【美醜逆転】助けた奴隷は獣人の王子でした

のらすて

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異世界で奴隷を買いました

5. 逃亡

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 私たちを乗せた馬はその後は平和に進み、大通りへとさしかかった。
 
 微妙な違和感はいまだに続いていてそれがどうにも居心地が悪い。というのも、さっきからやたらと人の視線を感じるのだ。

 馬に乗っている人は私たちの他にもいるし、私もアルバートもめちゃくちゃ薄顔。だから目立つ要素なんて何にもないはずなのに、やたらと人々から振り替えられていた。最初は私の服装が変だから見られているのかと思ったけれど、どうにも違うような気がしてきた。
 なぜなら人々の反応が好意的……というか芸能人でも見つけたかのようなものなのだ。
 ぽかんと口を開けて立ち止まるおじさん、まるで美術品でも見るかのようにうっとりするおばさん、じっと熱い視線を投げて、それから照れたように顔を背ける青年、口に手を当てて小声できゃあきゃあと叫ぶ少女たち。

 ……え? 私たちじゃないよね?
 だってそんな反応されるタイプじゃないもの。私もアルバートも。上から下まで生粋のモブ。風景に溶け込んじゃうくらい地味。ドラマに出るならエキストラ。いやエキストラにしても存在感なさすぎな地味顔。それなのに美男美女でも見かけたような態度はおかしすぎるでしょ。

 もしやこの乗っている馬がイケメンとか……? そっちの方がありえるかも。

 うんうんと唸っていると、大きな建物の目のまえで馬が立ち止まった。土壁で塗り固められた高い塀。やたらと大きな門は広く開け放たれていて前庭を覗くことができる。その広い前庭の後に、どこかアラビアの国に建っているような豪奢な建物が見えた。建物自体の背は2階建て程度なのかそれほど高くないけれど、門からは中がどこまでなのか見えない程には広い。その建物の手前で、馬はぴたりと止まると首を緩く揺すった。

「……ここは?」
「僕の家だよ」
「へ?」

 アルバートの家、すごい広い。そう言えばさっきこの街の商人の息子って言っていたかも。なるほど、これだけ大きな商家の息子なら、不細工でも態度がでかくなるわね。
 納得しつつ、背の高い馬からゆっくりと降りる。馬に乗ることなんて始めてだったからお尻と内ももが痛い。あなたもありがとう、と馬を優しく撫でると、アルバートの方へと向き直った。

「連れてきてくれてありがとう。じゃあ、またどこかで」

 できたらアルバートの家じゃなくて、どこか宿が探せそうなところに連れてきてほしかった。けど我儘は言えないのでぺこりと頭を下げる。するとアルバートは、まるで思いもよらなかったと言わんばかりに声を張り上げた。

「なに言ってるんだニーナ! 君が一人で出歩くなんて危険だって言ったじゃないか」
「い、いえ、父の知人がいるので……」
「それならその人を僕が連れてくるよ。どうか心配しないで、僕の家でゆっくりしていってくれ」
「は?」

 え、なに。じゃあアルバートはもとから家に連れてくるつもりでここまで来たの? 私に何も言わずに?
 なんとなくうすら寒いものを感じて、一歩後ずさる。アルバートには感謝しているし、セクハラだってちょっと肩を抱かれるくらいだけど、今日会ったばかりの女を家に連れてきてゆっくりしてって……。なんだか嫌だ。

「いや、本当に平気だから、それじゃあね」 
「そうはいかないよ。ニーナ。君みたいな美人で心まで美しい人が歩いていたら騒動になる」

 じわじわとアルバートから距離を取るけど、そうすると彼もじわじわと詰め寄ってくる。言葉も物腰も別に攻撃的じゃないのに、なんだか絶対に逃がすものかという気合みたいなものを感じて少し怖くなる。ふるふると首を横に振ると、私はくるりと踵を返すと脱兎のごとく走り出した。

「じゃ! 本当にもういいので!!」
「え! そんな、ニーナ! 待って! 待ってくれ! 美しい人!」
「はぁ!?」

 なにそれ! まるで女に捨てられたみたいなことを言いながらアルバートが私を追いかけてこようとする。
 え、なんでよ。本格的に気持ち悪くて逃げる足を速めると、アルバートが馬に飛び乗ろうとしたのが目に入った。

「え、マジでやめてよ」

 本気で追いかける気? こんなまだ日も高いうちに、私に付きまとってもいいことないでしょ。そんな危険人物にここまでついて来ちゃったのかと、背筋に冷たいものが走った。
 こんなに必死に追いかけるなんて本気で誘拐でもしようと思ってたの? 身代金なんてなけど、人身売買とか……もしくは臓器狙いとか!? ひぃ、と口の中で小さく叫ぶと、私はさっきまでよりもずっと本気で脚を動かした。
 
 どうしよう。馬だったらすぐに追いつかれちゃう。
 しかもあっちの方がこの街に詳しいし、私は地理もうとければ知人もいないのに。本当に捕まっちゃう。

 どうしよう。どうしようと焦りながら、アルバートが馬に飛び乗ってこちらから視線を外した瞬間、私は大通りの脇の小道へと飛びこんだ。

 大通りと違って建物の影で薄暗い道。舗装されていないむき出しの地面を蹴って進む。この道はどこに繋がってるの? 危ないところなんじゃない? アルバートに捕まっていた方がまだマシだったかな。いやでも本当に臓器売買だったら殺されてたし!

「ど、どうしよう……って、きゃぁ!」

 半泣きになりながら走っていると慣れない道を全力疾走したせいで滑って躓いてしまう。フラットシューズとは言え街歩きようなのに、必死に走りすぎたせいだ。地面に付いた手が少し擦り剝けていてひりひり痛む。膝もぶつけて皮膚が破れてしまった。運動不足のせいで肺も悲鳴を上げている。このまま走って逃げるなんて無理なのかも。

 もう泣いてしまいたい……そう思った瞬間、ひっそりとした声が背後からかけられた。

「あの……大丈夫ですか?」
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