6 / 13
異世界で奴隷を買いました
6. 自信のないイケメン?
しおりを挟む「へ……? あなた……」
眉を下げた困ったような顔で佇んでいたのは、さきほどアルバートに暴言を吐かれていた美青年だった。私よりも頭一つ分大きな彼が、どこか所在無さげに肩を狭めて私の方を向いている。
困った顔も格好いい……けど、なんでこんなところに。
混乱して固まっていると、イケメンは体を縮こまらせて頭を下げた。
「す、すみません。俺なんかが声をかけてしまって」
「え! いえ、そうじゃなくて……その、大丈夫じゃないかもです」
逃げてるし疲れているし怪我もしているしで大丈夫ではない。藁にも縋る気持ちでそう言うと青年はぱっと顔を上げた。
「掌、擦りむいていますね。あんまり大した手当はできないんですが……触ってもいいですか?」
「あ、はい」
「傷に触れないように布を巻きますね。どこかで清潔に洗って、それから巻きなおした方がいいです」
言うが早いか青年は私の傍へと寄ると下げていた鞄の中から清潔そうな布を取り出して、私の薄汚れた手にくるくると巻き付けていく。血が見えなくなったら少し心が落ち着いてきて私はさっきまでの涙が引っ込んでいくのを感じた。
「……ありがとうございます」
「い、いえ! 滅相もない!」
お返しなんてなんにもできないけど、きゅ、と強く結ばれた布が有難くて頭を下げる。すると青年はさっきまでのテキパキした様子から一転、顔を真っ赤にすると飛び上がるようにして私から遠ざかった。そしてふー、と大きく深呼吸した後に、私に向かってしどろもどろと口を開いた。
「その……逃げているんですか? さっきの方から」
「あ。そうなんです。あの、どこかこっそり出ていく道があれば教えてほしくて……!」
迷惑だとかも考えられずにそう言うと、青年は力強く頷いて私の横へと並び立った。
「こっちです。庶民のなかでも俺みたいな人間しか知らない道があります」
言うが早いか彼は小道をするりと進んでいく。そして数歩進んだ後に、人がやっと一人通れるかどうか程度の細い細い路地裏へと入っていった。
「え、そこ……?」
「大丈夫です。本当に変なところへは行かせません。……命に代えても」
命って。重たすぎる言葉に戸惑いつつも、他に頼る人もいないので頷く。彼の後に付いてそっと足を踏み出すと、青年は安心したように微笑んだ。……うう、イケメンの笑顔が眩しくて辛い。
イケメンはルドと名乗った。ルドは5年前に地方都市から出てきた25歳で、このアクラガートで宝石商の手伝いをしているらしい。なんでもその宝石商はルドと同じ故郷出身で、採掘から販売まで一貫して手掛けているらしい。彼らの故郷は宝石の採掘と加工で有名だが、途中で商人に利益の多くを中抜きされてしまう。結果故郷の町はいつまでも小さく貧困にあえぎ、都市部の商人だけが富を蓄えていく。その現状を変えたいと大都市まで出てきたらしい。
すごい。現状維持が精いっぱいだった私から見たら、そのやる気は素晴らしいものだと思う。それに馬なんかを使っているところを見る限り、この世界の産業技術の水準はそれほど高くない。なのに製造小売を手掛けられるなんてすごいことだと思う。
「すごいですね」
「いえ……ただその、俺はこの見た目でしょう? 宝石商の知人も同じ感じで……なかなかうまくいかないです」
宝石商の知人も同じ見た目、ということは同じような美形ということ? それともムキムキということなの?
こんなイケメンに宝石を勧められたら、お金持ちの奥様やお嬢様がホイホイ買うと思うんだけどなー。
狭い路地を歩きながら彼がぽつりぽつりと語る言葉に耳を傾ける。
「あの……さきほどの方と、もしかして俺のことで喧嘩なさってしまったんですか」
「え? アルバートと? 違いますよ」
アルバートにはこの街に連れてきてもらったことは感謝している。でも急に人を家に引きずり込もうとしたりされて怖くて仕方なかった。臓器売買とまではいかなくても、何かしらの魂胆があったんだと思う。でももし丁寧に誘われていたら、警戒心の薄い自分は間抜けにも付いて行ってしまったかも。
どちらにしろルドとは関係ないことだ。
「本当に違うので心配しないでくださいね。アルバートとも知り合ったばかりだったし」
「その、俺みたいな不細工を庇わせてしまって、本当に申し訳なくて……」
「へ? いや、あなたが不細工だったら私なんてゴミですよ」
こんなイケメンが不細工なわけないじゃん!
そんなにへりくだられると、こっちが困る。はは、と乾いた笑いを浮かべて冗談として流そうとすると、ルドは私よりも困ったような顔をして小さい声で呟いた。
「そんなに謙遜されてしまうと困ります。さっき助けて頂いて、俺すごく嬉しくて……俺みたいな不細工にも優しくしてくれる美人がいるなんて、信じられなかった」
ん?
んん?
ルドが言っていることが何かおかしい。俺みたいな不細工に優しくしてくれる美人? 逆じゃなくて? 言い間違い、よね。
「こんな不細工がジロジロ見ていたのが悪いのに、庇ってくださって……」
「えっと、ちょ、ちょっと待ってください」
いややっぱり言い間違いじゃない。
「あの、今なんて……」
「すみません。俺、ジロジロ見ていて」
「違います! そこじゃなくて、その前!」
「え、えーっと、俺みたいな不細工に優しくしてくれて嬉しかったってとこですか?」
そこ、そこです。もう一度聞いたけど、やっぱりおかしい。
「もしかしてなんですけど、ご自身を不細工で私を美人とか言いました?」
「はい。さすがに自分を普通とは言えません」
違う。普通とかじゃなくてイケメンでしょう。それに不細工は私。
だけどきょとんとした顔のルドは、嘘をついているようにもからかっているようにも見えなくて。私はなんだか、ずーっと感じていた違和感の尻尾を掴みかけているような気がして、ルドの瞳を覗き込んだ。
「私が美人とか、冗談ですよね……?」
「冗談? 違いますよ。だってそうでしょう。これだけお美しいんだから」
0
お気に入りに追加
305
あなたにおすすめの小説

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート
猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。
彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。
地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。
そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。
そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。
他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。

美醜逆転の異世界で私は恋をする
抹茶入りココア
恋愛
気が付いたら私は森の中にいた。その森の中で頭に犬っぽい耳がある美青年と出会う。
私は美醜逆転していて女性の数が少ないという異世界に来てしまったみたいだ。
そこで出会う人達に大事にされながらその世界で私は恋をする。
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。
もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!
結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)
でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない!
何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ…………
……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ?
え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い…
え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back…
ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子?
無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布!
って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない!
イヤー!!!!!助けてお兄ー様!
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる