【美醜逆転】助けた奴隷は獣人の王子でした

のらすて

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異世界で奴隷を買いました

6. 自信のないイケメン?

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「へ……? あなた……」

 眉を下げた困ったような顔で佇んでいたのは、さきほどアルバートに暴言を吐かれていた美青年だった。私よりも頭一つ分大きな彼が、どこか所在無さげに肩を狭めて私の方を向いている。
 
 困った顔も格好いい……けど、なんでこんなところに。
 混乱して固まっていると、イケメンは体を縮こまらせて頭を下げた。

「す、すみません。俺なんかが声をかけてしまって」
「え! いえ、そうじゃなくて……その、大丈夫じゃないかもです」

 逃げてるし疲れているし怪我もしているしで大丈夫ではない。藁にも縋る気持ちでそう言うと青年はぱっと顔を上げた。

「掌、擦りむいていますね。あんまり大した手当はできないんですが……触ってもいいですか?」
「あ、はい」
「傷に触れないように布を巻きますね。どこかで清潔に洗って、それから巻きなおした方がいいです」

 言うが早いか青年は私の傍へと寄ると下げていた鞄の中から清潔そうな布を取り出して、私の薄汚れた手にくるくると巻き付けていく。血が見えなくなったら少し心が落ち着いてきて私はさっきまでの涙が引っ込んでいくのを感じた。

「……ありがとうございます」
「い、いえ! 滅相もない!」

 お返しなんてなんにもできないけど、きゅ、と強く結ばれた布が有難くて頭を下げる。すると青年はさっきまでのテキパキした様子から一転、顔を真っ赤にすると飛び上がるようにして私から遠ざかった。そしてふー、と大きく深呼吸した後に、私に向かってしどろもどろと口を開いた。

「その……逃げているんですか? さっきの方から」
「あ。そうなんです。あの、どこかこっそり出ていく道があれば教えてほしくて……!」

 迷惑だとかも考えられずにそう言うと、青年は力強く頷いて私の横へと並び立った。

「こっちです。庶民のなかでも俺みたいな人間しか知らない道があります」

 言うが早いか彼は小道をするりと進んでいく。そして数歩進んだ後に、人がやっと一人通れるかどうか程度の細い細い路地裏へと入っていった。

「え、そこ……?」
「大丈夫です。本当に変なところへは行かせません。……命に代えても」

 命って。重たすぎる言葉に戸惑いつつも、他に頼る人もいないので頷く。彼の後に付いてそっと足を踏み出すと、青年は安心したように微笑んだ。……うう、イケメンの笑顔が眩しくて辛い。






 イケメンはルドと名乗った。ルドは5年前に地方都市から出てきた25歳で、このアクラガートで宝石商の手伝いをしているらしい。なんでもその宝石商はルドと同じ故郷出身で、採掘から販売まで一貫して手掛けているらしい。彼らの故郷は宝石の採掘と加工で有名だが、途中で商人に利益の多くを中抜きされてしまう。結果故郷の町はいつまでも小さく貧困にあえぎ、都市部の商人だけが富を蓄えていく。その現状を変えたいと大都市まで出てきたらしい。
 すごい。現状維持が精いっぱいだった私から見たら、そのやる気は素晴らしいものだと思う。それに馬なんかを使っているところを見る限り、この世界の産業技術の水準はそれほど高くない。なのに製造小売を手掛けられるなんてすごいことだと思う。

「すごいですね」
「いえ……ただその、俺はこの見た目でしょう? 宝石商の知人も同じ感じで……なかなかうまくいかないです」

 宝石商の知人も同じ見た目、ということは同じような美形ということ? それともムキムキということなの?
 こんなイケメンに宝石を勧められたら、お金持ちの奥様やお嬢様がホイホイ買うと思うんだけどなー。

 狭い路地を歩きながら彼がぽつりぽつりと語る言葉に耳を傾ける。

「あの……さきほどの方と、もしかして俺のことで喧嘩なさってしまったんですか」
「え? アルバートと? 違いますよ」

 アルバートにはこの街に連れてきてもらったことは感謝している。でも急に人を家に引きずり込もうとしたりされて怖くて仕方なかった。臓器売買とまではいかなくても、何かしらの魂胆があったんだと思う。でももし丁寧に誘われていたら、警戒心の薄い自分は間抜けにも付いて行ってしまったかも。
 どちらにしろルドとは関係ないことだ。

「本当に違うので心配しないでくださいね。アルバートとも知り合ったばかりだったし」 
「その、俺みたいな不細工を庇わせてしまって、本当に申し訳なくて……」
「へ? いや、あなたが不細工だったら私なんてゴミですよ」

 こんなイケメンが不細工なわけないじゃん!
 そんなにへりくだられると、こっちが困る。はは、と乾いた笑いを浮かべて冗談として流そうとすると、ルドは私よりも困ったような顔をして小さい声で呟いた。

「そんなに謙遜されてしまうと困ります。さっき助けて頂いて、俺すごく嬉しくて……俺みたいな不細工にも優しくしてくれる美人がいるなんて、信じられなかった」

 ん?
 んん?

 ルドが言っていることが何かおかしい。俺みたいな不細工に優しくしてくれる美人? 逆じゃなくて? 言い間違い、よね。

「こんな不細工がジロジロ見ていたのが悪いのに、庇ってくださって……」
「えっと、ちょ、ちょっと待ってください」

 いややっぱり言い間違いじゃない。

「あの、今なんて……」
「すみません。俺、ジロジロ見ていて」
「違います! そこじゃなくて、その前!」
「え、えーっと、俺みたいな不細工に優しくしてくれて嬉しかったってとこですか?」

 そこ、そこです。もう一度聞いたけど、やっぱりおかしい。

「もしかしてなんですけど、ご自身を不細工で私を美人とか言いました?」
「はい。さすがに自分を普通とは言えません」

 違う。普通とかじゃなくてイケメンでしょう。それに不細工は私。
 だけどきょとんとした顔のルドは、嘘をついているようにもからかっているようにも見えなくて。私はなんだか、ずーっと感じていた違和感の尻尾を掴みかけているような気がして、ルドの瞳を覗き込んだ。

「私が美人とか、冗談ですよね……?」
「冗談? 違いますよ。だってそうでしょう。これだけお美しいんだから」

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