臓がバクバクと脈打った。

 すると思ってもみなかった言葉が返って来た。
 
「……見ちゃダメだよニーナ。あれは奴隷商だ」
「奴隷!?」

 この世界、奴隷なんて存在したの!? 想像もしていなかったことに引きつったような声が喉から漏れ出てしまう。

「庶民はなかなか買えないから、あんまり見たことないかな? ああ、しかも彼は獣人のようだな」
「獣人?」

 今なんて言った? 獣人? いやまさかね。
 ルドの言葉が理解できなくてルドを仰ぎ見てしまうと、その時に一際大きい衝撃音がした。

「このウスノロが! 醜いだけじゃなくてこんな手間かけさせやがって!」

 繰り返される鞭打ちに、跪いていた青年が地面に倒れたようだった。なのに太った男はさらに怒ったらしく地面に伏せる青年に容赦のない蹴りを入れている。そのあまりの暴力の激しさに、恐怖に震えながら声を上げた。

「え、ちょ、ちょっと! 待ってください!」
「ニーナ!?」
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