【美醜逆転】助けた奴隷は獣人の王子でした

のらすて

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異世界で奴隷を買いました

2. 異世界……?

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「きみ……きみ、大丈夫かい?」
「は」

 ぼんやりと意識が浮上して、自分が寝ているということにはっと気が付いて瞳を開く。
 え、私どうしたの。家じゃないよね、ここ。頬を撫でる風と、室内にしては明るすぎる陽の光。……外? なんで? なんで家じゃないところで寝ているの?

 驚いて体を起こすと、頭の中がシャッフルされたようにくらくらする。片手で額を抑えて辺りを見回すと、全く見覚えのない景色が広がっていた。

 陽の光を浴びて柔らかく揺れる、深い緑色の木の葉。私が寝ていたところは芝生のようで、だけどそれは枯れ掛けの東京の公園なんかのものと違って力強い。辺りを見回してもビルもなく車も通っておらず人通りもない。こんなに自然が豊かなんて、ここは公園かなにかなんだろうか。それにしても民家すら見当たらないなんて、地価が高騰しているのに、いったいどこなんだろう。

 いや待って。
 私……オフィスにいなかった? そこでいつものように9時から仕事をはじめて、いつものように営業社員に嫌味を言われて。それで落ち込んでしまった気分を自分で宥めようとトイレに駆け込んだはずなのに。なんでこんな牧歌的な風景のところにいるの? 気絶して倒れて誰かが見つけてくれたなら、医務室に連れて行ってくれるはずなのに。こんな屋外に放置するなんて、嫌味な会社の人たちだってそんな悪質ないたずらはしない……はず。

 かといってトイレで倒れていてそこから誘拐されるはずもない。オフィスビルの出入り口には警備員もいるし、こんな中途半端な年齢の地味な女を攫ってもいいことはないだろう。お金もなさそうなのは明らかだし。

 混乱して頭を抱えそうになると、目の前にいる男の人が明るく声を上げた。

「良かった。目が覚めた」
「あ、あの……。私、ここは……」

 彼は私ほどではないけど地味で薄味な顔立ち。どこか外国の血を感じさせる色の白さと鼻の高さだったけど、人の波が来たら埋もれてしまいそうなほど影の薄い人だった。失礼だけど勝手に親近感を持っていると、地味な彼はぱぁ、と嬉しそうに顔を緩めた。

「大丈夫かい、美しい人」
「はぁ?? あ、とすみません」

 地味な顔の癖に何を言っているんだ。しかも私相手に。いや、私みたいな女だから舐めて言ってきたのだろうか。思わず低い声で何言っているんですかと言いかけて、慌てて口を塞ぐ。彼がここまで連れてきた誘拐犯でないのなら、彼は倒れている私を見つけてくれた人なのだから。

「いや、いいんだよ。美人に美人と言うのは失礼だったかな」
「はぁ……」

 私に冷たい声を掛けられた彼は、一瞬ひるんだ様子だったけれど、再びにこりと顔に笑みを浮かべた。

「どこか痛いところは? 体調不良かな。君がそこの木陰に倒れていたのを見つけた時は、天使が空から落ちてきたのかと思ったよ」

 天使? 大丈夫なのか心配なのは私じゃなくてこの人じゃない。突っ込むのも虚しいほどに私には不釣り合いな言葉。馬鹿にしているつもりなのかもしれないけどいい加減にして欲しい。こういうからかいは相手にしないのが一番、と私はその言葉を流して聞かなかったことにした。

「すみません、今まで健康体そのものだったんですけど……急に意識が」
「貧血かもしれない。それか……僕と出会うための運命かな」
「はぁ」

 ばちり、と音がしそうなほど強くウインクをされる。うわぁ。まるで陽キャなナンパ男みたいな仕草に言葉には出さないけれどちょっと引く。細い目を眇められるとまるで糸じゃない。私が可愛い格好したりすると、周りの人はこういうのを見せられた気分になるのかしら……。まぁ自信満々なのは才能だと思うし、いいことなんだろうけど。
 なんでこの男はこんなに強気なのか分からない。しかも私相手にこんな態度、なんのつもりなのかしら。

 突っ込む力もなくて適当にため息のような相槌を打ち、その場から立ち上がる。職場がオフィスカジュアルOKなところで良かった。派手すぎないふわりとしたミモレ丈のワンピースのおかげで、寝ころんでいたけれどパンツは見えていないと思う。こんなに芝生が生えているとお気に入りのフラットシューズが汚れてしまいそうだけど、今は気にしていられない。

「あの、最寄りの駅まで行きたいんですが……」
「エキ?」
「あ、それよりも交番教えてもらえませんか? 手持ちがなかったかも」
「コウバン?」

 彼の頭にはてなマークが飛んでいるのが見えそうだ。 え、でも難しいことなんて言ってないわよね。外国人っぽく見えたけれど、本当に外国の方なのかしら。でもさっきまでぺらぺら話していたのに駅や交番が分からないなんてことある? それこそ日本語初心者が真っ先に覚えそうな言葉なのに。

「えっと、じゃあ大きい通りはどちら方面になりますか?」
「大通りなら一緒に行こう。丁度街に帰るところだから、僕の馬に乗せてあげるよ」
「馬」

 そう言うと彼は道のわきを指で指し示す。それまで木の影に隠れていたけれど、馬を止めているらしい。馬という言葉に驚いて目を見開く。馬ってあの馬よね? そんなものを交通手段にしてるの? どういうこと?

 そして彼が指さす方向を見て……私は悲鳴を上げた。

「え? は? はぁぁぁああ!????」

 その馬……いや、「たぶん」馬と呼ばれた生き物の頭には、大きな角が生えていたのだ。
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