青ウサギの手紙屋さん

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1.青ウサギの手紙屋さん

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ボクは青ウサギのアオ。
世界一大きなリンゴの木の下で、青ウサギの手紙屋をしている。

でも、ボクがいる場所は、山の頂上なので、お客様は多いわけではない。

ハァハァハァハァ……。
胸にふたつのリンゴを抱いている、着いたばかりの桃ウサギさんが、ボクを見つけると、ほっとした顔になる。

「青ウサギさん。あ、あの……!」
「はい。いらっしゃいぴょん!」
まずはどうぞと冷たい水を差し出すと、桃ウサギさんはそれを受け取り、目が輝かせた。
「あ、ありがとうございますの!」

「こちらで、お手紙を届けてくださるって聞きましたの」
水を飲みほすと、少し不安そうな顔で桃ウサギさんが見つめてくる。
「もちろん、リンゴひとつでやっていますぴょん!」
「じゃ、じゃあ……!」

桃ウサギさんは、白い封筒の中から1枚の手紙、飲み終えたコップ、胸にずっと抱いていたリンゴのひとつを、どうぞと渡してきた。
コップはボクが受け取ると消え、それを見た桃ウサギさんは、目をまるくしていた。

「届ける手紙は、1枚でOKぴょん?」
「あ、はい! 相手は亡くなっていても届けられるって聞きましたの……」
「リンゴひとつで1枚ですぴょん。もうひとつのリンゴは自分で食べるぴょん?」
「あ、いえ! ほんとは2枚のつもりだったんですけど、まずは1枚……」

「では、お手紙届けますぴょん! 少し待つぴょん!」
リンゴをシャクッとひとかじり。
普段、黒い瞳が、リンゴをかじると、青くなる。
そして、受け取った白い手紙が、青く燃え上がる。

「えっ、え!?」
燃え上がる青い火を消そうと、桃ウサギさんが近づく。
「触れたら、届かないぴょん!」
「あ! はい……。すみませんの」

燃えて消えてしまった手紙を見つめて、桃ウサギさんが淋しそうに瞳を揺らす。
「反応ありましたぴょん!」
「え?」
いつの間にか、目の前で浮いている青い封筒を見つけて、桃ウサギさんが動揺している。

「開いてぴょん」
「……はい」

青い封筒の中には、青い手紙が1枚。
その内容は、送ったものと同じ。

「……えっと」
「これから対話をしますぴょん」
「対話……ですの?」
「その手紙を読んでいる間、ボクは亡くなった方とも重なりますぴょん」

桃ウサギさんは、手紙を開き、ゆっくりと読み始めた。

「ずっと、言えなかったの……。作ってくれたご飯を、おいしくないって言ったり、元気づけようとして笑わせようとしてくれても、おもしろくないって言ったり、明日がない、明日がないって、病気になってから、ずっとやつあたりばかりして」
『……モモ』
声の変わったボクに、モモがビクッとする。
『ぼくは怒ってないよ? モモ。それどころか、嬉しいんだ』
「だって……!」

『ぼくが届けた花で、君は今も生きている。明日がある。それに、素直じゃない君が、明日がなかった君が、ぼくに手紙を届けてくれたんだ……』
「クロ!」

『それ以上のことなんて、ぼくにはないんだよ』
クロと重なったボクは、モモをそっとくるんで、ヨシヨシ頭を撫でた。

そして、スッとモモから離れると、ボクの目は黒に戻っていた。

「こんな……ことって!」
モモは泣き崩れたけど、ボクはなにもしなかった。

「もう逢えないんですの?」
「1枚は1枚ぴょん」
「もう一度、逢いたいですの……!」
「もうひとつのリンゴと残りの手紙もくれるぴょん?」

モモはヨロヨロと立ち上がると、もうひとつのリンゴと残りの手紙も差し出した。

同じ手順の後に、ボクは青い目になって首を振る。
『モモと離れられなくなる……』
「ひとつだけ言わせてほしいですの!」
『なんだい?』

「クロに、あんなに危険な場所に行かせてごめんなさい……!」
『高くて買えなかったんだ。崖じゃなくて、海でももぐったさ』
「そのせいで!」
『モモは望んでいたじゃないか』
「なにを……?」
『夢に生きることをだ』

モモは後悔しているんだろう。クロに重なることで、それも察することができる。
『ぼくは後悔してない。モモが生きる限り、モモが夢を叶える姿を、ここから見ているから……』
「クロ……。クロ……!」
『もう逢いに来たら駄目だ』

強制的にクロの意識が途絶えた。
もう重なれない。

ボクは黒い目に戻ると、壊れそうな瞳のモモの涙をぬぐった。

「ひとつ、言えることがあるぴょん」
「……なんですの?」
「彼が望んだのは、なにぴょん?」
「……それは」

「夢に生きることだぴょん」

モモの帰っていく後ろ姿が淋しそうだ。
見えなくなるまで見守ると、ボクは少しうつむいた。

でも、世界にはたくさんのウサギがいる。

ずっと、クロを愛することもできるだろう。
でも夢に向かい、多くのウサギと知り合う道もあるだろう。

「もう来たら駄目ぴょん」
『そうだね』
「クロ……?」
『モモに逢わせてくれて、ありがとう』

ボクは一度重なった相手と、いつでも話すことができる。
でも、それを言ってしまったら、モモは過去にとらわれてしまう。

夢を持つモモには、これからも生きて輝いてほしいから。
今はふたり、手を振るんだ。
end
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みんなの感想(2件)

坂本 光陽
2023.07.21 坂本 光陽

「ぴょん」という語尾がかわいいですね。

情感がほどよく抑制されて、とても読み応えがありました。

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2023.07.21 1000

坂本さん、読んでくださり、ありがとうございます!
私自身に見えている感情が、伝わっていたとしたら、とても嬉しいです!
感謝感謝です!

解除
kami
2023.07.11 kami

読み始めは「な~んで山頂で郵便屋さんなんてしてるの?」って思ったけど、そういうお話だったんですねw
いつか別れは訪れるから、残された人はどう生きるか。

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2023.07.11 1000

kamiさん、読んでくれてありまと!
そうですね。
山頂にいるのは、対価かもしれないですね。
残された存在は、残されたものを大事に、生きていかなければならない。
きっと苦しいだけじゃない出会いもあって、また夢を見れたり、喜びを感じたり、だれかに勇気を与えたりとか、迷いながらでも進める道を選んでいけるように。

解除

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