【美醜逆転】助けた奴隷は獣人の王子でした

のらすて

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異世界で奴隷を買いました

9. 商売

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 この世界は美醜の基準が違っている。

 男も女も色白でひょろひょろ体型がモテ体型らしい。なんでも外で力仕事をしなくてもいいという高貴さの証だとか。ルドやイーディーのように筋骨隆々な人は野蛮という扱いだとか。

 そして顔。こちらも日本とは基準が全く違っていた。小さくて細い目が控えめで良く、なんでもはっきりくっきりとした顔立ちは動物的で下卑たものとされるとか。

 なのでその美の基準からすると……私のようにモブ地味陰キャ的な容姿は美人扱いらしい。
 分からない。本当に分からない。こんなに影が薄くて、何度会っても忘れそうになる顔とまで言われた私なのに。

 ちっとも理解できないけれど、とりあえずその美の基準の違いのおかげで、私はこの世界で仕事にありつけて生き延びている。たとえば、今のように。



「う……美しいわぁ!」
「本当に、ため息が出そうですわ。お母さま」

 天井からぶら下がるシャンデリア。複雑な模様が施された壁紙。繊細な刺繍のされたソファ。客間と言えども広すぎる部屋。そのど真ん中で、私は心を殺して突っ立っていた。この国で流行りの薄い藍色のドレスと、重たすぎるギラギラ光り輝く宝石を身に着けて。

「どうですか、奥様。こちらのネックレス、ふんだんにアオールを使っていて目立つこと間違いなしです。アオールをこれほど輝かせる技術を持っているのは、この大都市でも当店だけ」
「そうね! なんだか本当に絵画を見ているようだわ……!」
「ええ。ぜひ奥様、お嬢様にもこのアオールを付けて絵画のような美しさを身に纏って頂きたく……この女性のように」
 
 にこやかに笑ったイーディーが私の方を指さして説明すると、目の前のややふくよかな薄顔の女性とその娘は鼻息荒く頷いた。

「いただくわ!」
「お母さま、ネックレスだけじゃなくてピアスと指輪も買いましょうよ!」
「そうね! 彼女が付けているもの全部頂戴!」

 ま、また買ってもらえた……!

 私はあまりにもチョロい商談を目の前にして、引きつった笑顔を浮かべた。
 今まで買いたたかれていたらしいイーディーの宝石は、正規の値段ではなかなかに高級品のようだ。こっそり彼の奥さんに貨幣の数え方を習ったけれど、ネックレス1つで庶民の月給1月分程度になる。それじゃああんまり売れないわよねなんて思っていたし、今まで全然売れなかったって聞いてたのに。私が商談に参加して見ているかぎり飛ぶように売れている。

 私が商談に付いていくようになってからまだ1ヶ月。だけど今のように「全買い」のお客様が頻出していて、庶民の私には目もくらむような額のお金のやり取りがされているのだ。

 ジャラジャラと重たい貨幣がイーディーに渡されて、私は身に着けていた宝石を恭しく箱に収めて夫人とその娘に渡す。その時にそっと視線を合わせて、緩やかに首を傾けて囁いた。

「ありがとうございます」
「……! い、いえ! いいのよ、またいらして頂戴!」

 こういう風に言えとイーディーに言われているのだけど、どうやら効果があるようだ。私からしたらブスが囁いても聞き取り辛いだけなのだけど、こちらの人から見ると何とも神秘的だとか。信じられない。
 
 本当に、この世界の美の基準って全然理解できないわ……。





 




「ふ、ふふふふ、ははははは!」
「ただいま戻りました~」
 
 店に帰ったイーディーが、怪しいとしか言えない高笑いを零す。もう何度も見慣れた光景なので私はそれを無視して、店で宝石の加工をしていたルドに声をかけた。

「おかえりなさいニーナ、イーディー。どうやらまた上手くいったようだね」
「ええ。持って行った宝石、全部お買い上げよ」
「全部!? すごいな、さすがニーナ」

 いえ、私は突っ立っていただけなので何にもしていないんだけど。だけどルドいわく私が来るまで本当に売れなかったらしいから、本当にこの「容姿」が役に立っているみたい。私には理解できないのだけど。ルドとかの方がよっぽどイケメンなんだけどなぁ。私の方を見ながら恥ずかしそうに顔を赤らめるルドを見ながらそう思う。

「ありがとうニーナ! これで俺たちは商人ギルドに入れるし、店も堂々と大通りに構えられる!」
「いえ、イーディーさんの腕が良いせいだと思います」

 店の金庫からどさりどさりと大量の銀貨を持ってきたイーディーが、ニコニコ顔で机の上でそれを並べた。

「いや、ニーナが来るまでは本当に……商品を売りにいくにも服すら揃えられない状況だったんだ。それなのに、今はこの通り」

 そう言ってイーディーはその場で見せびらかすように上着を脱ぎ去る。中には新品らしいシャツにタイ。なんでもタイはなかなかの高級品らしく、それを着けられるのは潤っている証拠だとか。彼のファッションについては分からないけど、ルドのお給料もアップするようだし本当によかった。

「それで、これがニーナの取り分だ」
「えっ!? こんなにいいんですか?」

 目の前に並べられた袋を1つ、ずいと押し付けられる。中には数十枚の銀貨。銀貨一枚で庶民の一ヶ月分の給料と聞いたから……え?  私、たった一ヶ月でその辺の人の年収以上稼いだってこと?

「もちろん。むしろこれでも少ないってルドには言われたな」
「そうだよ。ニーナがいなかったら宝石はろくに売れなかったし、常連客もできなかった……もう店ごと渡したほうがいいんじゃないか?」
「いや、それはちょっと要らないです」

 真面目な顔で訳の分からないことを言うルドに苦く笑って返す。
 大金を稼げたのは有難い。

 だけど……いつまでもここには居られない。
 目の前の置かれた大金を見つめながら、私は小さなため息をついた。


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