1 / 1
1.青ウサギの手紙屋さん
しおりを挟む
ボクは青ウサギのアオ。
世界一大きなリンゴの木の下で、青ウサギの手紙屋をしている。
でも、ボクがいる場所は、山の頂上なので、お客様は多いわけではない。
ハァハァハァハァ……。
胸にふたつのリンゴを抱いている、着いたばかりの桃ウサギさんが、ボクを見つけると、ほっとした顔になる。
「青ウサギさん。あ、あの……!」
「はい。いらっしゃいぴょん!」
まずはどうぞと冷たい水を差し出すと、桃ウサギさんはそれを受け取り、目が輝かせた。
「あ、ありがとうございますの!」
「こちらで、お手紙を届けてくださるって聞きましたの」
水を飲みほすと、少し不安そうな顔で桃ウサギさんが見つめてくる。
「もちろん、リンゴひとつでやっていますぴょん!」
「じゃ、じゃあ……!」
桃ウサギさんは、白い封筒の中から1枚の手紙、飲み終えたコップ、胸にずっと抱いていたリンゴのひとつを、どうぞと渡してきた。
コップはボクが受け取ると消え、それを見た桃ウサギさんは、目をまるくしていた。
「届ける手紙は、1枚でOKぴょん?」
「あ、はい! 相手は亡くなっていても届けられるって聞きましたの……」
「リンゴひとつで1枚ですぴょん。もうひとつのリンゴは自分で食べるぴょん?」
「あ、いえ! ほんとは2枚のつもりだったんですけど、まずは1枚……」
「では、お手紙届けますぴょん! 少し待つぴょん!」
リンゴをシャクッとひとかじり。
普段、黒い瞳が、リンゴをかじると、青くなる。
そして、受け取った白い手紙が、青く燃え上がる。
「えっ、え!?」
燃え上がる青い火を消そうと、桃ウサギさんが近づく。
「触れたら、届かないぴょん!」
「あ! はい……。すみませんの」
燃えて消えてしまった手紙を見つめて、桃ウサギさんが淋しそうに瞳を揺らす。
「反応ありましたぴょん!」
「え?」
いつの間にか、目の前で浮いている青い封筒を見つけて、桃ウサギさんが動揺している。
「開いてぴょん」
「……はい」
青い封筒の中には、青い手紙が1枚。
その内容は、送ったものと同じ。
「……えっと」
「これから対話をしますぴょん」
「対話……ですの?」
「その手紙を読んでいる間、ボクは亡くなった方とも重なりますぴょん」
桃ウサギさんは、手紙を開き、ゆっくりと読み始めた。
「ずっと、言えなかったの……。作ってくれたご飯を、おいしくないって言ったり、元気づけようとして笑わせようとしてくれても、おもしろくないって言ったり、明日がない、明日がないって、病気になってから、ずっとやつあたりばかりして」
『……モモ』
声の変わったボクに、モモがビクッとする。
『ぼくは怒ってないよ? モモ。それどころか、嬉しいんだ』
「だって……!」
『ぼくが届けた花で、君は今も生きている。明日がある。それに、素直じゃない君が、明日がなかった君が、ぼくに手紙を届けてくれたんだ……』
「クロ!」
『それ以上のことなんて、ぼくにはないんだよ』
クロと重なったボクは、モモをそっとくるんで、ヨシヨシ頭を撫でた。
そして、スッとモモから離れると、ボクの目は黒に戻っていた。
「こんな……ことって!」
モモは泣き崩れたけど、ボクはなにもしなかった。
「もう逢えないんですの?」
「1枚は1枚ぴょん」
「もう一度、逢いたいですの……!」
「もうひとつのリンゴと残りの手紙もくれるぴょん?」
モモはヨロヨロと立ち上がると、もうひとつのリンゴと残りの手紙も差し出した。
同じ手順の後に、ボクは青い目になって首を振る。
『モモと離れられなくなる……』
「ひとつだけ言わせてほしいですの!」
『なんだい?』
「クロに、あんなに危険な場所に行かせてごめんなさい……!」
『高くて買えなかったんだ。崖じゃなくて、海でももぐったさ』
「そのせいで!」
『モモは望んでいたじゃないか』
「なにを……?」
『夢に生きることをだ』
モモは後悔しているんだろう。クロに重なることで、それも察することができる。
『ぼくは後悔してない。モモが生きる限り、モモが夢を叶える姿を、ここから見ているから……』
「クロ……。クロ……!」
『もう逢いに来たら駄目だ』
強制的にクロの意識が途絶えた。
もう重なれない。
ボクは黒い目に戻ると、壊れそうな瞳のモモの涙をぬぐった。
「ひとつ、言えることがあるぴょん」
「……なんですの?」
「彼が望んだのは、なにぴょん?」
「……それは」
「夢に生きることだぴょん」
モモの帰っていく後ろ姿が淋しそうだ。
見えなくなるまで見守ると、ボクは少しうつむいた。
でも、世界にはたくさんのウサギがいる。
ずっと、クロを愛することもできるだろう。
でも夢に向かい、多くのウサギと知り合う道もあるだろう。
「もう来たら駄目ぴょん」
『そうだね』
「クロ……?」
『モモに逢わせてくれて、ありがとう』
ボクは一度重なった相手と、いつでも話すことができる。
でも、それを言ってしまったら、モモは過去にとらわれてしまう。
夢を持つモモには、これからも生きて輝いてほしいから。
今はふたり、手を振るんだ。
end
世界一大きなリンゴの木の下で、青ウサギの手紙屋をしている。
でも、ボクがいる場所は、山の頂上なので、お客様は多いわけではない。
ハァハァハァハァ……。
胸にふたつのリンゴを抱いている、着いたばかりの桃ウサギさんが、ボクを見つけると、ほっとした顔になる。
「青ウサギさん。あ、あの……!」
「はい。いらっしゃいぴょん!」
まずはどうぞと冷たい水を差し出すと、桃ウサギさんはそれを受け取り、目が輝かせた。
「あ、ありがとうございますの!」
「こちらで、お手紙を届けてくださるって聞きましたの」
水を飲みほすと、少し不安そうな顔で桃ウサギさんが見つめてくる。
「もちろん、リンゴひとつでやっていますぴょん!」
「じゃ、じゃあ……!」
桃ウサギさんは、白い封筒の中から1枚の手紙、飲み終えたコップ、胸にずっと抱いていたリンゴのひとつを、どうぞと渡してきた。
コップはボクが受け取ると消え、それを見た桃ウサギさんは、目をまるくしていた。
「届ける手紙は、1枚でOKぴょん?」
「あ、はい! 相手は亡くなっていても届けられるって聞きましたの……」
「リンゴひとつで1枚ですぴょん。もうひとつのリンゴは自分で食べるぴょん?」
「あ、いえ! ほんとは2枚のつもりだったんですけど、まずは1枚……」
「では、お手紙届けますぴょん! 少し待つぴょん!」
リンゴをシャクッとひとかじり。
普段、黒い瞳が、リンゴをかじると、青くなる。
そして、受け取った白い手紙が、青く燃え上がる。
「えっ、え!?」
燃え上がる青い火を消そうと、桃ウサギさんが近づく。
「触れたら、届かないぴょん!」
「あ! はい……。すみませんの」
燃えて消えてしまった手紙を見つめて、桃ウサギさんが淋しそうに瞳を揺らす。
「反応ありましたぴょん!」
「え?」
いつの間にか、目の前で浮いている青い封筒を見つけて、桃ウサギさんが動揺している。
「開いてぴょん」
「……はい」
青い封筒の中には、青い手紙が1枚。
その内容は、送ったものと同じ。
「……えっと」
「これから対話をしますぴょん」
「対話……ですの?」
「その手紙を読んでいる間、ボクは亡くなった方とも重なりますぴょん」
桃ウサギさんは、手紙を開き、ゆっくりと読み始めた。
「ずっと、言えなかったの……。作ってくれたご飯を、おいしくないって言ったり、元気づけようとして笑わせようとしてくれても、おもしろくないって言ったり、明日がない、明日がないって、病気になってから、ずっとやつあたりばかりして」
『……モモ』
声の変わったボクに、モモがビクッとする。
『ぼくは怒ってないよ? モモ。それどころか、嬉しいんだ』
「だって……!」
『ぼくが届けた花で、君は今も生きている。明日がある。それに、素直じゃない君が、明日がなかった君が、ぼくに手紙を届けてくれたんだ……』
「クロ!」
『それ以上のことなんて、ぼくにはないんだよ』
クロと重なったボクは、モモをそっとくるんで、ヨシヨシ頭を撫でた。
そして、スッとモモから離れると、ボクの目は黒に戻っていた。
「こんな……ことって!」
モモは泣き崩れたけど、ボクはなにもしなかった。
「もう逢えないんですの?」
「1枚は1枚ぴょん」
「もう一度、逢いたいですの……!」
「もうひとつのリンゴと残りの手紙もくれるぴょん?」
モモはヨロヨロと立ち上がると、もうひとつのリンゴと残りの手紙も差し出した。
同じ手順の後に、ボクは青い目になって首を振る。
『モモと離れられなくなる……』
「ひとつだけ言わせてほしいですの!」
『なんだい?』
「クロに、あんなに危険な場所に行かせてごめんなさい……!」
『高くて買えなかったんだ。崖じゃなくて、海でももぐったさ』
「そのせいで!」
『モモは望んでいたじゃないか』
「なにを……?」
『夢に生きることをだ』
モモは後悔しているんだろう。クロに重なることで、それも察することができる。
『ぼくは後悔してない。モモが生きる限り、モモが夢を叶える姿を、ここから見ているから……』
「クロ……。クロ……!」
『もう逢いに来たら駄目だ』
強制的にクロの意識が途絶えた。
もう重なれない。
ボクは黒い目に戻ると、壊れそうな瞳のモモの涙をぬぐった。
「ひとつ、言えることがあるぴょん」
「……なんですの?」
「彼が望んだのは、なにぴょん?」
「……それは」
「夢に生きることだぴょん」
モモの帰っていく後ろ姿が淋しそうだ。
見えなくなるまで見守ると、ボクは少しうつむいた。
でも、世界にはたくさんのウサギがいる。
ずっと、クロを愛することもできるだろう。
でも夢に向かい、多くのウサギと知り合う道もあるだろう。
「もう来たら駄目ぴょん」
『そうだね』
「クロ……?」
『モモに逢わせてくれて、ありがとう』
ボクは一度重なった相手と、いつでも話すことができる。
でも、それを言ってしまったら、モモは過去にとらわれてしまう。
夢を持つモモには、これからも生きて輝いてほしいから。
今はふたり、手を振るんだ。
end
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
【ペンギンのかくれんぼ】~永遠の愛を誓い合ったはずのポポとガガ。ある日愛するガガが失踪!ポポは毎日探し回るが…~【完結】
みけとが夜々
児童書・童話
シンガポールからやってきた2匹の茶色ペンギンのポポとガガ。
2匹はとても仲がよく、何をするにもどこへ行くにも常に一緒でした。
そんなある日、突然ガガがいなくなってしまいました。
ポポは毎日必死に色んなところを探し回りますが、どこにもガガはいません。
ある時、すずめさんがポポの元に現れて━━━━。
(C)みけとが夜々 2024 All Rights Reserved
プラネタリウムのめざす空
詩海猫
児童書・童話
タイトル通り、プラネタリウムが空を目指して歩く物語です。
普段はタイトル最後なのですが唐突にタイトルと漠然とした内容だけ浮かんで書いてみました。
短い童話なので最初から最後までフワッとしています。が、細かい突っ込みはナシでお願いします。
そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。
桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。
それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。
でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。
そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。
紅薔薇と森の待ち人
石河 翠
児童書・童話
くにざかいの深い森で、貧しい若者と美しい少女が出会いました。仲睦まじく暮らす二人でしたが、森の周辺にはいつしか不穏な気配がただよいはじめます。若者と彼が愛する森を守るために、少女が下した決断とは……。
こちらは小説家になろうにも投稿しております。
表紙は、夕立様に描いて頂きました。


王妃様のりんご
遥彼方
児童書・童話
王妃様は白雪姫に毒りんごを食べさせようとしました。
ところが白雪姫はりんごが大嫌い。
さあ、どうしたら毒りんごを食べさせられるでしょうか。
表紙イラスト提供 星影さきさま
本作は小説になろう、エブリスタにも掲載しております。
新訳 不思議の国のアリス
サイコさん太郎
児童書・童話
1944年、ポーランド南部郊外にある収容所で一人の少女が処分された。その少女は僅かに微笑み、眠る様に生き絶えていた。
死の淵で彼女は何を想い、何を感じたのか。雪の中に小さく佇む、白い兎だけが彼女の死に涙を流す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
「ぴょん」という語尾がかわいいですね。
情感がほどよく抑制されて、とても読み応えがありました。
坂本さん、読んでくださり、ありがとうございます!
私自身に見えている感情が、伝わっていたとしたら、とても嬉しいです!
感謝感謝です!
読み始めは「な~んで山頂で郵便屋さんなんてしてるの?」って思ったけど、そういうお話だったんですねw
いつか別れは訪れるから、残された人はどう生きるか。
kamiさん、読んでくれてありまと!
そうですね。
山頂にいるのは、対価かもしれないですね。
残された存在は、残されたものを大事に、生きていかなければならない。
きっと苦しいだけじゃない出会いもあって、また夢を見れたり、喜びを感じたり、だれかに勇気を与えたりとか、迷いながらでも進める道を選んでいけるように。