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賢者と弟子
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ある賢者が言った。
「人生は楽しむものだ」と
その弟子は、こう答えた。
「今、とても苦しいです……」
賢者はいつも笑顔をたやさなかった。
どんなことにも楽しみを見出し、どんなことをも理解しようとした。
それが出来るのは賢者だからなのか、それとも大人になればわかるようになるのか、ただ幸運だからなのか。
弟子は知ろうとしたけど、すぐに諦めてしまった。
そして弟子は、賢者をうらやんだ。
「賢者様だけズルいです。僕にも教えて下さい! 僕をこの苦しみから救って下さい……! 幸せになりたい!」
賢者は少し眉を寄せて、そのあと優しく微笑んだ。
「お前にもわかるように言ってあげよう。私は私の人生を楽しいとは言っていない。人生は楽しむものだと言っているのだ」
弟子は、そんな賢者を見上げた。
賢者は自分の半分くらいの小さな背の弟子の頭をそっと撫でた。
「楽しいことと、楽しむことは違うんだよ。生きるということは、そういうことだ」
「……え? 賢者様……?」
ふたりは暗くなった森で、たき火をしていたが、賢者は弟子に寝袋を指さして言った。
「私が火を見ているよ。お前は眠るといい」
その時、弟子は浮かべた。
いつも、なにかを与えようとしてくれる賢者。
獣を探し、その狩り方を教えてくれる。
寒いと言えば、「こうすればお互いにあたたかいだろう」と、手を握り、歩いてくれる。
怪我をすれば治してくれる賢者。
あたたかい食事、あたたかな火、眠ることなく火を見続ける時間、賢者は何を考えているのだろうと。
そのひとつひとつに、幸せが眠っているのではないだろうかと。
「弟子よ。どうした?」
「……賢者様は、どうしていつもこんな僕に優しいのですか?」
賢者はいいやと、首をゆっくり左右に振った。
「両親に捨てられ、石を投げられ続けてきたお前に、人を信じろと言うのは酷だ。苦しみと言うのは、ずっと胸に残るもの。それを私は取り払ってやれない」
「……でも」
「だが、私にも出来ることはある」
「どんなことですか……?」
「それは、お前を信じてやることだ。お前自身が幸せだと感じられなければ、どんなに私が楽しもうとも、それは他人事だからな。お前が感じるんだ。お前が思う、幸せを見つけるんだ」
何も言えなくなった弟子を、見つめる賢者の瞳は真っ直ぐで優しかった。
「いつかわかる時が来ますか?」
「……そういうものは、失くしてから気づくことが多かった。だが、失くした後も人生は続くもんだ。だから、人生を楽しむといい。世界はひとりではないのだから」
その翌朝、寝袋から出た弟子は驚愕した。
どこを探しても賢者がおらず、たき火の火も消えていて、煙があがっていたからだ。
「賢者様……!」
「人生は楽しむものだ」と
その弟子は、こう答えた。
「今、とても苦しいです……」
賢者はいつも笑顔をたやさなかった。
どんなことにも楽しみを見出し、どんなことをも理解しようとした。
それが出来るのは賢者だからなのか、それとも大人になればわかるようになるのか、ただ幸運だからなのか。
弟子は知ろうとしたけど、すぐに諦めてしまった。
そして弟子は、賢者をうらやんだ。
「賢者様だけズルいです。僕にも教えて下さい! 僕をこの苦しみから救って下さい……! 幸せになりたい!」
賢者は少し眉を寄せて、そのあと優しく微笑んだ。
「お前にもわかるように言ってあげよう。私は私の人生を楽しいとは言っていない。人生は楽しむものだと言っているのだ」
弟子は、そんな賢者を見上げた。
賢者は自分の半分くらいの小さな背の弟子の頭をそっと撫でた。
「楽しいことと、楽しむことは違うんだよ。生きるということは、そういうことだ」
「……え? 賢者様……?」
ふたりは暗くなった森で、たき火をしていたが、賢者は弟子に寝袋を指さして言った。
「私が火を見ているよ。お前は眠るといい」
その時、弟子は浮かべた。
いつも、なにかを与えようとしてくれる賢者。
獣を探し、その狩り方を教えてくれる。
寒いと言えば、「こうすればお互いにあたたかいだろう」と、手を握り、歩いてくれる。
怪我をすれば治してくれる賢者。
あたたかい食事、あたたかな火、眠ることなく火を見続ける時間、賢者は何を考えているのだろうと。
そのひとつひとつに、幸せが眠っているのではないだろうかと。
「弟子よ。どうした?」
「……賢者様は、どうしていつもこんな僕に優しいのですか?」
賢者はいいやと、首をゆっくり左右に振った。
「両親に捨てられ、石を投げられ続けてきたお前に、人を信じろと言うのは酷だ。苦しみと言うのは、ずっと胸に残るもの。それを私は取り払ってやれない」
「……でも」
「だが、私にも出来ることはある」
「どんなことですか……?」
「それは、お前を信じてやることだ。お前自身が幸せだと感じられなければ、どんなに私が楽しもうとも、それは他人事だからな。お前が感じるんだ。お前が思う、幸せを見つけるんだ」
何も言えなくなった弟子を、見つめる賢者の瞳は真っ直ぐで優しかった。
「いつかわかる時が来ますか?」
「……そういうものは、失くしてから気づくことが多かった。だが、失くした後も人生は続くもんだ。だから、人生を楽しむといい。世界はひとりではないのだから」
その翌朝、寝袋から出た弟子は驚愕した。
どこを探しても賢者がおらず、たき火の火も消えていて、煙があがっていたからだ。
「賢者様……!」
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