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1章
12話*
しおりを挟むぱち、と頬に軽い衝撃を何度か受けてはっと目を開ける。
「あ、起きた?よかったわぁ、病院に連れてく言うても、俺もまだこんなんやし、どないしよ思っててん」
「あ、あ゛っ?ぅあ・・・?」
しょろ
しょぽぽ
「ぉ゛ッ~~~~~゛ッ!!♡」
「っ、は、締めすぎなんやて・・・中イキは難しいって聞いてたんやけど、そうでもないもんなん?」
じわじわと熱い体液が勝手に溢れていく。ぞりぞりと上の壁こそげる様にして彼が出ていくのだ。ただ夏樹が出ていくというそれだけの動きで、何本もの突起が壁を抉っていくのだ。
こんなの、どうにかならない女の子がいるわけない。
耐えられない。
身体が言う事を聞かない。
片手は頭の横でベッドへと押さえつけられたままだった。もう片方は自由だけど、快感が強すぎていつの間にかシーツを握りしめ、そのまま動かせない。
腰は勝手に浮き上がってへこへこと揺れてしまっているし、腹筋がべこべこと波打つから呼吸も苦しい。
こんな深い絶頂は味わったことがなくて、自分で自分の事が分からない。頭の中が多幸感で溢れている。これだめだ。多分味わったらだめなヤツだ。抜け出せなくなる。
「なーぁって!」
ばちゅっ!
「ひィんっ゛!!?♡」
話しかけながら腰を叩きつけられてまた果てる。まだイくの終わってないのに次が来ちゃう。辛い。これきついッ!
「やっやぁ゛っ♡イっでるからっぁ゛っあ゛っ!イ゛ってるぅ゛ッ」
「あー、こら、あかんやん、俺の腹びしょびしょにしんといてよ」
「ぅあ゛っぅぁぁっごめ、へぁっ!~~~~ッ!♡ぞりぞりしにゃいでぇええ゛ッ!!♡」
ぷしゃっ!
必死に首を振りながら、味わった事もない強すぎる快感から逃れようとガムシャラに脚を動かす。でもどんなにシーツを蹴り飛ばしても、ただ布が波打つだけで、ちょっとずり上がる事すらできない。なんせ片手はまだ頭の横で磔にされたままなのだ。考えてみれば当然の事なのに、今はそんな思考すら回らない。
ちょっと出入りされるだけで潮を吹いてしまう。こんなの知らない。こんなの知らないッ!
「これそんな気持ちぃんか。んなら、こっちの体になってよかったわぁ」
「ほぁっ♡やみぇ、え゛ッ♡も、とめ、へぁッ゛♡」
「俺の元の体、骨しか持って来られへんかったし、大体猫でできてるんよなぁ。これでも随分人間に寄せられるようになったんやで」
なんか訳の分からない、難しい事を言われている。今のドロドロに溶けた頭では全然話について行ける気がしない。なんでもいい、後にして欲しい。とにかく動くのやめてっ!
「ぅーーーッ!ぅう゛~~~~ッ♡」
「知ってる?猫のちんこってこんなん比べ物にならんくらいトゲトゲしてんねんで。でもそんなん困るやんか。俺あんたと普通のエッチしたかったし」
「止めッも、待ってぇ、待っ――――えぅっ!♡」
深い場所まで挿入ってきたまま、緩く出し入れされて絶頂感が続いてしまう。それが苦しくて、気持ちよすぎるのがしんどくて、夏樹の手を爪が食い込むくらい握りしめ、何度も何度も静止の声を上げた。
なのに全然聞いてくれない。こちらに構うことなく、彼は訳の分からない話を続けるだけだ。
猫のおちんちんとか今どうでもいい!今話す事じゃないでしょ。全然ちゃんと分からないからっ!それよりお腹びくびくしてるの苦しいの。子宮熱いっ!
彼が動く度、じょろじょろとだらしなく潮が溢れてしまう。完全に体がおかしくなっていた。
「あ゛っあ゛ッ!♡あっはっぁっ゛♡」
「このさぁ、奥コリコリしてるのって子宮?」
「~~~~っ!!ぅうううぅぅ゛ッ!!♡」
夏樹が無遠慮に、これでもかと腰を押し付けてきたせいで、全然イくのがおさまらない状態の子宮が、ごりごりと押しつぶされる。
悶絶した。
喉が攣りそうなほどに仰け反り、彼に握られた手も、シーツを掴んでいた手も、大きく割り広げられた脚もめちゃくちゃに暴れさせたた。
しかし、あまりの力の差の前には、全ての抵抗が無駄で、無意味だった。
「んはっ、ッ、そんなだらしない顔したらだめやろ?童貞相手にしてんねんで?もっと初心者向けにあんあん可愛く鳴いてや」
「ぅむ、っ!?ん゛っぅぐぅうぅ゛♡」
悶絶する私を完全に抑え込んだ彼は、今の状況には不似合いな、照れたようなはにかみ笑顔を浮かべ、そのまま呼吸すら貪るように唇を塞いだ。
そうでなくても腹筋が痙攣していて息が苦しいのに、そんな事を歓迎するはずもない。今は無理だ。そう訴えたいのにいつの間にかシーツを引っ掻きまわしていた手まで捕まって、もはややめろと訴える術すらない。
「ぅう、んぅ、ぅ゛ぐ♡」
咥内をいいように貪られながら、恥骨同士をぴったりくっつけたまま腰を揺すられる動きまで加わった。堪ったものではない。もう全然、私のキャパシティはいっぱいというか、飽和していて、これ以上はどう考えたって無理なのに。なのになんでまだプラスで快感を捻じ込んで来るのか。意味が分からない。
「っ、かわい、どうしよ、俺こんな変な性癖ないつもりやってんけど、っ、はっ!アヘ顔してんのめっちゃちんこにクる、くッ、はっ!なあちょい、後ろ向いてぇな」
「ほぁっ!ぅ、ぁっ、へぁぇっ、ぇう、ゃぁ゛っ!」
身体が動かない。びくびくと勝手に痙攣してはいるけれど、自由意思ではもう全く動かせそうになかった。
夏樹は、ずるりと彼のモノが抜き去られた感触だけでちょろちょろと潮を溢れさせる私を、実に軽々しく、ころりとひっくり返した。そしてうつ伏せになった私の腰を両手でがっしりと掴み、ずりずりと自分の方へと引き寄せる。
「休、む、ぁっ、一回、休むぅ゛!」
「んー、休ませてやりたいねんけど、俺もう出ちゃいそうやもん。もうちょっとだけ・・・な?」
「あッ!」
ずぷり、と一番太い部分が沼と化した割れ目を押し広げて挿入ってくる。入口を押し広げたところで侵入を止めてはくれたものの、そんな状態で体が休まるはずもない。
「ふっ、っつ、っつぁあッ」
「はーっ、熱っつい、あ゛ー・・・奥まで挿入ったらあかん?」
「ふーーーっふっんふぅぅッ」
顔の周りにあるシーツを搔き集めて顔を埋め、必死になって呼吸を整える。割れ目が、私の入り口が、もっと寄こせとねだるように、彼の先端を食い締めている。その動きをありありと感じてしまうのが恥ずかしくて、だけどものすごく欲しくて。
体と脳みそはもう限界だと悲鳴を上げているのに、本能は夏樹を求めて止まない。いい加減にしてほしい。ほんとにもう無理なのに。
「なぁ」
「ぁっ」
腰だけを高く上げた体制のまま、彼が私の背中に密着するように身を屈めた。耳元にそっと熱い息を吹きかけられる。その熱い吐息と共に、低く潜められた声が耳の中へと入って来て、私は全身の毛がぞくりと逆立つのを感じて小さく呻いた。
ただ囁かれたというそれだけの事に、身震いするほどの興奮を感じてしまう。
「ぁっ、ぁ、なつ、きぃ」
「おるよ、ここにおるから安心し。もうずーっと一緒やしな」
大好きな声が、まるで迷子の子供に言い聞かせるように囁く。
シーツを弄っていた手が、彼の大きな手に捕まる。
あ、あ、手ぇ大っきぃ、やば、これ捕まったら私逃げられなくなっちゃうっ。
「もうちょっとだけ挿入れてい?」
「ぁ、ぁ、ぅ、ぅうっ」
ダメって言いたい。言いたいのに言えない。だって腰が揺れてる。もっとって腰揺らしちゃってるのは私の方だ。もうダメなのに欲しい、おちんちん奥まで欲しいっ!
至近距離から覗き込んで来る暗い朱色をした目。優しくうっとりと眇められていて、でも余裕なさそうに眉根を寄せていて、それが堪らなく色っぽくて可愛い。
その目を見てたら、ぐんっと一気に欲の方へ天秤が傾いてしまった。
「んっ――――はっぁっ!ごりごりぃっ!」
「はっ、とげとげ気持ちぃもんなぁ?は、くっ」
トゲトゲで膣壁を抉りながら、彼のモノがじっくりと時間をかけて私の中心を押し広げていく。ゆっくりと、でも確実に奥へと進んで来る動きは止まってくれない。
「ふっ!ふぅ゛っ!んむぅぅっ、ッ」
「あかんやろ、ちゃんと膝立てて?な?」
がくっ、と膝が折れて寝バックの体勢になりかけたけれど、彼の片腕が腰に巻き付いて支えられ、体勢を崩すことが許されない。
やば、あ、やばい、これだめ、いいとこ当たっ――――ッ、!
「とげとげやぁあっ♡」
「あっは!トゲトゲいややなぁ?でも困ったなぁ、これ初期装備やねんな」
夏樹はおかしそうに笑う。
その彼の顔がゆっくりと視界から遠ざかる。少し体が離れ、汗に濡れたうなじを、髪を掻き上げるようにして撫で上げられる。ぶわりと肌が粟立った。
「っあ、あ゛ッ」
「ごめん、ちょっとだけ・・・ちょっとだけ噛ましてや」
「ひぐっ!?ぅうぅうぅうう゛ッ!!♡」
かぷ、とそれなりの強さでうなじに噛みつかれ、それと同時に抉るように子宮を潰されて、私は泣きながらシーツへしがみつき、強い絶頂感に飲まれた。
何処までが絶頂かそうじゃないのかが曖昧になっていたけれど、今のは分かる。確実に今までで一番深い。昇り詰めた先から抜け出せない。
もうイってるのに、夏樹はうなじに噛みついたまま、ゆるゆると腰を振る。猫の唸り声のような音が背後から響く。私たち今、獣みたいな交わりをしてる。それってなんて・・・なんて――――ッ!
「ぅう゛ーーーーッ!!♡」
唸り叫びながらシーツを食い千切らんばかりに噛みついた。興奮が臨界点を超えている。頭が茹って悲しくも嬉しくもないのにぼたぼたと涙が溢れてきた。
ちゅぷっ
ちゅぷぷっ
ぷちゅんっ
ず――――ばちゅんっ!
「ふぉ゛ッ♡」
ゆらゆらと揺れていた腰が、唐突に強く、お尻の肉が潰れてしまうくらいに強く叩きつけられ、その衝撃で、既に深い絶頂から下りられなくなっていた私の脳みそが、ついに限界を迎えた。
お腹の底で吐き出された熱と、もはや何かも分からない液体を漏らした感触だけ生々しく感じながら、ぐるりと視界が上向き、暗転し、一度だけかすれた声で名前を呼ばれたのだけなんとなく認識しながら、私の意識は今度こそ完全に暗闇に囚われたのだった。
+ + + + +
「はっ、はぁっ・・・はっ・・・くっ」
七瀬夏樹が乱れた呼吸のまま腕の力を抜くと、彼女の体はずりずりと崩れ、ベッドへと沈んだ。
彼は何度か彼女の名を呼んだけれど、彼女はもう、うんともすんとも言わない。もう無理だと訴える彼女を言いくるめ、丸め込んでここまで事に及んでいるのだ。まさか意識を飛ばした彼女に文句を言えるはずもない。
「はぁっ、なー、まだ寝んといてよぉ」
それでもあきらめの悪い男は、ゆさゆさと彼女の肩を軽く揺さぶる。が、そこまでの強さもなく、また本気で起こそうという強さもない。
「ああもう・・・」と本人のやりすぎが問題なのに、まるで反省した様子もなくぼやきながら、七瀬はずるりと彼女の中からその凶悪な見てくれの陰茎を引き抜いた。
大まかな形は人間のそれと変わりないが、その根元部分を中心には棘のような突起物がびっしりと生えている。棘の先端は丸く、内部を傷つけるような構造ではないが、それでもなかなかに人間離れしてグロテスクな形状をしていた。
舌もそうだが、性器もまた猫のそれと似通っている。だが人間の物とそう遠い訳でもなく、猫と人間の特徴を混ぜ合わせ、都合よく改変された肉体であるように感じられた。
七瀬は、彼女の体をくるりと仰向けに直すと、うっそりとした笑みを浮かべた。白目部分が暗い朱色に塗りつぶされた猫の目が、怪しい光を内包し、彼女の腹に刻まれた刻印を舐めるように眺める。
浮世絵に描かれるような車輪と炎の柄が、彼女の子宮の真上にしっかりと刻まれていた。それは彼が成り果てた妖怪の正体を現すに相応しい図柄であり、そんな柄を腹に刻むなど、独占欲の発露以外の何物でもなかった。この刻印は決して夫婦を表すための物などではない。どちらかと言えば、被支配者に刻まれる所有印に近しいものだ。人間がその身に刻まれれば、支配者が望むまま、人の理から外させることが可能な程度には物騒な代物である。
視線だけでは足りなかったらしく、彼はその刻印に口づけ、更には舐め上げ、深い呼吸を繰り返す腹に、満足そうに頬ずりをする。
「やぁっと俺のになった・・・あんたを抱いた他の野郎どもの記憶はこないだぜーんぶ焼き消したったわ。あんたかて、どいつの顔も名前もぜーんぜん覚えてられへんかったやろ?」
寝物語でも聞かせるような穏やかな声色で、七瀬は己の、随分と人間から離れた思考を吐露していく。
「なあこれ、俺の妖気に反応するんやで?」
「っ、んっ・・・ふ、ぅ」
寝そべった姿勢のまま、ずるずるとベッドを這い上がり、彼女の横に寝そべりながら、彼はその腹の模様の上をゆっくりと指先で辿る。黒かった車輪模様が、熱したガラスのような色へと変わっていく。それは彼の、化けの皮が剥がれた本性の髪色とうり二つの色だった。
「あーあ、これ意識なくても発情できんねんなぁ。ほんま便利。なあ、起きたらどんな声で啼いてくれるんやろね?起きるまで体中弄り放題やなぁ?」
実に妖怪らしく、けらけらと愉快そうに笑いながら、七瀬は意識のない彼女の唇を、そうっと優しく塞いだのだった。
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